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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
冬休み/暖かな時間を君と
172/225

153.告白と白状

「えへへ……来たよ?」

「ん」

 玄関の戸を引いて、笑顔の桃香を迎える。

 冬の午前中なのに上着も無しに……所用二分で来れるのだから必要ないのかもしれないけれど。

 それに、桃香が部屋を出る直前、窓から合図を送ってくれたので来るタイミングも完全に把握しているけれど。

「寒くなかったか?」

「さすがにだいじょうぶだよ」

 そんなことを話しながら今の付近を通過するときに桃香がにこやかに母にお邪魔しますと声を掛ける。

 返事を返す母の方は笑顔を見せつつもやや呆れ諦めた表情をしている……まあ、隼人としても自分が当事者なことを棚に上げれば言いたいことはわかる。

 でも。

 階段を上って部屋の襖を閉じた瞬間。

「えへへ」

 仮に写真判定をしたところで判別できないくらい同時に、桃香が抱き着くし隼人は桃香の背中に手を回す。

 そのくらい、一緒に居たくて仕方のない時期だった。




「えっと……」

「ああ」

「このくらい、にする?」

「ん」

 ただひたすら抱き締めているだけの、短めの曲ならフルに流せるくらいの時間を経て。

 確かに当初の物寂しさは軽く満足させられて……というよりかは顔を見たくなった方の比重が大きく、痛くはないように力を一度込めてから手を離す。

 なのに。

「えへ」

 隼人の腕の下から背の側に回っていた桃香の手が逆に少しだけ隼人の背中に沈む。

 当然、桃香の頬も隼人の胸に強く押し付けられる。

「……こら」

「ごめんね、やっぱりもうちょっと」

 抗議するには遅すぎるくらいにまたしばらくそのままでいてから、辛うじてこんな声が出る。

「こうしてるとすっごく居心地よくってね」

「ん……」

「ずっとこうしてたくなるよ」

 甘い頬擦りがくすぐったくも心地良い。

「それは、俺も同じだけど」

「ほんと?」

「これに嘘を言ってどうする」

 結局、中途半端に離れた後、さらさらの髪を遊んでいた手が戻ってもう一度抱き締めることになる。

「俺もずっとこうしていたいし……ずっと、こうしたかった」

「!」

 腕の中で少しだけ窮屈そうながらも、ぱっと見上げてきた桃香がはにかみながら首を傾げる。

「ほんと?」

「これにも嘘は吐かない……っていうか」

「うん」

「好きな女の子なんだから、当然そうなるだろ」

「……」

 普段から聞いている吐息のような声がさらに数段蕩けたような何とも言い難い呟きが下から聞こえてきて……。

「どうした?」

「はやくんに、好きって言われちゃった」

「……そうだけど」

「うんっ」

 背中に回していた両手を片方、頭まで上げて撫で付けながら。

「ずっと好きだったけど」

「……えへへ」

 もうしばし甘えられた後、この距離でないと聞こえない声で聞かれる。

「どうしたの? はやくん」

「何が?」

「今日は、すっごくサービスされちゃってる」

「ん……」

 それは、そう思われるか……と内心で頷きながらも答える。

「大切な彼女から」

「うん」

「その方がいいと言われたので……柄じゃないのは重々承知で改善しようとしているところ」

「……わ!」

 より一層強めに抱き着かれた後で、キラキラした表情で見上げられる。

「はやくんはやくん」

「ん」

「花丸です」

「……よかった」

「とっても素敵な彼氏さんだよ」

 腕の中に包み込んだ体勢のまま、軽く背伸びして頭を撫でられる。

 今は抵抗する気すら起きず……むしろ心に正直になるなら心地よかった。




「ええと、それでね」

「ああ」

 結局、位置関係を変えるタイミングを逸したまま……また下から声が上がってくる。

「はやくんは、いつくらいから」

「ん」

「わたしのこと、ぎゅってしたいって思ってたの?」

「……あのさ」

「うん」

「聞くか? そういうこと」

 自然と手が背中を離れて、両頬を抓んでしまっていた。

「……ふぁって」

 抵抗しない桃香が、隼人が手を離すのを待ってから。

「最初にそんなこと言いだしたの、はやくんの方だもん」

「うっ」

 それは、間違いなく自覚がある。

「それに、どのくらい、はやくんに好きって想ってもらえてるかは、知りたい……から」

「……俺の彼女さんは素直過ぎるだろ」

「大好きなはやくんには、こうなっちゃうの」

 今度は桃香の手が、隼人の頬に伸びてくる。

 ただし、抓むのではなく包み込むような触り方で。

「好きって言ってもらうの、いっぱい好きだから」

「ずるく……ないか?」

「そう?」

 小首を傾げてから、桃香が瞼を閉じて小さく話し出す。

「わたしはね……いっしょに水族館行ったときくらいにはね、そうされたらいいな……ってちょっと思ってた」

「……」

「はじめの頃はちょっと大人のはやくんにびっくりして、あんまりべったりじゃないほうがいいのかな? とか思ったけどね」

 また、桃香の手が背中に回る。

「やっぱりいっしょにいると幸せな気持ちになれるから、もっともっと近くになれたらすてきだな、って思っちゃって……観覧車でちょっと期待しちゃって、七夕でがまんできなくなっちゃって……でもはやくんも気持ちはおんなじ、って教えてくれたからきっともうすぐなのかな? って」

 そしたらね、と桃香の囁きが続く。

「何かあったら連れ帰ってくれるって抱っこされちゃったり、ぎゅうぎゅうの電車の中とか学園祭のときはしっかり守ってくれたのにその後はとっても優しかったりで……えへ」

「……」

 自分でも大きくなっているのがわかる鼓動を、至近距離で聞かれている……それにはとうに気付いているけどどうにもできない。

「えへ、へ……」

「桃香?」

「どうしよう、はやくん」

「何、を?」

「そんなこと思い出したり考えたりしてたら、もっともっとはやくんのこと大好きになっちゃう」

 確かに。

 触れ合っている所が熱いのは隼人のせいだけではなさそうだった。

「その」

「うん」

「前に言った通り桃香に好きになって貰うことは俺にとって一番大切な事なので」

「……うん」

「幾らでもそうなって欲しい、としか言い様がない」

 言葉だけじゃなくて手付きでも伝わって欲しいとまたそっと抱き締め返す。

「じゃあ、なっちゃおう……かな?」

「ああ、よろしく」

「って……」

「ん?」

「思った時には、もうそうなってるのかも」

「……かもな」




「それで、ええと……」

「ん」

「はやくんは、いつからわたしのこと、ぎゅってしたいって思ってたの?」

「それは……」

 忘れてないのかよ、と思いつつも……そういうことは桃香は絶対に忘れてくれないことを一番よく知っている。

「わたしと同じくらい、とかはなしだよ?」

 ちゃんと教えてほしいな? という囁きに首を横に振る。

「いや」

「ほえ?」

「そのくらいの、水族館に行った辺りの時は……その、少し触れたい気持ちはあったけど、それよりも昔の事じゃなくて俺のことをきちんと好きになって貰わないといけないよな、が強かった」

「……まじめさん」

「言った通り、一番大切だからちゃんとしたいんだよ」

「うん、ありがとう」

 背中に少し満足した手が、片方再び髪に伸びる。

「だから、夏ごろかな……」

「そなの?」

「桃香の女の子としての魅力に、その、我慢がむずかしくなってた」

「時々、ぽろっとされちゃってた頃だもんね」

「ああ、そうだよ」

 一体俺は何を言っているんだ……と冷静な部分は思っているけれど。

「えへへ……」

 もっと桃香を満たして、こちらも満たされたい。

 そんな気持ちが勝ってしまう。

「まあ、つまり」

「うん」

「色々思うところはあったけれど……昔から好きだったんだよ、桃香の事」

「うん、わたしもすき」

「! ……ええと、ありがとう」

「うん、わたしもありがとう」




「ええと、はやくん」

「ん」

「ぎゅうより上、もお願いしていい?」

「……丁度、俺もそう思ったところだった」

「えへへ……いつくらい、から?」

「これも、つまり……ずっと前から、だ」




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