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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
冬休み/暖かな時間を君と
170/225

151.今年の展望

「はやくんは、どうだった?」

「ん」

 手を振って満足そうに戻って行った写真館の小父さんを見送ってから。

 四人それぞれ引いたおみくじを確かめていると、桃香がご機嫌に聞いて来る。

「中吉だった」

 大体、小か末がパターンな自分としては多分桃香補正で良い目を引いたなと思いながら、尋ね返してほしそうな目で見てくる桃香のリクエストに応える。

「桃香は?」

「えへ」

 完全勝訴、とでも言いたげに大吉のおみくじを広げて見せてくれた桃香が、特にここ、と指を差す。

「ん?」

 長年の願い叶う、との神様からのお達し。

 それを隼人が確り読んだだろうことを確認してから、顔を輝かせて桃香が見上げてくる。

「だって?」

「そうか」

「……」

 期待の眼差しに逆らえない。

「そうなるように、するよ」

「うんっ」

 今度は隼人の方が自分に与えられた一文を指差す。

「励めば報われる?」

「みたいだな」

「……もっと、頑張ってくれるってこと?」

「一応、そのつもり」

「えへ」

 小さく差し出して来た桃香の手に、軽くタッチを返すと。

「あらためて、今年もお願いします」

「ああ、よろしく」

 もしかして、そうなるんじゃないかとは思っていたけれど。

「えへ」

 笑顔で、そのまま逃がさずに指を絡めて、二度ギュっと握られた。




「なあ、隼人に桃香」

「うん」

「どうしたの?」

 そんな二人を眺めながら、悠がぽつりと口を開く。

「何だか今までより、仲良くなっていないか?」

「え? そうかな?」

 笑みを零しながら、桃香がちらっとこちらを見る。

 と、同時に何かを伝えるようにさっき離して下ろしたばかりの手の指先にそっと触られる。

「実は、付き合い始めたとか、か?」

「「!」」

「なーんてな? 昔から二人とも本当に仲良いから手くらい当たり前か」

「かもしれませんねぇ」

 カラカラと笑う悠の後ろで、悠の視界に入らないところで彩がニマニマと意味有り気に笑う。

「あの、姉さん」

「照れるな照れるな、今更にも程がある」

 それは確かに、と一瞬思ってしまう。

 けれどここで止まってしまっては後がさらに大変なのは目に見えていて。

 それに、今までとは絶対に違う二人なのだから。

「いや、その」

「でもな、私は昔から」

 ぽん、と並んでいる隼人と桃香の肩にそれぞれ手を置いて。

「二人がとても仲が良いのを見ているのが好きだし、桃香がずっとずっと大切にしている気持ちが叶うのがいいな、って思ってるんだ」

「えへへ……ありがと、お姉ちゃん」

 はにかんだ桃香の言葉に続いて。

 息を深く吸って、意を決して口にする。

「それでさ、姉さん」

「うん?」

「俺も……その桃香の気持ちを、勿論それ以上に桃香本人のことを大切にしていくことに決めたから」

「おお、そうだな。こんなに可愛らしくて一途だもの大切にしないなら男じゃないだろ……だからとっとと」

「いや、そうなんだけど、そうではなくて」

「何だと!? 桃香可愛いだろう!!」

「……いや、確かに、桃香は本当に可愛いと思うよ」

「もう、はやくん……」

 思わず、反応してしまったが、脱線まではいかないものの食い違っているのは明白で。

 それは曖昧な時間を長く作っていた隼人にも責任はあって。

「私が男に生まれていたら絶対に放ってはおかなかったぞ」

「……いや」

 人差し指を突き付けて来た悠に対して、真っすぐ見返しつつ桃香の肩に手を回して引き寄せる。

「わ」

「それは流石に」

「ん? んん……?」

「姉さん相手でも譲らないけど、絶対に」

「……もしか、して」

 ようやく、朧気に伝わり始めた悠に頷く。

「桃香には、俺の彼女になって貰ったよ」




「お、おおおお……お?」

 隼人と桃香の顔を交互に見たり指差したり、何度か頷いたりを繰り返した悠がぽつりと呟く。

「本当、に?」

「うん、本当に」

 確りと、頷き返す。

「やっとか」

「……はい」

「ようやくか」

「そうですね」

「遂にそうなったか」

「……お待たせしたようなら済みませんでした」

 そのしみじみと言う様に、そう言われてしまうのは仕方がないし間違いなくその要因だったのでそう返すことしかできない。

「何だか、逆に信じられないんだが」

「いや、その……改めて、こういうことなので」

「えへ……」

 言いながら、そっと隣にあった桃香の手を握って見せてみるけれど。

「それは、ずっと前からしてただろ」

「……まあ、それはね」

「じゃあ、こう?」

 今度は桃香が手はそのままでぴたりと隼人に寄り添うものの。

「桃香は昔から隼人にそのくらいべったりだっただろ」

「それは、そうかも」

 そう言った桃香が、一旦少し離れて。

「えいっ」

「……」

 思い切り、隼人の腕に抱き付いて肩の辺りに頬をくっ付ける。

「これなら、どう?」

「ああ、確かに」

 ほう? といった感じに目を細めた悠が、心の底からの笑顔を見せる。

「本当に桃香が、嬉しそうで幸せそうだ」

「でしょ?」

「よかったな……」

「うん」

「で」

 悠の目線が斜め上に上がる。

 ついでに、唇の端の方も。

「幸せ者の果報者が、こっちって訳だ」

「それは、本当にそう思うよ」

「うむ、宜しい」

 腕組みして頷いた後、隼人の方につかつか歩み寄ったかと思うと。

「大切にしてもらわないと困るぞ、私の可愛い桃香を」

「勿論そうするんだけど」

 思い切り背中を平手で張られながらも、言い返す。

「俺の彼女だし」

「ほほう!? 言うようになったじゃないか」

 また腕を組んでうんうんと恵比須顔で大きく頷いた後、後ろを振り返りながら満足気に言い放つ。

「なあ、彩……こいつは新年早々からめでたいなぁ」

「それは、間違いありませんね」

「……ん?」

 澄ました顔で頷く彩に、悠が首を傾げる。

「何か、冷静じゃないか?」

「そんなことはありませんよ?」

 澄ました顔で彩の方も首を傾げ返す。

「桃香と隼人が仲よさそうで、ついでに悠姉も満足そうで何よりです」

「……何か、マウント取られている気分になるな」

 そんな悠に彩が手で口元を隠すようにしつつも、それは振りだけで唇の端を上げた笑みを見せつける。

「ふっ……」

「んなっ!?」

「私は朝からいつも通りのように見せかけつつも初々しいカップルだな、と堪能してましたけど?」




「これは色々と」

 ゆっくりと、物言いたげな顔で振り向いた悠に。

「説明、してもらわなくちゃいけなさそうだ」

「ははは……」

 がしっと肩を掴まれた。




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