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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
129/225

112.今度の週末は

「はやくん、お昼にしよっか」

「ん」

 チャイムが鳴って授業を終えた英語教師が教室の扉を出た途端に広がる喧騒の中で桃香の声に頷く。

 伊東君と加藤君の購買ダッシュ(速足)は今日も見事だな、何て思いながら自分の机を横移動させて桃香の所とくっ付ける。

「はいっ」

「ありがとう」

「ううん」

 包みを受け取りながらお礼を言うと桃香がお安い御用だよと笑顔で首を横に振る。

 窓を背にしているのもあってふわりと揺れた髪が晩秋の陽光を透かす様が眩しかった。

 結局、十一月にもなって昼食のパターンを変えても校庭などの弁当を広げられる場所はもう配分が決まっており教室で食べることにしている二人だった。

 なので。

「ちゃんとお礼が言えて偉いっ」

「感謝は円満の秘訣だよね」

 まあ、後ろからそんなの言葉が時々飛んで来るし。

「あ、桃香、卵焼き交換してー?」

「うん、いいよー」

 レパートリーも一巡して最初は控えていたいつもの面子も従来通りに交換し品評などを行うようになっていた。

「あ、はやくん、あのね」

「うん?」

 弁当箱を開けて今日も美味しそうだとこっそり表情を緩ませたところで、お弁当箱の蓋に交換した品目を置いて戻って来た桃香に話し掛けられる。

「レパートリー増やしたいし、リクエストがあれば随時受け付けるからね」

 両手を合わせてから箸を手に取りながら桃香がそんなことを言ってくれる。

 「あら健気」「ホント、若奥さんじゃん」とそこはかとなく耳に入って来る絶妙な声量のヤジは聞こえないふりをする。

「お弁当向きの、か」

「そうじゃなくても食べたいものがあれば言ってね」

「!」

 にっこりと告げてきた桃香を思わず見つめて、瞬きを一つした後で、思い出す。

「今度の週末、か」

「うん」

 応じた隼人は声量を控えたものの、桃香は普段のままだったので「んん?」という視線を周囲から感じる。

 弁当を作ってもらうようになった時の諸々を思い出すに……敢えて抑えてはいないのだろうか。

「わたしが作ることになってるからね」

「……ん」

 初夏の頃にあったように、両親が父の仕事ついでに遠出をしてくることになり……一人で大丈夫だという隼人の意見は秒で却下されお隣に顔を出してきなさい、と言う流れ。

 それを今までよりもう少し隠さなくなっている桃香だった。

「お肉がいい? お魚にする?」

「……とりあえず、週末寒そうだから温まりそうなものが良いかもしれない」

「あ、それいいかも!」

 そしてそんな桃香の楽し気な様に、幾つかの意味で全く勝てない隼人だった。




「……どういうことなのか?」

「教えてもらおうじゃねーか?」

 で。

 次の休み時間、隙を見た勝利と蓮に両脇から挟まれ男子の席が多い界隈へ引き込まれる。

「流石に気になるかな」

「まあ、そうだね」

 加えて、友也と誠人、他数名の男子クラスメイトも後ろに控える。

「いや、まあ、大したことではないんだけれど……」

「隼人の基準で大したことじゃなくても」

「男子高校生的にどうなんだよ? 弁当以外にも綾瀬に食事作ってもらうってどういうことよ?」

「手料理か? 手料理なのか!?」

「まさかとは思うが綾瀬の家にお呼ばれ……?」

 言い逃れは許されそうにないので、溜息を一つついてから説明する。

「桃香と幼馴染なのは皆ご存じかと思いますが」

「それだけで大分ギルティだけどな」

「どうしろと」

「あんな可愛い幼馴染が居る時点でお前は勝ち組なんだよ」

「それをもうちょうい有難がれ」

「……桃香に感謝は勿論してるけど」

「それはそれで腹が立つ!」

「……どうしろと」

 蓮達に思い切り話の腰を折られながらも続ける。

「桃香とうちの母親同士、かなり仲が良いのと家も近いので……その、両親が出かけて不在の時は預けられることが多くて」

「「「ほう」」」

「次の週末、親が仕事の都合で不在なので晩御飯は綾瀬さんの家で食べて来いって……」

「「「ふーん」」」

「じ、自分で何とかも出来るんだけど母親にそれじゃお前碌な物食べないだろって言われて……さ?」

 過保護だよね? と普段はそうしないレベルで明るく笑って見せる、も。

「審議入りっぽいよ?」

「みたいだね……」

 当人は加わってない友也に他の男子の円陣を示される。

「家の都合なら、やむを得ないのか?」

「確かに酌量を検討できるかもしれないけれど」

「いや、断れや」

「まあ、伊東の言う通りではあるんだが……」

「待ってくれ」

「加藤?」

「この場合、吉野が遠慮したものの綾瀬さんが……」

「押し切ったのか」

「確かにその方が在り得るな」

「綾瀬さんだもんな」

 だからそう言ったんだって、と思いながらも集団を見ていると。

「「「……」」」

 全員が頷いてから、隼人の方に鋭い視線を向ける。

「「「有罪」」」

「そうは言われましても……」

 桃香の作ってくれた料理は食べたいし、あと悲しませたくもない。

「一応、確認したいんだけど……」

「誠人君?」

「綾瀬さんの家で晩御飯をご馳走になるだけ……だよね?」

「はいっ!?」

 その質問に顎が外れんばかりに驚いた隼人だが、慌てて打ち消す。

「あ、あ、当たり前ですよ?!」

 思い切り動揺が漏れ出ていたが。

「さすがに、もう小学生とかじゃないし……」

「……小学生の時はあったんだな」

「女の子の家にお泊りか」

「だ、第一桃香のお父さんお母さんはいらっしゃるからね!?」

「……そりゃ当たり前だろ」

 腕を組んだ勝利に睨まれる。

「流石にそれは許されんだろ」

「……それってどれ、でしょうか」

「胸に手を当てて考えな」

「まさかとは思うが誰もいない家に連れ込むなよ?」

「しませんっ!」

 今日一番の声で否定したところで。

「はいはい、楽しそうなのも良いけどチャイム鳴るわよ?」

 手を叩いた花梨に場を解散させられる。

「人気者ね?」

「桃香が、じゃないかな」

「その桃香に振り回されてる吉野君も大分面白いわよ?」

 席が近い関係で戻る途中、花梨にそんな風にも小さく笑われる。

「幸せ者ね?」

「それは、その」

 頭を掻いて花梨にだけ聞こえる声量で答えた。

「否定しにくいかな……」

「ふふっ」




 それから、二日後。




「じゃ、気をつけて」

「隼人こそ戸締りと、あとちゃんと時間を守って、桃香ちゃんにちゃんとお礼言って……」

「……わかってるよ」

 土曜日、朝。

 遠方なのもあり高速道路の深夜割が使える時間帯で出発して行った、放っておくと心配性な言葉が尽きなさそうだった母との会話を思い出しながら苦笑いしつつ朝食の後片付けをする。

 米は丁度あと一食分あるから、商店街の肉屋さんで揚げたてのコロッケでも買ってくればインスタント味噌汁と併せて昼も充分だな、等と思いつつ食器を洗う。

 昼も食べに来ればいいのに、とは少しだけ不満そうな言われたものの明日の朝と昼は流れのままそうなりそうなので、せめてそこはそうやって済ませることにした……流石に入り浸り過ぎになるとは先日の男子たちからの一件を差し引いてもそう思うので。

 その桃香とは準備や今日は家の手伝いが多くなるということで予定を入れていないので、今日は読書を進めつつたっぷりめにかぐやと遊ぶか、と決めて。

「ははは……」

 その間、桃香は多分今日の夕食のことを頑張ってくれるんだよな、と考えてしまい口元が緩むのを止められなかった。

「!?」

 そんな時、隣の方からいつにない大きさの、悲鳴のような声が聞こえて慌てて最後になっていた器を置いて手を拭う、大分乱暴に放り出したものの幸いプラスチック製で乾いた音を立てるだけで済んだ。




「どうした、桃香!」

「はやくん」

 慌てて駆け込んだ隣家には、幾つか床に転がった林檎と、泣きそうな顔の桃香と。

「おじさん!?」

 腹部を押さえて苦悶の表情になっている桃香の父の姿があった。





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