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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
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番外14.ぶらり途中下車の……

「こんなもんか」

 今日の目標としていた所までこなした参考書を閉じてシャープペンを置く。

 勉強はやはり自分のペースでやるのが良い、と若干親しいクラスの女子の面々が先日の中間テスト前に休日に勉強会するとすったもんだしていたのを思い出しながら溜息を吐いた。

 あの姦しい調子だと果たして実になっているのかどうか怪しそうだと思いつつも、中に一人学年主席級の委員長が混じっていたので一人で詰まっているよりはマシなのか? とも考える。

 思い出しついでに、いつもの面子に男子も勉強会をしようかと提案があったものの野郎がつるんでも何も楽しくないだろうということと、そもそもの自分の学習スタイルでパスしたことも蘇る……あと、各々の自宅の事情的に自分の家がタコパに続いて再度使われそうなことも懸念だった。

 ……賃貸やらの事情のほかに不詳な理由で今回も頑なに拒んだのが約一名居たのも若干、引っ掛かったが。

 そしてそれは多分。

「坊ちゃま」

 そんな思考はドアの外からの声に途切れた。




「坊ちゃまはいい加減止めてくれよ……」

 小学校高学年くらいからもう幾度となく繰り返した言葉を口にしながら階段を下りる。

 そうしながらそういえば男子の勉強会を画策した奴も名前の呼び方を何回訂正しても直しやしねぇ、と派手に嘆息する。

 そして下手をすれば仕事で自宅を空けがちな両親よりもずっと面倒を見てもらっているお手伝いさんもまた、そんなことは聞いてはくれなかった。

 もう何というか、世の中にはそういうタイプが居るものだと諦めるしかない。

「それよりも、お茶にいたしましょうか」

「はいはい」

 ただでさえ小腹が空く時間に、更に頭を使ったところにその提案は抗いがたく、素直にリビングのテーブルに付く。

 その上には、どら焼きを二つ乗せた皿と並々と緑茶の入った湯呑。

「ああ、ここのは美味しい奴だ」

「でしょう? 少し用事があって近くまで行ったから折角なので」

 三駅隣の和菓子店の物だと気付いてほんの少しだけだけれど声が弾めば、その甲斐があったと柔和な笑顔を返される。

「ああ、そうそう、テレビを付けますね」

「お好きにどうぞ」

 もう下手な親戚は通り越して祖母と母の中間みたいな人なので、そこの辺りに遠慮は無い。

 それに、日曜の昼下がりに男子高校生が見たいようなテレビ番組はなかなかやっていないので。

「……好きだね、それ」

「楽しいですよ?」

 ローカルバスに乗って芸能人が数名途中下車をしていく番組。

 特に興味は無いので耳に流しながらどら焼きを二口ばかり齧ったところで。

「ん?」

 次の停留所に関されている商店街の名前に、若干の聞き覚えがある。

「そんなに遠くないところですね」

「そうか……」

 じゃあ、何かのついでに耳に入れたことがある地名だったか、と思いつつもまだ何かが引っ掛かる。

 そんなことを考えつつ、収録があるの知っていれば見に行ったのに、なんて吞気な感想を聞きながらまず一個目を腹に収めて。

「あら、美味しそう」

「確かに」

 画面には御萩やら草餅が映し出されていてさすがプロのカメラマンは美味しそうに映すな、なんて感想が出る。

 ま、こちらも美味しい餡を楽しんでいる所なのでそこまでダメージは大きくないな、と湯呑に口を付けた瞬間。

「昔からぜんぶとってもおいしいです」

「!?」

 画面から聞こえてきた想定外の声に、緑茶色の霧を噴出する羽目になった。




「坊ちゃま、大丈夫ですか?」

「い……一応」

 口元を拭いながらも画面を確認すれば、地元の高校生からも人気、のテロップが入った画面に間違いなく見覚えのあるクラスメイトが映っていた。

 教室で見るより若干緊張気味の表情で、手のひらに和菓子を乗せている。

「この可愛らしいお嬢さんが、どうしました?」

「……同じクラスの女子」

「それはびっくりですね」

 頷きながらも、そりゃあ聞き覚えのある商店街名だよな、と夏祭りを思い出しながら納得する。

 そんな中で、お役目を終えて画面の横に移動した彼女がいつも通りの笑顔になるのを見て、間違いなくあいつも居るんだろうな、と確信する。

 画面に居ないのは多分、お世辞にも愛想がある奴ではないし口も回らないから何かやらされたにしてもカットされたんだろ……何て思いつつ。

 ああ、やれやれ、相変わらずだ……と、次の店に回る段になったところを確認してから安心(?)して半分ほど残っている湯呑に手を付けたところ、で。

「……あいつら」

 収録の日が小雨だったせいか順次傘をさして移動し始める芸能人たちの奥。

 よく見れば男物の傘を、半分だけ使って画面の奥の方へと去って行く薄い髪色の後姿。

 休みの日も大体一緒に居ることや、学校の周囲以外では同じ傘に入っていることも知ってはいた、けれど。

「よくまあそれで……」

 交際を否定できるもんだ、と複雑な表情を浮かべているとポケットの中でスマホが震える。

「おばあちゃんとテレビ見てたらえらいもの見ちゃったんだけど」

 とかいう美春からの報告を見て。

「俺も見た」

 と一応義理で返信しつつ。

「どこをどう考えたって両想いだろうがよ……」

 数年前の、濃い目の緑茶よりなお苦い出来事を思い出しながら呟いた。


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