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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
冬休み/暖かな時間を君と
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160.少し違う日常へ

「えへへ……」

「ん?」

「また、いっぱい好きってされちゃった」

「まあ、事実なので」

 表情を蕩かせつつ前髪を直す仕草を見ながら、これは俺が原因というよりは桃香が甘え過ぎるから……と誰に言うでもない言い訳をしながら、試しに聞いてみる。

「これだけしておけば」

「うん」

「充電充分で明後日からも平気……か?」

「むり」

 隼人が言い終わる前に、重ねるように断言をされる。

 そう言われるとは思っていたし……正直、その方が多少困る程度で大いに嬉しい。

「多分これは朝晩と帰宅後すぐに必要だから」

「燃費悪すぎだろ」

「これでも譲歩してるんだけどな」

「おーい」

 部屋の隅に丸めて片付けてある充電ケーブルをちらりと見ながら呟く。

「……今まではどうしてたんだよ」

「今話しているのは明後日からのことでしょ?」

「まあ、うん」

 それはそうだ、と少々言いたいことはあるものの納得して……。

「そういえば、桃香」

「うん」

「一応聞いておくけど……例えば、伊織さんたちには?」

 確か七夕の日にだったか、桃香がもし隼人と交際したなら三日と隠せないだろう、と指摘されたことを思い出す。

 そして多分、それは間違いなく正しい……と隼人も思う。

「まだ、だよ」

「なのか」

「そこはきちんと会って言いたいから、ね」

「ああ……」

 ちょっとだけ意外だと思いつつも確かにその通りか、と頷きながら。

「みんな、帰省とか親戚とのご挨拶とかで冬休みの間は日が合わないから」

「ふむ」

 何とはなしに壁に掛けたカレンダーと、箪笥の上のまだ開いていない鏡餅に二人で目を遣りながら。

 短いようで長い年始は今日で漸く一月七日。

「今度の週末にお昼込みでお出かけの約束はしてるけど」

「なるほど」

「だいじょうぶ?」

「ん?」

 悪戯っぽい囁き声でまた耳打ちされる。

「その間、はやくんさみしくない?」

「俺、どれだけ桃香のこと好きなんだよ」

 思わず口から出た後、付け加える。

「いや、好きなんだけど……さ」

「えへ、ありがと」

 それでも、と気持ち顔を引き締めて。

「一週間会えないとかじゃない限り平気だ……」

「は、や、く、ん」

 そこまで言ってから、桃香の何とも言えない……とりあえず良く言うなら得意げな表情に気付く。

「ほんとに?」

「……ごめん」

 つい先日、三泊四日で駄目だったことを思い出す。

 何なら、二泊目の辺りでそこそこ怪しかった。

「精々、一泊だな……」

「うん」

 本当、去年まで一体どうしていたんだ……と思っている所に。

 嬉しそうに頷いた桃香が、耳に口を寄せて囁いて来る。

「そのうち、もうちょっと短くじゃないと駄目にしてあげるね」




「ええと、それで、なんだけど」

「ああ」

「花梨ちゃんたちには、きちんと言わないと、って思ってるの」

 真面目な表情に、あと距離もそれなりに適正なものに戻って、桃香が口にする。

「その、多少強引なことをされそうになった時とか、色々、助けてもらったりとか……したし」

「……」

「はやくん、お顔こわいよ」

「仕方ないだろ」

「みんなのおかげで、大丈夫だったから」

「……うん」

 やっとのことで、頷く。

「これからは、はやくんが居てくれるでしょ?」

「当たり前だろ」

「うん」

 嬉しそうに頷き返してから。

「そんな大事なお友達、だから」

「ん……」

「それに、みんな普段はああだけど」

 桃香が人差し指を立てて言う。

「内緒にしたい、って言えばそうしてくれるよ」

「まあ、それはな」

 色々とからかわれたり遊ばれたりはしているものの、その辺りはきちんとしてくれているのは隼人もわかっている。

「逆に、はやくんは」

「ん」

「結城君たちに言わなくてもいいの?」




「……すっごいいろんな顔したね」

「ああ、自分でもそう思う」

 一分ばかり可笑しそうに隼人の顔を見ていた桃香が堪え切れずに吹き出す。

「えーっと……内緒にしつつひとり占め、したい感じ?」

「……それはもうさせて貰っている、だろ」

「うん、そうだね」

 笑いながらまた腕の中に入り込んでくる桃香に、ぼそりと返す。

「いや、友達だからそこら辺は言うべきだ、とは思うんだ」

「うんうん」

「けど、何というか……何って言えばいいんだ?」

 片手で桃香の背中に触れながら、もう片方で自分の後頭部に軽く指を立てる。

「桃香のお父さんお母さんにはきちんと報告しなればと思っていたし……姉さんたちにも後が怖いから言うべきだとは思って」

「はやくん、きちんと言ってくれたと思ってるよ」

「……一杯一杯、だったけどな」

「そうだったの?」

「そうだよ」

 当たり前だろ? と少し顎を出しながら苦笑いすれば、桃香がそっと頬をあやすように撫でてくれた。

「望愛ちゃん詩乃ちゃんは?」

「……さっきのは、その、成り行き」

 嘘は絶対に言いたくないからとはいえ、堂々と宣言してしまったな……と。

 またぞろ頭の中が絡まりながらも、絞り出す。

「クラスだと……その、若干今更、というか」

「だいぶ、今更かもね」

 例えば体育祭の借り物競争、例えば七夕の日の一騒動。

 何で今までもそうじゃなかったんだ、という意見を言われれば反論の仕様もなく……妙に頑固だった自分のせいです、と反省するしかない。

「だよな……」

「わたしたち、ずっと仲良し、だもんね」

「何で桃香はそんなに堂々としてるんだよ」

「ホントのこと、だからだよ?」

 誇らしげな桃香に苦笑いしながらも、続ける。

「例えば、だけど」

「うん」

「付き合い始めましたー、とか言いながら教室行くのはただの馬鹿だろ?」

「そんな陽気なはやくんもちょっと見てみたいけど」

「勘弁してくれ」

「うん」

 あれ? 六割くらい本気にしてないか? といった笑顔の桃香に慌てて否定すれば素直に頷いてくれた。

 ひとまず、やらなくて良いらしい。

「じゃあ、手を繋いで、いく?」

「教室まで?」

「そう」

「……普通に流されそうな気も、する」

 言ってから、今までの自分たちを省みて、そして今俺は何を言っているんだ……と頭を抱える。

 確かに学園祭や体育祭の時以外に校内でそうしたことは無いつもりだったが、桃香との距離はほぼ変わらない。

 今日はいつも以上に仲良いなー……と言われて終わりそうだし、そういう発想に至る自分に頭が痛くなってくる。

「じゃあ」

「……ああ」

「これなら、どうかな?」

 桃香が笑顔で腕をぎゅう、と抱き締めてくる。

「確かに、これなら一目でそうだな」

「でしょ?」

「……でも」

「わ……」

 桃香の少し驚く声で、自覚のある自分の表情を確認する。

 かなり熱を持ってしまっているのだろう。

「誰も知らないところでならともかく……学校でこれは、駄目だろ」

「二人だと、はやくん……けっこうすごいのに」

「……言わないでくれ」

「ふふっ……」

 そっちは絶対に楽しんでいるよな? と言いたくなる表情で桃香が頬を緩める。

「それじゃあね」

 それこそ大方のクラスメイトに言われていた通りに。

 敷かれている……というか、実際胡坐をかいた足の上にそっと座られて。

 至近距離でにっこりと確認をされる。

「どうしよっか? わたしの彼氏さん」




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