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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
冬休み/暖かな時間を君と
174/225

155.懸念事項

「え、えーっと、ね」

「……ああ」

 口は離したけれど隣り合って手を取り合いながら……さすがに赤くなった桃香に。

 少し赤裸々に言い過ぎたか? と我に返って発言を省みていると。

「わたしも、はやくんと、いっしょ」

「なら、よかった」

「うん」

 額を肩に当てて囁くように伝えてくれた桃香に安堵する。

 そのまま互いの息遣いを聞いていると、また二人だけ用の声量が聞こえた。

「すごいね」

「ん?」

「彼氏はやくん、ものすごい……えーっと」

「ああ」

「威力、だね」

「そ、そうか……」

 威力って何だよ、と思いながらも。

 つまり、効果があることだよな……と反芻してから。

「……いい意味、だよな?」

「うん」

 一応念のため、確かめれば笑顔で即座に肯定されて。

「でも、ちょっとびっくりも、してるかも」

「だよな」

 自分でも確かに今までと違うのは自覚している。

「……付き合ってもらえたことに満足せずに桃香にもっと好きになって貰いたいし、その為に気持ちを伝えるのが大事だよな、と思ってる、わけだけど」

 色々口上はあるものの。

 つまるところ、もう一つ根本的な理由があることに自分で薄々感付いていた。

「あと」

「うん」

「ずっと前から好きな子が彼女になってくれて」

「……うん」

「舞い上がってるんだよ」




「えへ」

「……」

「えへへ……」

 さっきの発言の際にはまだ交際初心者のため逸らしてしまった視線を桃香の方を伺いつつ徐々に戻せば。

「そうなんだ」

「……」

「はやくんも、そうなっちゃってるんだ」

「……そうだよ」

 ゆっくりと蕩けていく顔を見ることになる。

「はやくん」

「ああ」

「実はね……わたしも」

 秘密のように囁くけれど、それこそ表情が言葉より雄弁だった。

「はやくんのこと大好きで、わたしのこと好きになってほしいな思ってるよ」

「……知っているよ」

 それに上手く応えられていなかった自分を思い切り後悔しながら答える。

「その、それこそ……ずっと前から」

「えへへ……ベテランだから」

「実はも何も、ないくらいだろ」

「そうかもね」

 ちょっと胸を張った桃香が、鼻先を突いて来る。

「でも、改めて知って欲しかったの」

「……心に刻み込むよ」

「よろしくね」

 にこりと笑った後、もう一度鼻先に触れられる。

「はやくんは……そこはちょっとへたっぴさんだから、うれしいけど、いきなり無理はだめだよ?」

「多少は頑張らないと、と思ってるだけだよ」

「そっか」

 にっこり頷いてから、再度桃香がふわりと近付いて耳打ちしてくる。

「ほんとはね」

「ん?」

「頑張ってくれるはやくんを、ひとり占めしたいだけ」

「……言われなくても桃香専用で限定だよ」

「やった」




「えへへ……」

「ん?」

「また、ぎゅうってされちゃった」

「まあ、してるんだけど……」

 一応さっきまでと違って座った状態で抱き寄せてるぞ……とは思うものの、そうじゃないと引っ込める。

「だって」

「うん」

 ああいう話をしたら。

「こうしたく……なるだろう?」

「なっちゃうね」

 パーカーの鳩尾辺りを握られた後。

「あ」

「どうした?」

「ちょっといたずら、してもいい?」

 桃香の質問、というか何かをするという表明に。

「あんまり変じゃないことなら」

「だいじょうぶだよ」

 くすくす笑いながら。

「えいっ」

「お」

 腹付近のポケットに、桃香の手が差し込まれた。

「あったかい」

「まあそりゃ……さっきまで炬燵に入ってたしな」

 桃香に抱き締められた後、そちらを向いているうちに外に引きずり出された格好ではあるけれど。

「ぬくぬくー」

「おーい」

「許可はもらったもんね」

「そうかもしれんけど」

 割と気に入ったのか、体勢を調整してもう片方の手まで入れて中でセルフ握手をしたりして遊び始める。

「あ、そだ」

「ん?」

「はやくん、おなかに力入れられる?」

「まあ、わかった」

 座りながら桃香を支えながらでしっかり全力とはいかないまでも、リクエストに応える、と。

「やっぱり」

「!?」

「しっかり六つになってる」

「……一応、多少のトレーニングはしてるからな」

「すごいすごい」

 布地越しとはいえ身体の触れ心地を無邪気に褒めてくれる桃香に。

 さっきの今でそれは本当に勘弁してほしい……と思いながらも、こっちが無駄に意識しているだけだろうと冷静になるよう努めるのだった。




「あー、あったかかった」

「それは何より」

「あと、楽しかった」

 にぱっと笑ってポケットから抜いた手を広げる桃香に頷いてから。

 これ以上はちょっと大変だと部屋の中央に存在する熱源を示す。

「ほら、寒いなら炬燵に戻りな」

「うん」

 おや、存外素直に言うことを聞くんだな、と拍子抜けした直後。

「えいっ」

「ん?」

 でも、逆に二の腕に桃香が肩から当たってくる。

「いっしょに入ろうよ?」

「さっきまでも一緒だっただろ」

「そうじゃなくって」

 わかってるでしょ? とばかりに。

「いや待て待て、これそもそも独り暮らし用」

「何とかなるよ」




「なったでしょ?」

「なったというのかな……?」

 一応、二人の両足は焦げ茶色の布団の下に収まったものの。

 炬燵机の脚の一本は胡坐をかいて三角形になっている隼人の脚の中央に刺さっている。

「なったの!」

 少なくとも言えることは、普通に入っているよりも間違いなく温かい。

 片側だけ、だけれど。

「まあ、いいのか」

「でしょ?」

 多少どころか大分狭いけれど、何かをするわけではないので桃香と密着ならお釣りが出る。

「ええと、それで話は少し戻すんだけど」

「わたしがはやくんのこと大好き、ってお話かな?」

「そう来たか……」

 確かにそういう話題はしたけれど、どちらかというと向きが逆では? と声色に出せば。

「わたしの方が、好きだもん」

「……かも、な」

 自信満々に言い切られるし、確かにそれに反証は難しそうだった。

「一応、俺からもしっかり大きいんだけど」

「だいじょうぶ、ちゃんと教えてもらってるから」

「良かった……って、いやそうじゃなくて、更にその前」

「うん」

 元気な返事の後で、ひそひそ声に変わって。

「はやくんは、ぎゅうってするのとされるの、どっちが好き?」

「待て待て待て」

「どっち?」

 炬燵の中で膝の辺りをぽんぽんとされながら……これは絶対、答えないと他の話題を許してくれない奴だと確信する。

「されるのもとても嫌いじゃ、なかったけど」

 一瞬視線がセーターの生地に行った自分を脳内で平手打ちしてから。

「やっぱり、桃香は抱き締めたい、かな」

「そう?」

「何というか」

 膝の辺りで遊んでいた桃香の手を握ってから、続ける。

「桃香をそうしていると大事だな、大切にしないとな……って気持ちになるから」

「わ……」

 握っていた手が、握り返される。

「わたしも、はやくんにそうされてるとどきどきももちろんするけど、すっごく……安心もするの」

「なら、よかった」

「うんっ」

 もう一度しようか、としてもよかったけれど。

 桃香の頭が肩に預けられたので、軽くもたれ返すことで返事にする。

「ええと、それで、今度こそ最初の話題に戻るけど」

「えへ……いっぱい脱線したね」

「おい」

「ごめんね」

 頷いてから、桃香がしっかり覚えていたのか教えてくれる。

「学校の、話だったよね」

「それだ」

 頷きながらも、声音からさっきの話題を戻そうとした際の寄り道は完全にわざとだと確信できた。

「その、桃香」

「うん」

「学校でのこと、なんだけど……」

「そだね」

 楽しそうに隼人にくっ付けていない方の手の人差し指を立てる。

「はやくんの恋人になった後ではじめての学校のこと、だよね?」

 全てを強調するようにはっきりした声で前提を読み上げる。

 まさかとは思うがこのテンションで学校でも過ごす気か? と抱いていた懸念を危機感に煽るくらい弾んだ声だった。




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