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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
冬休み/暖かな時間を君と
177/225

158.お年頃の興味

「はーやーとー、おーい、はーやーとー!」

「お兄ちゃん、お兄ちゃーん」

「……あ、あはは」

「はぁ……」

 画面の向こうから聞こえてくる呼びかけの合唱に、咄嗟に天井に向けたセルフカメラに続いて天を仰ぐ。

 気付かなかったのも悪いが、諸々と、タイミングの神様の意地が悪い。

「ええと……桃香」

「うん」

 隣にだけ聞こえる声量で呼びかけると、言いたいことを察してくれた聡い笑顔が返ってくる。

「はやくんに、お任せするね」

「ああ」

 自分側の従妹なので、ここはひとつ息を吸ってカメラの向きを直す。

 勿論、桃香は映らない方向で。

「二人とも五月蠅い」

「あ、戻った」

「ねー、なんで隼人しか映ってないし」

 一応苦言を呈する体から入ったものの、二人ともそんなことを気にする風も無かった。

 それは当然そうだろうな、と納得はするものの。

「別に、俺に通話してきたんだろ?」

「とんでもないものを見た気がするから」

「それどころじゃないし」

「……」

「ねー、お兄ちゃん」

「今のすっごく可愛いお姉さん、誰よ?」

 うわこいつら息ぴったりだ……と感心しながら、覚悟を決める。

「誰って……俺の」

「お」

「む」

「俺の彼女、だけど?」

 言い切りながら、再度指でスピーカーを押さえて向こうから聞こえてくる歓声を軽減させる。

 させながら、隣を見れば。

「えへ」

 若干照れながらも誇らしそうな笑顔と目が合った。




「じゃあ、そういうことなので」

「わー、待った待った!」

「お兄ちゃん、さすがにそれはない」

「何でだよ」

「隼人こそ何でよ!」

 言いながらも、通話を切らせてもらえるとはこれっぽっちも思ってはいない。

 中学一年生女子には格好の興味の的だとは隼人にもよくわかる。

 つまり、内心ではもうある程度諦めていた。

「っていうか、つい一週間前は彼女いないって言ってたじゃん!」

「……逆に言えば一週間経っただろ」

「え? あ、そういうコト」

 きょとん顔で納得した望愛が押されて画面の中の詩乃との比率が入れ替わる。

「お兄ちゃんお兄ちゃん」

「何だ?」

「どっちから、言ったの?」

 また直球で聞いて来るな、と思いながらもそこは誤魔化したくは無いので。

「……俺からだよ」

「「おー!」」

 ビデオ通話の向こうから盛大に拍手される。

「わー」

 ついでに、隣からもとてもとてもにこやかに。

 生まれる何とも形容しがたい感情に、最近地味に気にしているらしい桃香の父さんが見れば目を剝くだろうなと思うくらいぐしゃぐしゃと前髪を掻き回してから。

「じゃ、もういいか?」

「は? 何言ってんの!」

「お兄ちゃんに聞きたいこともそれなりにあるけど」

「メインがまだまだでしょ!」

「……お前ら」

 嘆息する隼人なんてそれこそどうでもいいとばかりに迫られる。

「お姉さんがよかったら、だけど」

「できればお話したいなー!」

 こいつら物怖じとか遠慮とかないのか……と溜息が出るものの、普段は割ときちんとしているので、つまり興奮しているのか、と嘆息する。

 ともあれ、このままでは大人しくしてくれなさそうなのは理解できるし、放っておくとあることないこと従姉妹ネットワークに言いそうなので。

「ええと、桃香」

「うん」

「桃香さえ問題なければ、ちょっと相手して貰っても……いいか?」

「うん、いいよ」




「えっと、こんにちは」

 二人で過ごす際に音楽を流すときに使うスタンドに乗せた画面に向かって、ちょっと余所行き感のある、丁度普段と看板娘モードの中間くらいで桃香が軽く会釈してから微笑みかける。

「わ、わ……ほんとにお兄ちゃんが女の人と一緒に居る」

「しかも見せてもらった写真よりずっと可愛いし……」

「のあ、お姉さんに可愛いは失礼なんじゃないかな」

 言いながら画面の向こうの詩乃の問いかけるような視線に桃香が頷く。

「はやく……隼人くんと、同い年だよ」

「あ、そうなんですね」

「ええと、あらためてはじめまして……綾瀬桃香、っていいます」

 名乗った後、一瞬だけ視線を隼人に合わせてから。

「隼人くんと、お付き合いしています」

 望愛と詩乃の黄色い歓声を聞きながら。

 ある程度覚悟して主導権を渡したけれど初っ端からかなりの羞恥に、やはりまずかったかと額を押さえるのだった。




「望愛ちゃんと、詩乃ちゃん、ね」

「そうでーす」

「はい」

 内心で悶えているうちに、望愛と詩乃も自己紹介をしていて。

「えっと、よろしくお願いします……でいいのかな?」

「いいと思います!」

「こちらこそです」

 自分と関係の深い女の子たちが仲良くなってくれそうなのは好いな、とそこには安堵したところで。

「ふたりは、こんなお顔してたんだね」

「え?」

「私たちの事、知ってたんですか?」

「えっと、去年お電話があった時もいっしょにいたから」

「隼人?」

「お兄ちゃん?」

 早速二人の疑いの眼差しに、埋もれている爆弾が多数なことを思い知らされる。

「まあ、タイミングが偶然そうだったこともあるだろ」

「桃香お姉さん!」

 わざと咳払いをする隼人を無視して、望愛が桃香に手を上げて質問をする。

「はい」

「まさかその時もお姉さん、隼人の部屋に居たの?」

「ええっと……あの時は、わたしの家だったはず」

「桃香……」

「お兄ちゃん?」

 何もそこまで正直に、と映らないところでそうジェスチャー等で伝えたい隼人だったが、低くなった詩乃の声に肩を掴まれる。

「お付き合いとかしてないと言いつつ、女の人のお家に上がり込んでたの?」

 ついでに三食作って貰っていました、等とはとても言い出せる状況ではなかった……流石に、そこまで言う気はないけれど。

「まあ、そういうことも……あるだろ」

「普通無いよ!」

「えっと、わたしたちお隣さん同士だから」

「はああああぁ!?」

「望愛、五月蠅い」

 やはり桃香を見せたのは悪手だったか、と思いながらもいずれ来ることだったのが今か、と心の中で溜息を吐く。

 そうしてから、いずれとは何だ、と複雑な気持ちを抱かされる。

「つまり、幼馴染、ってコト?」

「まあ、そうなるな」

 頷くと今度は詩乃が口を開く。

「お兄ちゃん、そういうの全く聞いてないよ」

「……言わなきゃいかんかったか?」

「……そういうわけじゃないけど」

「でもずっと昔からこんなかわいいお姉さんが近くにいたなんて聞いてなーい」

 また画面の中での比率を七三で逆転させながら望愛が割り込んでくる。

「そりゃ、隼人ほかの女の子に興味示さないわけだ」

「……」

 何ともコメントに困る言葉に黙ってしまうが、こっそり画面の外で桃香が手を握ってくれた。

「その、興味がないは、言い過ぎだろ」

「……確かにそうみたいだね」

 興味の範囲が、特定だっただけだった。




「ほら、二人とももう良いだろ」

 このまま放っておけば望愛と詩乃の話題は尽きることは無いだろうし、桃香は桃香でわりと素直かつ正直に答えてしまいそうで。

 頃合いと見て打ち止めにしようと掛かるものの。

「あ、もう一つだけお姉さんに質問」

「私も私も」

「えっと、何かな?」

 そうはさせじと勢い込んで二人が手を上げる。

「……どっちかにしろよ」

「あ、大丈夫大丈夫」

「たぶん、望愛と同じたと思うよ」

 企み顔を見合わせた望愛と詩乃が、一転にこやかに桃香に尋ねる。

「お姉さんはいつから隼人のことが好きなの?」

「お姉さんはお兄ちゃんのどこが好きなんですか?」

「ほえ?」

「ん?」

「あれ?」

 それぞれの驚きポイントできょとんとした顔をする三人に、思わず隼人の声も大きくなる。

「何を言ってやがるー!」




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