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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
冬休み/暖かな時間を君と
166/225

147.親子模様、色々

「お取込み中すみませんが」

 そっ……と彩がいつも通りの表情で顔を出す。

「お料理の方が」

「溜まっておりまして」

 彩だけではなく、お店経営のご両親も。

 結構背が高い方の彩が混じっても普通なくらい長身の御一家だった。

「あ、ご、ごめんなさい」

「細かい順番とかは大丈夫なので持ってきていただければ」

「了解しました」

「それではこちらから……」

 よくもまあ三人でカートやトレイも使わずにこの量を、という数のお皿が本来八人用のようで余裕のあるテーブルに並べられる。

「……ま、美味しく食べて頂ければそれでオッケイです」

「相変わらず大雑把な父で済みません」

 流暢な言葉使いで料理の説明をしてくれたマスターとそれをフォローした彩が言葉を切った後。

「それはそれとして」

「「「?」」」

 お店の三人がエプロンのポケットから何やら取り出した、と思いきや軽い破裂音と共に色とりどりのテープが舞う。

 勿論、きちんとテーブルは避けて。

「おめでとうな、特に隼人!」

「頑張りましたね、いえ、何とは言いませんが」

「な、何を言って……」

「おや、何とは言って欲しいんですか? お望みなら言いますけど? 詳細かつ丁寧に」

「……勘弁してください」

 マスターに肩をがっしり掴まれ、彩にはいつも通り遊ばれる。

「というか……クラッカーとか準備がいいんだね」

「ご要望に応じたサプライズ等も行っているので常備品です」

「成程」

 確かに、床のテープを回収する様も手慣れていた。

「バースデーからプロポーズ、各種メモリアルデー迄、色々やってるからな」

「まあ、先程までのこの部屋は両家顔合わせというか結納というか……」

「姉さん!」

「お姉ちゃん!」

 澄ました顔でとんでもないことを言いだす彩にたまらず桃香まで真っ赤になって抗議する中。

「あ、こちらウチからのサービスというか、お祝い」

「うん……ありがとう」

 一方、高校のクラスメイトだという奥様の方からボトルの差し入れを貰っている母も隼人と同じように複雑そうな顔をしていた。

 そして。

「そりゃあこの期に及んで四の五の言うつもりは無いけれど……流石に話が飛躍し過ぎじゃないか」

「腹を括ったんじゃないのか?」

「兄貴は娘持ちじゃないからこの気分は絶対わからんよ!」

「そういうものなのか?」

 良い勢いで再びグラスを空けた桃香の父の所に、マスターが椅子を引いてまた別のボトルを開栓する。

「やっぱり、息子と娘じゃ違いますよねぇ」

「わかってくれるかい、マスター」

「それはお互い、年頃の娘を持つ身じゃないですか……お察ししますよ」

「そう言ってくれるのマスターだけだよ!」

 いつの間にか父親席のグラスも三つに増えて。

「なら、マスターは彩ちゃんにいい人が出来たらどうするんだい?」

「そりゃあ……『語り合う』しかないでしょ」

 スッと素人離れしたファイティングポーズを取るマスターに。

「プロ契約目前だった人がそれしたら事件なので、最悪親子の関係考え直しますからね」

「ほらー、娘にとって彼氏と比べれば所詮男親なんてこんなもんなんですって」

「マスター……」

「ええ」

「気持ち、わかるよ」

「!」

 娘持ちの男親二人が固く握手を交わす。

「飲もうか」

「飲みましょう」

「……程々にな」

 言いつつも、止める気はあまりなさそうかつ、むしろ付き合いながら普段よりハイペースでグラスを傾けている父を含めて大丈夫かな、と案じ始める。




 一方で。

「それはね、ちょっと娘が欲しい時期もあったし……ももちゃんみたいな可愛い子ならいうことなしなんだけど」

「うんうん」

「いざあんな可愛い子をお迎えするかと思ったらどうしたらいいかわからなくなって」

「そっかそっか」

「まず落ち着いてね、ほらティッシュ」

「うん、ありがとう」

 こちらも普段見ない顔色と表情になって高校時代の先輩と同級生に宥められている母にこれまた困ったことになる予感しかしてこない。

「ええと、お水、飲みますか?」

 そして、冷水用のポットからコップを持ってきた桃香に対して。

「ありがとう」

「いいえ」

「ももちゃん、本当……いい子」

「良かったじゃない、隼人くんの目も確かだということだし」

「でも」

 もう一口水を飲んだところで、ぽつりとつぶやく。

「勝手だけど……いい子で、こまってしまうの」

「「「?」」」

 父親たちを除く全員が顔を見合わせたところで、もう一枚ティッシュを使いながらぽつぽつと。

「だって、私の実家の都合であんなことになったのに」

「あ」

 隼人の、六年間の空白。

「なのに相変わらず隼人のことあんなに好きで……それに」

「……それに?」

「私に対してもいつも丁寧に接してくれて、多少……恨まれても仕方ないと思っていたのに」

 すんっ、と鼻をすすったところに。

 桃香が椅子の前に屈んで。

「大丈夫です」

「ももちゃん……」

「さみしかったはさみしかったですけど、わたしのはやくんに対する気持ちの前にはどうってことなし、です」

 多少誇張気味なのはわかるが、堂々とし過ぎて隼人の方が赤面する羽目になる。

「それに、はやくんがその分大事にしてくれるって言ってくれましたし」

「……それは、うん」

 ね? と笑顔を向けてきた桃香に頷き返す。

 彩と残りの母親二人には「あらまあ」という顔をされるが……まあ、必要なことだと割り切りつつ。

「だから、ええと……これからもお願いします」

「ええ、こちらこそ、ね……」

 そっと手を取り合った二人の所に、もう一つ大きめの手が。

「よかったな」

「ええ……」

 いつの間にか近くに来ていた父が、軽く二度母の肩を叩いてから自席の方に戻って行く。

「本当、よかった」

 貰い泣きしている奥様の隣で冷静な娘は。

「でもやはりこれ、両家顔合わせで結納……」

「それ以上言わないで、姉さん」

「じゃあ、本番の際も是非ウチを」

「あのね」

 額を押さえてしまう隼人の前で、彩も同じ仕草をする。

「それに比べて、向こうは……」

「……」

 彩の視線を、追うと。

「はじめて生まれたばかりの彩を抱っこした時にね、どんなことがあってもこの店を守って繁盛させて大事に育てていこうって思ったんですよ」

「わかる、わかるよ」

 二人していつの間にか焼酎に切り替えていたらしいグラスを煽ったあと、抱き合うおじさん二人が。

 その傍で三人分全部のグラスの中身に素知らぬ顔をして味が薄くなり過ぎない程度に水を注いでいるらしい所は若干父を見直す。

「まあでも……これも愛情の形なのでは?」

「それは、わかってますけどね」

 肩を竦めつつも、彩も小さく笑顔を見せるのだった。





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