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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
144/225

126.お得。

「結構、並んでるね」

「ああ」

 目的のキャラクターショップに近付きながら遠目にもしかして? と思っていた人だかりがそうだったと判明する。

 キャラクターも描かれた最後尾を示すプレートを持った係員の誘導に従って列に着く際に桃香が「限定のアクリルスタンドまだありますか?」と聞いてくれ、問題ないとの返答を貰えてこっそり安堵する。

「人気なんだな」

「わたしも結構好きだからね」

「ん」

「あとは、花梨ちゃんと由佳子ちゃんもお気に入りみたい」

「へぇ」

 じゃあもしかして桃香が買い物を頼まれているかな? と思ったが。

「花梨ちゃんのお母さんがかなり好きみたいでもう発売日に確保済みみたいよ?」

「そうなのか……」

 凄いな、好きな人のパワー、という感想しか出てこない。

「あ、わたしがそう言ったって内緒ね?」

「まあ、その話題をすることはまず無いだろうけれど……」

 割合仲の良いクラスメイトではあるけれど、無縁そうな風貌に自覚のある隼人が彼女たちとどう転がったらその話題になるのだろうかちょっと想像がつかない。

「だったら、はやくん、学校に持って行ってる鞄にぬいぐるみかチャーム、下げてみる?」

「おーい」

 何だか愉快なことを言いだしたぞ、と顔にも出る。

「俺の鞄に付いてたら変だろ?」

「世の中にはギャップ萌え、って言葉はあるよ?」

「……にしたっておかしいって」

「そう? 可愛いもの好きなんだ、ってちょっと好感度上がるかも?」

「ん……」

「?」

 小さく咳払いしてから、マフラーの上に零れていた桃香の髪先を一瞬だけ抓んでから気持ち桃香の方に身を屈めて囁く。

「まあ、可愛いものは嫌いじゃないけど……」

「わ……」

 驚いて瞬きした桃香の顔が、徐々に緩んでいく。

「そうなんだ」

「そうだけど……」

「なるほどー」

 満足そうに二度頷いた桃香が、ふと何かに気付いて思い付いたのか隼人の方に手を伸ばして来た。

「じゃあ、お試しに」

 隼人のボディバッグの紐に付いている金具に人差し指を引っかけられる。

「こう、とか?」

「……持ち歩くには大分不便だな」

 隼人より二〇センチ以上小柄とはいえ、ほぼ成人女性の体格は。

「かも、ね」

「ちょっと持て余すな」

「はやくんにくっついていられるのはいいけどね」

 くすくす笑ってから、桃香が手を離して。

「鞄にくっつけるかどうかは別として、やっぱり、せっかく来たんだからはやくんも何か買おうよ?」

「何かも何も結構な量を買うんだけど」

「そうじゃなくってはやくん用!」

 何だか流れはそうなりつつあるぞ、とは思ったものの。

「検討はしておく」

 とりあえず時間は有りそうなのでそう答えるに留める。

 列はまだ長そうだけれど、桃香といれば退屈とは無縁だった。




「わぁ」

 二〇分ほど他愛も無い話をしながら待って入った店内で桃香が感嘆の声を出す。

 圧迫感があるくらいにぎっしりと棚にキャラクターグッズが並ぶ様は外とは別の世界感だった。

「じゃあ、とりあえず目的を果たすんで……桃香は自分用を見ててくれ」

「うん、でも、いいの?」

「……何でだ?」

 確かこれだよな、と一人目を手に取りながら桃香にそう言うと、小首を傾げながら返される。

「その子、従姉妹さんから指定あった子と違うよ?」

「え?」

「リボンの色がこっちのほう」

「……まじか」

「うん、まじまじ」

 隼人が手に取った隣の列の方を指差される、言われてみればリボンの色と造形が微妙に違う。

 奥が深いというか……正直、さっきまで自信があったのにまたやらかしそうで商品棚が底なし沼に見える。

「桃香」

「うん」

「前言撤回で、一緒に見てください」

「はーい」

 ご機嫌な返事をして半歩分隼人側に寄った桃香の肩が、隼人の二の腕に軽く接触した。




「これで、間違いないか?」

「ええと……」

 もう諦めたというか、餅は餅屋とばかりにメモを開いた画面ごと渡して桃香に照査を依頼する。

「うん、オッケーだよ」

「そうか……」

 下手すればもう二、三個間違えをしていたかもしれないな……何て肩を落としながら。

「はやくん?」

「こっちの意味でも桃香について来て貰って良かったよ」

「あはは……」

 あまりにしみじみと漏らしたものだから桃香の表情が少し苦笑い気味になる。

「お役に立てて、幸いです」

「本当に助かったので……お礼と言っては何だけど、お好きなのをどうぞ」

「じゃあ、せっかくだから甘えちゃうね」

 迷いなく、棚に歩み寄って一つ手に取る桃香に思わず聞く。

「桃香の好きなキャラなのか?」

「うん」

「なるほど」

 それならいいな、と思いつつも。

 一段上にあるもう少し大きなサイズを指差しながら確認をする。

「こっちでも、いいぞ」

「え? だって……」

 桃香の視線がズバリ倍になる値札に行くが。

「いや、何と言うか……」

「?」

「今日買う中で桃香のやつが一番大きい方がいいかな、とか思ったんだけど」

 贈りたい気持ちとしてはメインだよ、という意味合いを伝えたくそう述べたところ。

「そっか、ありがと」

 伝わったかのように頷いてくれた桃香が、でも、と続ける。

「それなら、こっちの子も一緒なのがうれしいかも」

「……なのか?」

「この子たち、仲良しなの」

 くっつけた両手に乗せて教えてくれる桃香に、成程と返しながら。

「なら、その方が良いかな」

「きっとそうだよ」

「だな」

「うん」

 確認し合ってから、店内用の籠を持ち直した後。

「そっちは、桃香がそのまま連れて行くか?」

「そうしよっかな」

 レジへの列に並んだ。




「えへへ」

「何だよ」

「可愛い、よ」

 会計を済ませて商品を受け取る時になって気付いた、店舗限定の紙袋に派手にファンシーな色使いでプリントされた絵柄。

 鞄にぶら下げるどころの話ではないが、桃香に対する評判は上々だった。

「こういう意味でも……」

「も?」

「桃香について来て貰って、良かったよ」

「あはは」

 いかにも「女の子の買い物に付き合って荷物待っています」という感じには見えてくれる気がする……というか、レジでもそんな風に店員さんに聞かれたりもした。

 正確さには欠けるものの、大体そんな感じではあるので笑って相槌を打ってきたけれど。

「じゃあ、この子たちはわたしが連れてくね」

「ああ」

 桃香への分は、別に分けてもらっていて、並んで桃香のバッグの中から少しだけ顔を覗かせていた。

「なかよしって、いいね」

「そうだな」

「あと、プレゼントしてくれてありがとね、はやくん」

「本気で、助かったから」

 いつもとはちょっと種類が違うけれど、心からの感謝を述べると。

「でもね」

「ん?」

「わたしは、得しかしてないんだよ?」

 そんなことを言った後、楽しそうに満足そうに隼人を見つめてから。

「じゃあ、次に行こうっか」

 そんな風に隼人の手を取るのだった。





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