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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
122/225

105.棚ドン?

「はやくん」

 こっちこっち、と桃香に部屋の奥へと手招きされる。

 もう習慣になってしまってはいるが夜に女の子の部屋に侵入している後ろめたさが無いわけではないので普段なら窓付近に留まっているし、今夜もそうしようとしたけれど部屋の主に二度そうされると不思議に思いながらも従うしかない。

 そんな風に呼ばれた地点は漫画と小説が六対四であとフォトスタンドが三つ置いてある本棚の前だった。

 スタンドの写真のチョイスについては……花梨たちとの物もあって、それは微笑ましいなと思うだけにする。

「……何かお勧めでもあるのか?」

「勧めてと言われたらないわけでもないんだけど……」

 言いながら服の裾を引かれてもう少し寄れと誘導される。

「和花ちゃんのこと」

「ん?」

「はやくんちのお店で助けた時って……どんなことしたの?」

「……そういうことか」

 まあ昨日のみならず今日もなので、桃香が疑問に思う気持ちもわかるし、万が一にも誤解されたくない相手なので素直に応じる。

「別に、和花ちゃんの背じゃ届かない本を取っただけ、なんだけどな」

「……」

 実際はもうちょっと高い位置だったか、と呟きながら桃香の本棚の一番上の段に手を伸ばすと隣に居る桃香がじいっと見上げてくる。

「位置、は?」

「いち?」

「その時の和花ちゃん、どこにいたの?」

「そりゃ、今桃香が居る所より一歩後ろくらいだよ」

「そうなの?」

「そうだよ」

 小さいとはいえお客様にそんなわけあるかい、と多少ツッコミ気味に言うと桃香がくすっと笑って。

「だよね」

「だよ」

「まさか……」

「うん?」

 はやくんはそのままね、と棚に伸ばした手を含めて制止させられて……。

 わざわざその腕の下を潜って桃香が隼人と本棚の間に身をねじ込む、衣服の所々が接触するくらいの至近距離で桃香が見上げてくる。

「こんなこと、してないよね?」

「するわけがあるかっ!」

 馬鹿なこと言うなよ……と目を逸らしながら口から零せば。

「よかった」

 そんな桃香に窮屈そうな動作で胸の辺りを突かれる。

 そのまましばらく黙っていたかと思えば。

「ちなみに、だけど」

「ん?」

「わたしには、してくれないの?」

「今、なってないか?」

「はやくんから、してほしいな」

「……結構特殊な状況だと思うけれど」

「けっこう特別な関係、だよねわたしたち」

 そんな風に囁かれると、弱い。

「ご希望なら検討します」

「前向きにお願いね」

 こつんと額を胸に当てられ、擦り付けられる。

 そんなこと言ってられないくらいの時にしてやろうか、とか現状から目を逸らすために考えたりもしたが、どう考えてもダメージが大きいのは自分の方なので思い止まることにした。




「えっと、じゃあ」

 結局三分ばかりその間合いを堪能した桃香が、最前までより明らかにご機嫌に宣言する。

「お姉ちゃんたちには」

「姉さんたちに?」

「普通の店員さんだったから、はやくん無罪って送っておくね」

「……おい」

 その二文字が大書された紙を広げるような仕草に思わず桃香の肩に手を置きながら、送ってもらう車に乗る前三人でこそこそ話していたのはそれか、と得心する。

「何の罪を疑われたんだ、俺は……」

「まあ、そういうこと……だよ?」

 桃香の隼人の頬に伸びてきた指が、普段なら突かれるところだけれど、軽く抓まれる。

「ちょっと格好いいお兄さん、優しすぎ」

「……」

「トランプだけじゃなくって、お休みの日まで」

「その、随分と残念がっていたから」

「それは、わかるんだけど」

 明日明後日は習い事で、という和花の金曜からの三連休で時間を取れないか? という希望を断り切れなかった隼人である。

「その……」

「……」

「向こうに居た時、連休に親族で遊びに行くって時々あってその感覚で……」

 そこまで言ってから、口を噤む。

「どうしたの?」

「いや、言い訳がましくてごめん」

「……」

 何かを考えていたかと思うと、桃香がぽつりと呟く。

「はやくんの従姉妹さんって」

「……? うん」

「はやくんのお母さんの、だから……みんな美人さんなんだよね」

「まあ、その……上級生なんかにしつこく紹介しろと言われたことならあるくらいかな」

「む~」

 再度、桃香に頬を抓まれる。

 今度はダブルで。

「一応、言っておくけど」

「……うん」

「男女比3:10とかだから男の立場何て無いから」

「そう、なの?」

「……悠姉が五人くらいいると思ってくれていい」

 流石にあそこ迄パワフルに場を振り回さないので大体五人換算で。

 過去を思い出しながら絞り出した言葉に、桃香が素のトーンになる。

「わ、大変そう」

「大変なんだ、そのうちわかるだろうけど」

「……!」

 まだ触れていた桃香の手が跳ねて、一拍置いてから隼人にも自分の言った言葉の意味が伝わる。

「そのうち、なの?」

「ああ、そのうち……」

「どのくらい、そのうち?」

「俺の行い次第ではあると思うけど……そんなに遠からず、で」

「……そっか」

 今度は座ったままで、桃香の手が隼人の膝に、額が隼人の胸に触れる。

「楽しみ、って言っていいの?」

「……桃香は、絶対歓迎されると思う」

「えへへ……そう?」

「保証する」

「……はやくん取っちゃったら、嫌われない?」

「桃香みたいないい子を嫌ったら、流石に俺が怒る」

「……うん、ありがと」

 暫くそうした後、桃香が再度口を開く。

「もう一つ質問」

「うん」

「和花ちゃんにお休みの日の過ごし方聞かれて、かぐやとお散歩って答えたのどうして?」

「……」

「お部屋のいる方が長いでしょ?」

「そりゃあ……」

「それは?」

 少し目を逸らした後、一度瞑ってから桃香に真っ直ぐ向き直る。

「この歳になって自室に招いていい女の子について位はわきまえてる、から……だよ」

「うん」





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