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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
冬休み/暖かな時間を君と
176/225

157.片想い、だったっけ?

「なあ、桃香」

「うん、どうしたの?」

「その、さっきから……」

 全く進んでいなくも無いものの、それでも遅々として話が前に行かないのは。

「わざとじゃないよ?」

「だよな」

「ただ、はやくんが優しくしてくれそうなときは逆らわないだけ」

「ん……」

 じゃあそれは常にそうしたいのだから仕方ないのか? とむず痒い責任に頬を掻いたところで。

「最近のはやくんはとっても優しくて大好き」

「……」

 そう囁いて桃香が笑顔を近付けてくる。

 いや、やはりこれは共同責任で桃香にも三分の一……いや、四割くらいは? と思いながらも考える前に再び桃香の両肩に手を置いた、ところで。

「「!」」

 突然炬燵の天板の片隅から激しいバイブレーション機能の振動に咄嗟に手とお互いの身体の距離を離す。

 一応階段の下は注意していたものの、そちらは完全にノーマークだったため非常に心臓に悪かった。




「これは……」

 良い所だったのに、が三分の二。

 残りは流石にここであの半永久ループから抜け出すべきだろうで……そんな気分で画面を覗く。

 その隣で、こちらは残念八割といった表情の桃香が首を傾げる。

「誰かから?」

「いや知らない番号なんだけど……でも、多分」

 ただ、覚えのある展開と日付的に思い当たる節が無くも無かった。

「えーっと?」

 不思議そうに逆に首を傾けた桃香に確認する。

「その、後でしっかり……埋め合わせるので、少しだけ出ても良いか?」

「えっと……うん」




 許可を得たところで応答を選択して話し掛ける。

「もしもし」

「あ、もしもーし、お兄ちゃん?」

「やっぱり、望愛か」

 想像通りの相手に、名前をしっかりと発音すれば聞き覚えがしっかり残っていたのか桃香も納得の表情になってくれる。

「誕生日明日だから、詩乃に続いて買ってもらったってところか」

「そうそう、登録よろしくね」

「わかった」

 見えるはずがないのに頷いて、それに桃香がちょっとおかしそうな表情見せたのを横目に見ながら。

「じゃあ、またメッセージとかするからな」

 了解了解、と切ろうとすると。

「え、お兄ちゃんちょっと冷たくない?」

「いや、そんなことはないし、里帰りから一週間も経ってないし……料金、かからないか?」

 そこまで設定を高くしていない室温の中でじんわりと汗を感じたところで。

「もしかして、お出かけ中?」

「いや、自分の部屋にいるけど」

「じゃあいいんじゃないかな?」

「……」

 どうしたものか、と考えたところで。

「もしかして、誰か遊びに来てるの?」

「あ、ああ……とも」

 だ、が口の形までなったところで、いやそれは違うと思い止まると同時に、桃香に思い切り強めに袖を引っ張られる。

 ちらりと横目で表情を確認すればかなりの御不満に尖った桃色の唇が確認できる。

「あ……まさか」

「さては隼人新年早々がんばってお誘いして」

 端末の向こうで望愛の訝し気な声色の後ろから軽く息を吸う音が聞こえて咄嗟に耳から離す。

「例の片想いの女の子が遊びに来てくれているとかー!?」

 もしかしているだろうと思っていた、底抜けに明るい詩乃の声だった。

 そしてその声量は流石に内容が内容だけに彼女比で結構抑えたものだった、けれど……今までの経験から反射的に顔から間を空けた関係でしっかりと桃香にも聞こえていたらしく。

「……」

「……」

「両想い、でしょ?」

 じっと目を見ながら一応向こうには聞こえないくらい小さくそう囁く桃香に、思い切り空いている腕を抱き締められる。

「あ、ええと……」

「お兄ちゃん?」

「なぁに?」

「どしたー?」

 許容一杯の状況の中でも、それでも優先順位だけははっきりとしていて。

「とりあえず、スマン」

 電波の向こうに一言だけ言ってから、通話終了のボタンをタップした。




「一応、弁解をさせてください」

「はい」

 先日の里帰りの際に七輪で焼いた餅もかくやと見事に膨れている桃香に正座して向き直る。

 話は、聞いて貰えるらしい。

「その、服装の見立てをしてくれるくらい仲の良い女の子が居るのじゃないかと疑われたのは一昨日言った通りなんだけど」

「うん」

 桃香的にプラスポイントの話題なのか、即効で少しご機嫌が持ち直す。

「その時はまだ、桃香と付き合っていたわけではない……ので」

「むー」

「向こうで、そういう体だと受け取られた内容を否定できなかった、だけ」

「……」

 すっ、と桃香の指先が隼人の鼻に当たる。

「ちゃんと」

「うん」

「わたしがはやくんのこと大好きなのは、伝わってたよね?」

「当たり前」

 鼻先に来ていた桃香の手を両手で包む。

「単に、面倒臭い奴だった俺がきちんと受け止められていなかっただけ」

「……うん」

 そのまま少し顔を前に出して、お互いの鼻先だけを触れさせる。

「わ」

「桃香を寂しい気持ちにさせて、ごめんな」

「ううん」

 桃香が首を横に振って、笑って返事をしてくれる。

「ちゃんと、わかってくれたから……だいじょうぶだよ」

「ああ、ありがとう」

「だから、その……」

「ああ……」

 桃香が指差した先にある一旦避けて置いてあった、先程から怒涛の勢いで震え続けているスマホを苦笑いしながら拾い上げる。

「従妹さんたちに、ちゃんとお返事してね」

「ん、ちょっとだけ、ごめんな」

「ううん」

 さて、この返事までのタイムラグをどう説明したものか……等と考えながらだったため。

 あれ? と若干さっきまでの着信と表示が違うようなと気付きはしたものの、深く考えずに応答のボタンに指が伸びる。

「あ、はやくん」

「ん?」

「それ、ビデオ通話がきているんじゃ……」

 その為、桃香の指摘も間に合わず……。

「へっ?」

「わ」

「あ、お兄ちゃ……?」

「ねー、はやー……!?」

 このような通話の場合、フリーズするのは大抵画像の方だけれど。

「「「「あ」」」」

 しばし固まる四人のうち、百面相した詩乃の口が動き始めそうなことに反応した隼人が慌ててカメラとスピーカー部分を押さえた、ものの。

「はやとが部屋に女の人連れ込んでるー!」

 人聞きが悪いわ! と言い返したくなる詩乃の絶叫が隙間から部屋に洪水の如く溢れた。

「しかもめっちゃかわいい!」


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