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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
冬休み/暖かな時間を君と
156/225

137.従姉妹狂騒曲(前編)

「それでは改めて、あけましておめでとう」

 一番年上の本家の従兄の音頭で全員が唱和する。

 親戚一同どうにか広間に押しこんで年始の挨拶はしたものの、流石に狭すぎるので世代別に二部屋に分かれ新年のパーティが始まるところ、だった。

「お兄ちゃん、もうちょっとコーラ飲む?」

「うん、ありがとう」

 全員に程良い塩梅にされている室内は隼人には気持ち暑いので一気に八割は飲んだ隼人に詩乃が声を掛けてくれる。

「おー、はやと、飲め飲め」

 昨日からテンションのブチ高い望愛が囃し立て……。

「おっとっと……」

「詩乃……」

 それわざとだろう、ってくらいにグラスにコーラが並々と満たされる。

「ところで、お兄ちゃん」

「うん」

「例のブツ、なんだけど」

 何故そこで怪しげに声を潜める、とは思うものの。

 こちらのご機嫌を伺ってくる理由はよく知っている。

「食べて落ち着いたら、持ってくるよ」




「まじらぶりー……」

「それは何より」

「うへへへ、カワイ子ちゃんめ」

 二匹のぬいぐるみに代わる代わる頬擦りしてご満悦な詩乃に苦笑しながら、他に買い出しに便乗した従姉妹たちに注文の品を渡していく。

「うちからの代金は、ポチ袋に一緒してあるから」

「うん、了解」

「ちょっと多めだけど釣りは要らねぇ」

「ありがとう」

「私の分もポチ袋に入ってるよ」

「あ、ありがとう……そっか、就職したんだったね」

「そうそう、今のうちに学生生活楽しんでおきなさいよ」

「うん」

 大体二十歳前後の面々に頭やら肩やらをゴリゴリされながらもお迎えに人形やグッズたちを送り出して一安心、となった隼人に。

「ところで隼人」

「うん?」

「あんた、彼女出来たでしょ?」

「!?」

 咳き込んだ瞬間、鼻の辺りにコーラの独特の香りがこみ上げた。




「一体、いきなり何を……」

 鼻やら口元が大変なことになりティッシュペーパーのお世話になりながらようやく声が出る。

「だって、暗色柄無ししか着てこなかった隼人が何やら洒落たセーター着て垢抜けてるじゃん」

「確かに昨日も電車から降りて来た時、なんだかお洒落なマフラーして赤いセーター着てたよね!」

 余計なことを言うな望愛、とは思うけれど。

 今着ているノルディック柄のセーターも昨日のワインレッド物も桃香の見立てだったし、マフラーは桃香からのクリスマスプレゼントなので……。

 隼人のセンスではなく、近しい女子が選んだものにはなる。

「別に、彼女とか居ないし」

 目線を泳がせながら、正確でも無いけど嘘ではない回答をする。

「でも女の匂いはするね」

「確かに……」

 背中側から複数の視線が突き刺さってくる、多分舌なめずりをしているヘビのような顔が並んでいるのだろう。

「何だか妙にスマホ気にしてるし」

「うんうん」

「そりゃあ正月だもの、友達から年賀状代わりに来るし」

 実際、花梨や友也たちからも新年のメッセージなどが来たりもしているのでそちらも嘘ではない……まあ、その面々から送られたものなら日付が変わる前までに返事すればいいやくらいの心持ちだけれど。

「見飽きてるだろうに雪景色とか写真撮ってたしね」

「ここまでの雪は珍しいから写真撮って来てくれってクラスメイトは居るよ」

 ちなみにその時にそこら辺の機微には疎いであろう父にまで「桃香ちゃんにか?」と聞かれたくらいではある……一応、蓮や琴美辺りが見たいと言っていたので、それも全面的な嘘ではないが。

「「「ふーん?」」」

「別に何もおかしいことはないでしょ?」

「「「いや、何か怪しい」」」

 あれ? 何だか教室とかでも同じような目に遭った記憶が……と思ったところで。

「お兄ちゃん」

「詩乃?」

「ホントに彼女さん、居ないの……?」

 ぬいぐるみを置いて詩乃が眼鏡の奥からじっと見てくる。

「いない、けど?」

「じゃあ、とっても仲の良い女の人、とかは?」

「……そりゃあ、クラスでも女子と話さないわけではない、けど」

「……大きなおばあちゃんに嘘吐きはいけないって言われてるよね?」

「……おばあちゃん出すのはズルくないか?」

「……ふーん」




「お兄ちゃんには、お使いの恩があるから黙ってようかと思ったけど……是非も無し」

「あの、詩乃?」

「限定のアクリルスタンド、望愛の分も二つくれたよね」

「あ、ああ……」

 先ほどのお迎え会での一コマ、アクリルスタンドは計四個。

 桃香にも一応聞いたが小さい従妹さんに、と譲られていた。

「あれって、私達から頼んだ分じゃあの数にはならないんだよね」

「え? そうなん?」

 確かに、桃香の分を足してギリギリ繰り上がっていた、今はもう破棄したレシート。

「お店の人の間違いかも」

「あの限定ショップにそんな温いことをする店員さんは居ないよ」

「……俺が、自分の分も買った、とかは?」

「電話でお願いした時は『一応知ってる』って感じだったのに?」

 見事な手並みに周りを囲んでいる従姉妹たちからも拍手が上がる。

「ほっほーん、つまり隼人は私の提案通り気になる女の子とショッピングデートはしたんだぁ!」

 そして大音量で投げ込んできた望愛の言葉に場が再びざわつく。

「例えばクラスメイトに買い物に付き合ってもらうくらい、あるだろ?」

「お兄ちゃんの家からあのショップまで片道一時間近くあるよね?」

「……」

「普通、そこまで良くしてくれるクラスの異性のお友達って、いる?」

 実際身近に存在していない訳ではないのだが……果たしてそれをどう説明したものか。

 防衛線はズルズルと後退する一方。

「それも、キャラもののグッズをプレゼントしちゃうくらいの仲の、というわけね」

「あー、まだ正式には付き合ってないからさっきまでのは嘘じゃない、とか小癪なコト言うんだ」

 せめて味方はいないのかと他二名の貴重な男性陣の姿を探すものの……一番年上の兄さんは「娘にミルクあげにいかないと」等と言い部屋を出ていき、詩乃の双子の弟は危うきに近寄らずといった様子でオードブルを頬張りつつ目を合わせてくれない。

 大分旗色が悪いぞ……と思いながら、じりじりと廊下の方に退避を試みる、も。

「望愛、詩乃、確保」

「あいよー」

「オッケイ」

 女性陣では一番上の、先程口火を切ったドン的存在の従姉の一声で望愛と詩乃が両脇に張り付いて腕と体の自由を奪って来る。

「さーて、隼人くん」

「な、なに……?」

「スマホ、見せて?」

「プライバシー!」

「だーいじょうぶ、ちょっと写真のフォルダの一覧画面見せて欲しいってだけだから」

「……!?」

 一番の最新は雪景色、だろうけれど……ほぼ間違いなくそれに混じって指でハートマークを作っている桃香の写真がある。

 そんな写真を持っている女の子のことを、従姉妹たちは果たしてどう解釈するのだろう……?

「隼人のスマホは指紋かな? 顔認証かな?」

「鏡があんまり好きじゃない隼人の事だからきっと指紋!」

「のあー!!」

 元気に無邪気に看過するんじゃない! と思わず声が大きくなる。

「じゃあ、正直に答えてね?」

「うんうん」

「……」

 望愛と詩乃の言葉に隼人が折れたのを確認して……再度査問が始まる。

「隼人、彼女いるの?」

「居ません」

「学校に気になる女の子は?」

「……」

「望愛、詩乃、スマホ」

「いや、待って、ホント待って」

 指でハートのみならず……イルミネーションの中で微笑んでいる表情やら学園祭でのクレープやら夏祭りでの浴衣やら。

 あと、何と言っても隠してはあるがメイド(コスプレ)姿。

 万が一見られたら、洒落に、ならない。

「そりゃあ、この歳なんだから」

「……」

「気になる女の子くらいは、いるけど……」

 一瞬部屋が無音になった後。

 先ほどの年始の挨拶以上に派手な歓声が巻き起こった。





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