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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
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132.プレゼント

「桃香」

 言葉と目線で最後の一切れになったケーキのことを聞けば。

「はやくん、どうぞ」

「ん、ありがとう」

 ほんのり甘いクリームと甘酸っぱい苺を味わってから。

「ご馳走様でした」

「うん、お粗末様でした」

 作ってくれた人に感謝をすれば満足そうな表情が返ってくる。

「夜だからあれだけど」

「?」

「今度は珈琲と食べても美味しいんだろうな……」

「じゃあ、それはまた今度」

 言ってから、桃香がカレンダーを見て。

「例えば、はやくんのバースデーケーキ?」

「……作ってくれるってことか?」

「そうだよ」

「桃香も誕生日なのに大変じゃないか?」

 そのことを指摘すると、むしろ桃香が胸を張る。

「はやくん」

「ん?」

「日付が一緒だからってケーキが一つとは決まってないよ?」

「まあ、そうか」

 言いつつも、昔は二人分を合算してもらうことでケーキ屋さんの一番大きいホールを買ってもらったことも何度かあるよな、何て思い出す。

 ついでに、プレートも二人の名前で作ってもらって桃香がご満悦していたことも。

 ただ、ここでは言わぬが花かと……別の、もう一つ思ったことを口にする。

「あとは、その」

「?」

「ブッシュドノエルみたいな、チョコ系のケーキも食べてみたいかな」

「わ!」

 瞬き一つの後、くすりと笑いながら口の横を突かれる。

「はやくん」

「ん?」

「食いしん坊さん」

「別に今食べたいとも二つ食べたいとも言ってはないぞ」

 勿論、思い切り桃香の作ったケーキがまた食べたいとは言っている。

「じゃあ、来年のクリスマスはそっちを作るね」

「……俺らの誕生日ならともかく、そっちの話は鬼に」

 二ヶ月半後ならまだしもぴったり一年後は……。

「いや、サンタクロースに笑われそうだな」

「はやくんはやくん」

「ん?」

「サンタさんはいっつも笑顔だと思うよ?」

 人差し指を立ててそう指摘する桃香に頷く。

「……確かにな」

「ね?」

 隼人のサンタクロースだと自称してくれた女の子は、確かに今日はずっと笑ってくれている。




「えっと、じゃあ、あらためて」

 被っていたサンタ帽を直してから、桃香が机から長方形の箱を取って。

「メリークリスマス、はやくん」

「ありがとう」

 薄い見た目以上に軽いな、と受け取れば、目で「開けてみて?」と言われる。

 包装を見て、留めているテープを爪の角で切って少しずつ剥がしている様を見ながら桃香が。

「相変わらず、マメさんだね」

「なるだけ奇麗に剝がしたいだろ?」

「それはわかるけど、なんだかおかしくって」

 ずっとテンション高いものな……と苦笑いしながら箱を開ければ。

「手袋?」

「うん」

 シンプルな黒い光沢を押さえた生地が目に入る。

「自転車用でも使える、薄くて指先も動かしやすいのにしたよ」

「ん」

「はやくん、着こむのあんまり好きじゃないもんね」

「……まあ」

 こちらのことを色々とわかって、考えてくれている所が嬉しいよな、と内心で思いながら取り敢えず片方試着してみる。

「確かに、良いかも」

「でしょ?」

 何度か手を開けたり握ったりして頷いた隼人に、ちょっと得意げな表情を浮かべて桃香が続ける。

「色もはやくんのコートと統一感あると思うし、あと薄いから」

「ん」

「畳んでポケットにも仕舞いやすいと思うよ?」

 そんな説明に、思い至ることがあって確認する。

「……片方だけ、とかか?」

「えへ……」

 試着してない方の手の指先を抓まれる。

 それが答えだった。




「ええと、それじゃあ……」

 一旦手袋は箱に戻して、今度は隼人が自分の荷物を手に取る。

「あ」

「?」

 期待の表情を見せてくれた桃香と目が合って、思い付いたことが出来て一度手を止める。

「桃香」

「うん?」

「ちょっとごめんな」

 僅かに髪に触れながら桃香の頭からサンタ帽を取って、自分に乗せる。

 そんな隼人に、桃香がおかしそうに目を細める。

「似合ってるよ」

「一応、そういう日なので」

「そうだね」

「メリークリスマス」

 布製の包みと、リボンを掛けた箱を桃香の前にそっと置く。

「二つも?」

「まあ、色々あって」

「えっと、じゃあこっちから」

 桃香が開けた箱からは、薄ピンクの。

「マグカップ?」

「ああ」

「シンプルだけど、いいデザインだね」

 持って色々な角度で眺めている桃香に、提案する。

「もしよかったら、だけど」

「うん?」

「それを桃香が家に来たとき用、にどうかなって思った」

 隼人の家ではだれも使っていない色合いの物なので、一目でそうとわかる。

「あ……」

「どうだろう?」

「うん……えっと」

「ん?」

「これからもいっぱい行ってもいいってこと?」

 お互いに、今更と言えば今更ながら……。

「その、桃香が来れない日は……その、何だ」

「……」

「色々と、物足りないから」

「えへ」

「無理のない程度に一緒に居てくれると助かる」

「はい」

 頷いて返事をくれた桃香が、梱包を戻して隼人の方に置く。

「じゃあ、それでお願いね」

「ああ、そうさせて貰う」

 内心で安堵の息を吐いている間に、桃香は次の包みに手をかけて。

「これも開けていい?」

「勿論だよ」

「えへへ……何だろ?」

 赤い不織布の包みの口を縛ったグリーンのリボンを解いた後、桃香の手の中に白と薄いグレーの毛糸で編み上げられた長方形が現れる。

「これって」

「一応、ストール……のつもり」

「わぁ!」

 両手で確かめるように広げながら、網目に目を近付けた桃香が尋ねてくる。

「これって、はやくんが編んでくれた……の?」

「素人仕事だけど、その、一応」

 桃香の表情が、今日一番輝く。

 それだけで確かな満足感に満たされる。

「わぁ……わぁ!」

 広げて、抱き締めて、顔を埋めてまた広げて……そっと肩に羽織って、そんな自分の姿を鏡で見てから、ぎゅうと肩を抱き締めて。

「えへ、えへへ……」

「えっと……な」

 みるみる頬を紅潮させていく桃香に、戸惑いながら声を掛ける。

「まずは、落ち着いてくれ」

「むり」

「いや、その……」

「うれしすぎて、できないよ」

 鏡に映ったそれを羽織っている自分の姿を確かめるのと、自分の肩に掛かっている布地を丁寧に撫でるのとを交互に繰り返して。

「ほんとに、うれしいもん」

「うん」

「ほんとに、ほんとなんだよ」

「大丈夫」

 布地一枚増えたところで華奢なままの桃香の肩を宥めるように両手で押さえる。

「すごく、伝わってくるよ」

「うん……」

「ありがとう、桃香」

「ほえ? どうして?」

「桃香が喜んでくれて、俺の方が嬉しいくらいだから」

 左手はそのままに、右手で勢いに少し乱れた髪を梳いた隼人に桃香が勢い込んで口を開く。

「ううん」

「桃香?」

「わたしの方がうれしいもん!」

 真っすぐな瞳に、言い返す。

「それもわかるけど、それよりずっと俺が嬉しいんだって」

「でも、わたしの方が、だもん!」

「いや、それでもこっちがなんだって」

「そんなことないもん!」

「いいや!」

「ううん!」

 そのまましばし意地と視線が押し合った後。

「えへへ……」

「ははは……」

 思わず笑って、ふっと力が抜ける。

「とってもうれしいよ、はやくん」

「俺も喜んで貰えて嬉しい」

 肩と髪に手を添えられた桃香が、その手に逆らわない唯一の方向に身を寄せてくる。

「ね、はやくん」

「ああ」

「今でもすごく、すっごく……なんだけど」

「ん」

「もうちょっと、欲張りしていい?」

 桃香の甘い声に鼓動が限界近く早まるけれど……確りと頷く。

「丁度」

「?」

「俺もそう思った」

 頷いて瞼を閉じた桃香との距離を、更に減らす。

「ほっぺ……?」

「もっと、誰にも負けないくらい桃香の気持ちを貰うまでは」

「もう、すっごく……だよ?」

「それと、あともう一つ」

 解けてない問いが、残っているから。

「完璧じゃないと駄目なんだ」

「はやちゃんもはやくん、だよ?」

「それでも、駄目だ」

「いじっぱりさん」

「……うん、そうなんだ」

「でも、そういうところも……だいすき」

 ありがとう、と呟いた次の瞬間。

 桃香の柔らかな頬でそれ以上の言葉は塞がっていた。





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