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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
141/225

番外13.自転車とパーカー

「おや、吉野君」

 土曜日の夕方かぐやを連れて少しハード目に走り込んだ帰途、後ろから声を掛けられる。

「高上さん?」

「やあやあ、奇遇だね」

 軽いブレーキ音と一緒に減速して隣に付いた琴美はスポーツタイプの自転車に跨っていた。

「そっちもトレーニング?」

「いや、そうじゃなくって吉野君ちのお隣に用事がね」

「ああ、そういうこと」

「借りてた漫画返しに来たんだ」

 琴美は遅いスピードでも器用にバランスはとっているが、隼人の方はかぐやが行けそうなのを確認して逆にスピードを上げる。

「お、行くね~」

「割とすぐそこだし」

 助かる、と言いながらスピードを上げた琴美が切り出す。

「どんな漫画か気になる?」

「桃香に返すんだったら、まあ正統派の恋愛物?」

「大正解」

 本棚のラインナップの中身までは知らないものの背表紙にあるタイトルは幾つか見知っているので。

 あと、桃香の性格的にもそうでないかと思えば正解だったらしい。

「あ、でもさ」

「うん?」

「桃香、あれで意外とちょっとドロドロしたのも買ったりはしないまでも読むよ?」

「へぇ……」

 割と休日読書をして一緒に過ごすが、中身にまではそんなに踏み込まないので素直にちょっと意外だな、という声が出た。

「案外」

「うん?」

「吉野君の方が誠実で格好いいとか思ってホクホクになってるのかもね」

「いや……流石にそこは比べないでしょ」

 ないない、とリードを持ってない方の手を振るが。

 いやでももしかして……と少しだけは思わなくも無かった。




 話は戻すけど、と琴美が再び切り出す。

「その聞き方ってことは、吉野君はトレーニングなんだ?」

「定期的に運動しないと落ち着かない性分で、筋力落としたくないし」

「……部活入ったら?」

 それはそう言うよね? という指摘に頭の中で友也が今からでも遅くないよー、なんて片手を上げて手招きしてくる。

 でも、軽く首を横に振って。

「なんというか、自分のペースで気の向くままが良いので」

「うん、わかるわかる」

 そういうもんよね、とカラッと笑う琴美も校外で水泳に通っている、と聞いたことはあるのでそこはほんのりと彼女との共通点かな、と思う。

「あとは放課後桃香といちゃつく時間が減るし?」

「……」

 別にそういうコトじゃない、と言おうとしたところで……実はそういう問題を無意識に考えていたのじゃないのだろうか、と自覚する。

 桃香は応援してくれるだろうし、時間も合わせてくれるだろうけれど、総合的に自由に使える時間が減るのは否めない。

「……まあ、そこも」

「そこも?」

「自分のペースで、ということで」




「あ、はやくんおかえりー」

 最後の角を曲がって家の前まで来れば丁度掃き掃除をしていた桃香が手を上げて迎えてくれる。

 丁度、ではなく意図的に、が正確な所だろうけれど。

「おかえり、なんだねぇ」

「……」

「あ、琴美ちゃんもわざわざありがとうね」

「ううん、こっちが借りてたし軽い運動ついで」

 自転車を停めてバックパックから紙袋を出して手渡している様子を見ていると、桃香が琴美の自転車をまじまじと見つめる。

「格好良いの、乗ってるね」

「フフフ……今年のお年玉と高校入学祝いの結晶だからね」

 おー、と拍手をした桃香が次いで何かを思いついた、と手を合わせる。

「わたしも、こういう自転車買っちゃえばはやくんといっしょに遠出に使えるかな」

「ん?」

「桃香が?」

 思わず、隼人と琴美が顔を見合わせる。

「「桃香はママチャリが似合うんじゃないか」な?」

 期せずして、声と見解が一致した。

「ふたりとも、ひどい」

「いや、桃香のイメージから言うと」

「そうなるでしょうよ」

 うんうん、と頷いた琴美が続ける。

「かぐやちゃんのリード持って走る吉野君を後ろから自転車の籠にお弁当と水筒乗っけて後ろから追っかけるのが似合うから」

「あ、それもいいかも」

 あっさり懐柔されている桃香に苦笑いしながら、ふと感想が漏れる。

「何だか、俺とかぐやが散歩されているみたいなんだけど」

「え? 吉野君も比較的わんこでしょ? 学園祭のニャンコも割と似合ってたけど」

「……いや、ちょっと待った」

 片手を上げて琴美を制する、も。

「確かに、はやくんはそんなとこあるかも」

「え?」

「ってか、女子の中でも吉野君は桃香の忠犬で番犬、というイメージは強いよ? 絵里奈も最後まで迷ってたし、ネコか犬か」

「女子って……高上さんたちの間、じゃないのかな?」

 そんな隼人の指摘に、琴美が軽く指を振って。

「吉野君は」

「うん」

「桃香にああな以上、もうちょい広く女子の間で話題なことは自覚した方がいいよ?」

「……」

 そんなものなのか? と思いつつも……前提の部分は否定が出来ず。

「気を、つけます」

「いえいえ、もっとやっていいよ」

「そんなわけにはいかんでしょ」

 溜息を吐いてしゃがみ込む隼人に、かぐやが鼻先を突っ込んで擦り付けてきて。

「あら、いい子じゃん」

「……どっちが?」

「どっちも、だよ」

 にこにこと、桃香が交互に頭を撫でてくれた。

「仲良しだねぇ」

「えへへ」




「じゃ、そろそろ帰るから」

「うん」

「また、学校で」

 再度自転車に跨る琴美に、桃香が呟く。

「やっぱり、格好良いな、琴美ちゃん」

「そう?」

「スタイルもいいし、服装も」

「桃香のキャラじゃないでしょ」

「むー」

 むくれる桃香を横目で見ながら……そういうとこだぞ、と突っ込みながらも確かに桃香に隼人が求める系統は現状の維持かな、と内心で呟く。

 あらやっぱりそういう趣味なのね、と頭の片隅で花梨たちが囁いて来るが。

「あー、そうだ」

「「?」」

「桃香には、こういうのはどうかな?」

 琴美がパーカーの襟元を引っ張りながら、普段隼人たちを弄る時の笑みを浮かべる。

「これ、適当に借りてきた兄貴の」

「わ!」

 瞬時に良いこと聞いた、と目を輝かせて桃香がこちらを見る。

「はやくん、はやくん」

「何だ?」

 何を言い出すか、120%わかっているけれど一応聞く。

「背、まだ伸びてるんだから小さくなった服とかあるよね?」

「……場合と必要に応じて検討する」

 そんな二人を「よし、いい仕事した」とでも言いたげに見てから。

「あ、でも」

「うん?」

「吉野君的にはシャツのお下がりとかの方が嬉しいのかなー?」

「いっ!?」

「ほえ?」

 ニヤリと笑った後、隼人と桃香の反応を見てから満足そうに頷いて。

 じゃーねー! といい笑顔で無責任に去って行った。




「ね……はやくん」

「……ああ」

「あの、ね」

「…………丁度小さくなった『パーカー』はあるのでそれで勘弁してください」





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