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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
冬休み/暖かな時間を君と
160/225

141.気持ちと返事

「桃香」

「はやくん!」

 最後の角を曲がる手前でメッセージを送っていたから。

 姿を認めて駈け寄れば傘をさして出てきてくれた桃香と同じタイミングで家の前に到着する。

「えっと、その」

「うん」

「ただいま」

「おかえりなさい」

 笑いかけると、笑顔で返事をくれて、それに心からほっとして。

 それから軽く背伸びして傘に迎え入れてくれた後、桃香のもう片方の手が隼人の頬に伸びてくる。

「ちゃんとはやくんは大丈夫だから決めたと思うけど」

「うん」

「それでも、心配は心配だったよ?」

「……ごめん」

 でも、桃香の表情も手のひらもとてもあたたかかった。

「でもね」

「うん」

「急いで帰ってきてくれて、うれしい」

 そんな言葉と表情に、脚ではなく心の中の何かが駆けだしそうになるけれどひたすら抑えて。

 自分の顔の側にあった桃香の手を取る。

「あのさ」

「うん」

「こんな遅い時間だけど」

「うん」

「本当はこんな時間に女の子に言ってはいけないかもしれないけど」

「……」

「桃香に話したいことがあるから……ちょっと、寄って行かないか?」

「……うん」




 玄関を開けて桃香を迎え入れてから後ろ手で施錠する。

「……」

 その動作を見ている桃香の視線は信頼のあるものだったので安心して……濡れているコートをラックに引っかけ、マフラーと手袋は丁寧に掛けて、自分の部屋へと上がって暖房を入れる。

 手早く自分の衣類を検めて濡れていないのを確認してから、優しい表情でそれを見ていた桃香の方に手が届くより更にもう一歩近付いて、問いかけた。

「あの、さ」

「うん」

「抱きしめたい、って言ったら……変、かな?」

 瞬きを一つした桃香が、丁度隼人の心臓の辺りの高さの頬をくっ付けてから、囁いた。

「どうぞ」

「うん」

 やっぱりちょっと小さいな、と思いながら背中に手を回すと、桃香にも軽く抱き締め返される。

「どうしたの? はやくん」

「ん……」

「さみしかった?」

 くすぐったく甘い声に、思っていることを告げる。

「寂しかった、というよりかは……」

「うん」

「ふとした時に、ここに桃香がいてくれたらもっと楽しくて嬉しいのに、って思うことが何回もあった」

「そうなんだ……」

「……それを寂しいって言うんじゃないか言われたら、そうなのかもしれないけど」

 もう少し強めに抱き寄せたので触れ心地の良い髪に鼻が埋もれてしまったけれどそのまま良い香りを一杯に吸う。

 吸い込んで満たされた気持ちが、言葉になる。

「あぁ……やっぱり」

「……?」

「好きだな」

「!」

 腕の中の反応に、知らぬうちに強くなっていた力に気付いて、慌てる。

「あ、すまん……痛かったよな」

「ううん、ううん……」

 桃香の腕にも力が籠められる……無論、心地いい。

「わたしもね」

「うん」

「さみしかった、から」

「うん」

「はやくんが帰ってきたら、ぎゅうってしてもらいたいな、って思ってたから」

「そう、か」

「もっとしてほしいな」

「ああ……俺も、したい」

 もっとおいで、という気持ちで引き寄せる。

 離したくない、という気持ちで抱き締める。

「痛く、ないか?」

「ちょっとだけ……でも」

「でも?」

「こうしてくれないと、やだよ?」




「本当……」

 気持ちが、一先ず。

 際限のない気持ちがそれでも少し休まるくらいに桃香のぬくもりを得たところで、言葉が零れる。

「去年……というか、この前の春まで」

「?」

「良く、俺、凍えずに居たよな……」

 今はたった数日でこうなってしまうのに、と呟くと桃香も頬を擦り付けるようにしながら返事をくれる。

「それはきっとね」

「ん」

「前よりもずっと、仲良しに……大好きになったからじゃないかな?」

「そうか……そうだな」

「でしょ?」

「間違いない」

 元々あった気持ちが、日毎に大きくなっていって。

「わたしも……もう、同じことできないかな」

「ん……」

「もし、そうなるんだったら……連れて行ってくれないと、だめだからね」

「ならないけど」

「……うん」

「もしそうなるんだったら、何としてでも、攫ってでも、桃香と一緒に居る」

「……ほんと?」

「その……苦労は掛けるだろうけど、絶対に大切にするから」

「うん、ありがとう」

 桃香がさらにもう少し、胸元に顔を埋める。

「はやくん、すごい……どきどきしてるよ」

「……それは、そうだろ?」

「えへへ……だよね」

 小さく笑ってから、尋ねられる。

「ね」

「ん?」

「もうちょっと、聞いてていいかな?」

「ああ、勿論」

 どうぞに代えて、背中に回していた手を片方外して、そっと頭を引き寄せるように撫でた。

 そのまま髪にも指を通すけれど、くすぐったそうな声が零れるだけで何も咎められなかった。




「えへへ……」

「ん?」

「はやくんにこうしてもらうの、すごく好き」

「うん、俺もこうしていると」

「と?」

「すごく幸せな気持ちになる」

「あ、ずるい」

「え?」

「わたしも、しあわせなのに」

「ずるい、になるのか?」

「えへへ……じゃあ、おそろい」

「ああ、それで」

 二人で、揃って笑ってから……。

「えっと、はやくん」

「ああ」

「ごめんね、お話……あったんだよね?」

「ああ……」

 最後にもう一度抱き締めてから、そっと桃香の両肩に手を添えて肘から手首分だけ、離す。

 至近の距離で見上げてくる瞳を、確りと見つめながら。

「その、何を馬鹿なことを言うんだって……怒られても、叩かれても、いいんだけど」

「そんなこと、しないよ?」

「……でも、一応」

 そう付け足してから、話を続ける。

「桃香に、その……六年じゃなくて、七夕の日から待ってもらっていること、なんだけど」

「うん」

「あんな話を言い出したくせに、情けないんだけれど、もう……我慢が出来ない、と言えばいいのかな」

 一度、口の端を強く噛む。

「誰よりもずっと、誰にも文句が言えないくらい完璧に好きになって貰って、桃香の気持ちを貰えるようにならないといけないって思ってたんだけど、でも今は……」

「うん」

「まだまだ足りてないかもしれないけど、ほんの少しでもいいからその資格があるんだったら、桃香に恋人になって欲しい」

「!」

「ずっと一緒に居て欲しいし、もっと抱き締めたいし、全部欲しくて独り占めにしてしまいたい……」

 一気に吐き出して、やっと息を吸う。

 そうしてからもう一度気持ちを押し出す。

「正式な相手じゃないとできないことも出来る関係になりたい、桃香にたった一人の特別な女の子になって欲しい」

「……」

「好きで好きで、仕方ないんだ」




 二度深呼吸をして、改めて桃香を見つめる。

 隣の窓、隣の席に目を遣った時に微笑み返してくれるのと同じ表情で見てくれていた。

「えっと」

「ああ」

「わたしのお返事の番、でいいのかな?」

「聞かせて、欲しい」

「うん」

 一つ頷いて、桃香が今までで……知っている限りで一番の笑顔をくれる。

「はい」

「!」

「わたしも、はやくんとしたいこと、はやくんじゃないとだめなこと、いっぱいあるから……」

「……うん」

「はやくんの一番特別、になりたいな」

 その言葉に頷いてから、桃香の瞳に導かれてもう一度口にする。

「俺の彼女に、なって下さい」

「はい、よろしくお願いします」




「ははは……」

「えへへ……」

「ずっと、大切にする」

「ずっと、大好きでいるね」

「ありがとう」

「わたしもうれしい」

「……えっと」

「……うん」

「目を、閉じてもらってもいいかな?」

「うん」




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― 新着の感想 ―
いつ付き合うのかなぁ、とおもしろくて一気にここまで来ちゃったけど、2人が付き合うことになってとっても嬉しい!これからも楽しみに読み進めます!
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