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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
145/225

127.イルミネーションに照らされて

「こういうのを肩の荷が下りる、というのかもな……」

「間違ってないけど、違っている気がするよ」

 頼まれものの買い物をした後、大分自宅側に戻ってイルミネーションを大々的に売り出している街の駅で下車して。

 コインロッカーのある辺りに到着して肩から手に持ち替えたキャラクターショップの紙袋を指差しながらそんなことを漏らす。

 隼人がそれを下げている様はやはり多少奇異に見られている感があって若干落ち付かなかった……まあ、隣で手を繋いでいる桃香を見付けて貰えればそれは「あらまあ」な感じに変わるのだけれど。

「あ、はやくん」

「ん?」

「こっちなら空いてるよ」

「だな」

 桃香が上手く見つけてくれたけれど、壁一面のロッカーは殆ど全て赤い表示になっていて……身軽に散策しよう、というのは自分たちだけでなかったと気付く。

「まあ、日はずらしたけどそれなりに混むかな」

「花火の時ほどじゃないと思うよ?」

「そうだな」

 そんなことを言いながら使ったロッカーの番号を指定してカードを指定部分に触れさせてロックが掛かるのを確認する。

「重くは無かったんだけど、曲がったりしても嫌だし」

「その方がいいね」

 そんなことを話しながら、改めて手を繋ぎ直して出口の表示を確かめて。

「じゃあ、行こっか」

「ん」

 人の流れに乗りつつ、一番最初の目的に向かう。




「これはこれで、素敵かも」

「そうだな」

 日が傾いて、光の当たっている所とそうでない影がくっきりと分かれる時間帯の街路樹の通りに桃香が呟く。

 夕暮れとはまだ少し早くてまた少し違う、独特の色合いを帯びている時間帯の街並みだった。

「桃香が疲れてなければ、散歩しようか」

「うん、いいかも」

 イルミネーションはこの通りとその先の公園、ということでひとまずそちらの方に足を向ける。

「点灯は……一時間ほど後か」

「今日は夕焼けも綺麗だと思うから、ゆっくり待とうね」

「温かい飲み物でも買って、だな」

「うん、そうしよっか」

 そんなことを話していると、向かう先の歩行者信号が点滅を始めるのに気付く。

「ゆっくり、行くんだよね?」

「ああ」

 小走りになれば間違いなく間に合うタイミングだけれど、逆に二人で歩調を緩める。

 車通りが再開した横断歩道の手前で止まって。

「ん」

「えへ」

 隣を見れば全く同じタイミングで見上げてきた桃香と目が合って。

 目元に浮かんだ微笑みに手を強めに握ることで返事にした。




「あったか」

「ん」

 湯気の立つクリームのたっぷり乗ったホットココアの紙コップを両手で持った桃香の表情が心の内側を温めてくれる。

「ちょうどいいベンチが開いててよかった」

「あと、飲み物もな」

「あそこにあったら買っちゃうよね」

「確かに」

 公園の入り口に温かそうなメニューの書かれたボードを出したキッチンカーはずるいよな? ねー、と二人で笑う。

「よいしょ」

「ん」

 座ったままの位置から少しだけこちらに詰めた桃香がコップに一吹きしてからそっと飲むのを盗み見しながら、猫舌気味に自覚がある隼人は三度ばかり自分のノンアルコールのホットサングリアを冷まして慎重に口にする。

「おいしい?」

「なかなか、そっちは?」

「あまーい、よ……あと」

「ん?」

「あったかいのが最高」

「だよな」

 もう明るいのは空と遠くのビルの先端くらいで、確実に風は冷たさを増している。

 目的が無ければ早く屋内に入ろう、となるくらいのところだった。

「今度、家でも作ってみようかな?」

 ココアなら寒くなり始めた頃から何度か飲ませてもらっているので、隼人のサングリアの方だとはすぐに分かる。

「はやくん、飲んでくれる?」

「勿論、飲みたい」

「じゃあ挑戦してみるね」

 桃香が作ってくれるならきっと美味しい筈だ、と思いながらまた表面を吹いて果実の香りとスパイスの風味を楽しむ。

 そんなうちにもう少し夜が近付いてきて。

「はやくん」

「うん」

「寒くない?」

「桃香が居てくれるから平気」

 もう一口飲みながら、先にこちらが気遣わなければいけなかったよな、と桃香に返事をする。

「むしろ、桃香が大丈夫か?」

「はやくんと一緒だからだいじょうぶ……」

「……無理は、しなくていいぞ」

「だいじょうぶだけど、ちょっと寒い、かも」

 本当に凍えてそうなら即屋内に入れるところを探すところだったが、それとは少しニュアンスの違う申告に。

 少し考えてから、もう少し桃香の方に身体を寄せて密着しつつ、今日プレゼントして貰ったマフラーを半端に解く。

「してみたい、んだったよな?」

「あ、うん!」

 慌てて自分の首元に手を伸ばす桃香を制する。

「この際」

「?」

「ダブルにしとけ」

 桃香のマフラーの上に重ねるようにして、首というよりかは顎や頬の下半分辺りを包むようにして一巻きすると桃香が目を細める。

「えへへ」

「少しは良くなったか?」

「うん、あったかいよ」

 満足そうな息遣いは嬉しいものの、横目で見る桃香は。

「あ、はやくん笑ったでしょ」

「いや、まあ、ちょっと面白いことにはなってるから」

「はやくんがしたんだし」

「まあそうだけどさ」

 若干動きにくそうにしながらカメラを起動した桃香が自分の姿を評価する。

「すっごく」

「ん」

「寒がりな人に見えるかも」

「事実だろ」

 若干不服そうにしながらも、それでも自分と隼人の首元が結ばれている様に表情を崩して……桃香が一度シャッターを切ってからポケットに仕舞う。

 そうしてから、そのもぞもぞとした動作のまま隼人の腕を抱くようにしつつ肩に頭を預けてくる。

「どうした?」

「寒がりなんですー」

「そうか」

「そうなの」

 そんなことを言いながら……ふと、隼人の方からももう少し触れたい気持ちになる。

「ん……」

「わ!」

 風景を眺めながらも首から上を傾けて……頬全体で桃香の髪の感触を確かめる。

「はやくん」

「……ああ」

「どうしたの?」

「何となく、こういう気分になった……」

 それだけ言って首の角度を戻そうとするけれど。

「はやくん、ステイステイ」

 慌てた桃香の声に離れる瞬間の距離で止まると、焦った様に更に寄ってきた桃香の頭が軽く頬骨の辺りに当たる。

「あ、ごめんね……」

「全然痛くないけど」

「よかった……」

 言った後、触れるだけの距離に調整し直して桃香が囁いて来る。

「もうちょっと」

「うん」

「このままでいようよ」

 そんな提案に、これ以上離れようとしないことで答えにする。

「重くないか?」

「平気だよ」

「もう、寒くはないか?」

「えへへ……うん」

 嬉しそうな返事が嬉しくて、瞼を閉じて桃香の香りと体温だけに意識をやる。

 そんなままで数分経ったところで。

「ね、はやくん」

 絶対に隼人にしか聞こえない大きさで桃香が呼んでくれた、瞬間に桃香が言葉を止めた。

 どうしたのか、と聞こうとしたところで遠くから時報が聞こえるとともに閉じていた瞼越しにも眩い光が届いた。




「すごいな」

「ね」

 公園から向こうの通り迄、少し不揃いなタイミングでイルミネーションが点いて行く様と、それにあちこちから上がる感嘆の声を身を寄せ合いながら感じていた。

「すごいね」

 驚きから、弾む口調に変わった桃香の声に。

「歩いてみるか?」

「それも行きたいけど……もうちょっとこのままがいいな」

「ん」

 暗がりをいいことに少し思い切ったというのもあった身としてはもうちょっと離れた方が、とも考えるが、一方で。

「……えへへ」

 この光景を見るなら桃香と一緒以外ない、というのも本当で。

 桃香にされるがままに甘えていた。




「ちょっとだけ、残念かな」

 ベンチから見える分の光景と、それを二人だけの距離で眺めることを堪能して……そろそろ歩いてみようか、となって。

 マフラーを桃香側だけ解いて、立ち上がった後直している様に桃香がそんなことを言う。

「あのままじゃ歩けないだろ?」

「そうなんだけどね」

 じゃあ代わりにね、と隼人の腕を思い切り抱き締めてくる桃香に抗わない。

 むしろ、自分から言いだす前にされてしまっただけで……この光景の中ならこのくらいの距離でいたいのは同じだった。

「どっちに行く?」

「それはもちろん」

 指差される前から分かっていたので、駅とは反対側に足を向ける。

 小さいながらも美術館もあったりする公園には様々な趣向の電飾がされていて、二人で軽く相談しながら気になるものの近くに寄って写真に収めてみたりもした。

「キラキラしてる」

「そうだな」

 まあ桃香の方がよっぽど……何て考えながらそちらを見ると。

「!」

「?」

 そのタイミングでの位置や角度が噛み合ったのか……電飾の光を返す髪と仄明るく照らされた整った表情の中で瞳が輝いて見えた。

「どうしたの?」

「いや……」

 普段ならこういう時にはどちらかというと目を逸らしていたけれど、今は見上げてくる桃香から目が離せなかった。

「そうなんだよな」

「はやくん?」

「昔からずっと飛び切り可愛いのに、今は油断してると凄く綺麗な時があるから困るんだよ」

「!?」

 イルミネーションの光が由来じゃない桃香の表情の変化。

「……!」

 それに、たった今自分が言ったことを認識させられる。

「え、えっと……」

「その、ええと」

「うん」

「……本当の事だし」

「……」

「初夏、梅雨……いや、もう、帰って来た時から、だよな」

 そういう意味でも、惹かれているのは。

 零してしまったのは惚けていたからで間違いないけれど、口にしたからには内心が堰き止められなかった。

「えっと……ありがと」

「ん」

「はやくんにそう思ってもらえてるのは、すっごくうれしい」

 順路から少し逸れて、桃香が歩みを止めて見上げてくる。

「でも、わたしがそうだと、はやくんは、こまる、の?」

「……物凄く、物凄く嬉しいけれど」

「うん」

「ズルいよな、とも思う」

 小さなころからお姫様だと思っていたのに、今も際限なく惹かれている。

 そんな言葉を心の中で呟いた隼人の耳元に、背伸びした桃香が口を寄せる。

「そんなこと言うけど、はやくんだってずるいんだよ」

「……何がだよ」

 桃香に好いて貰えているのはわかっていても、自分が桃香にされているほどだとはとても思えなくて。

「こんなに格好よくなって帰ってきてくれたのに、たまにものすごくかわいいもん」

「!」

「ね?」

 桃香の指が伸びてきて、鼻先を軽くちょんと押される。

「ほら、今とかも」

「……」

「どっちも、わたしのだいすきな人」

 光の中で微笑んだ桃香の表情に、もう引き込まれるのが心だけでは済まなくて。

「はやくん……」

 無くなっていく距離の中で隼人の表情を映していた瞳が瞼に隠れた。






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