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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
120/225

103.和花のお誘い

「で、桃香に吉野君や」

「うん?」

「どうしたの?」

「昨日のあの可愛らしい女の子は一体?」

 次の日の休み時間。

 教室を訪ねてきた真矢に、まあ当然かと思う疑問を投げ掛けられる。

「あのおかっぱの子だよね、確かに和風のお人形さんみたいですごかった」

 丁度隼人たちが鞄を取りにっていたタイミングで校門を出て行ったらしい琴美も乗っかかってくる。

「将来美人になる、ってのが約束されてる感じ」

「ね、和花ちゃん可愛いよねー」

「……」

 無論、隼人もそのことは100%認める所だが下手に口を出すと美春たちがどのように曲げて解してくるかわかったものではないので小さく頷くに留める。

「わたしやはやくんのお母さんと、和花ちゃんのお母さんが高校時代に仲良くて……」

「それは、聞いたけど」

「あとは、悠姉さんの従妹だから、その縁もあるんだけど」

「えっ!? そうなの!?」

 思わぬところでの悠の名前に真矢の声が半オクターブ上がる。

「遺伝子って仕事するぅ」

「……」

 確かに悠の父とその妹である和花の母も中々に整った容姿をしている、が……中身というか性格は正反対なので真矢の意見に完全同意とまではいかなかった。

 色々とイベントや騒動を起こしてくれる悠の父に対して、和花の母は落ち着いた物腰の和服美人である。

 和花は完全に母親似と断言できる。

「あ、あはは……」

 桃香も同じことを考えているのか苦笑いを浮かべていた。

「いやいや、そこは大した問題じゃないでしょ、真矢」

「そうそう、その将来有望な女の子が何しに吉野君をはるばる訪ねて来たのか、ってのが大事じゃない?」

 真矢が「悠さんアゲ」なモードに入って役に立たないと判断したのかここぞとばかりに美春と絵里奈が切り込んでくる。

「何だか本が好きみたいで家の店に来てみたかったらしいけど」

「だったらわざわざ勝手も知らないこっちの高校にまで来るかしら?」

 後ろの席からきっちり聞き耳を立てていたらしい花梨も話に挟まって来た、し……。

「……」

 隼人としてもそこは当然疑問に思ったところだったので、すぐには上手く返せない。

「なんだか、和花ちゃん……はやくんとお話したかったみたいなんだけど」

「「「!?」」」

「……桃香」

 それは言わなくていいだろう、と思うも後の祭り。

「ほら、やっぱり」

「そのカワイ子ちゃん、吉野君の毒牙にかかってるんじゃない!」

「……言い方」

 美春の言葉のチョイスに一応抗議するも、聞いては貰えない。

「あの子、制服からして女子オンリーの小学校でしょ? ちょっと年上のお兄さんが格好良い所見せたらコロリといっちゃうって!」

「そうそう、桃香にデレデレしてない時の吉野君は割と物がいいんだから!」

「……だから、言い方」

 琴美と絵里奈にも抗議するものの、以下略。

「今だから言うけど、春先、吉野君のことを気にしていた女子が数名居たのは本当よ? 桃香に対する様を見てこれは無理だと直ぐに思い直したみたいだけど」

「そうなの!? 花梨ちゃん!?」

「嘘を言っても仕方ないし、今更桃香が気にする必要もないじゃない? 夏休みからこの秋までといい本当に吉野君と『仲良し』に磨きが掛かったみたいだもの」

「え、えへへ……」

 桃香にもそうじゃないだろ、と言いたいが今は下手に何かを話せる状況ではなさそうだった。

 ……むしろ、自分の座席がここでは無ければさえこの沸き立つ女子の中から抜け出したい。

「おう、隼人」

「蓮君?」

 そんな風に頭を抱えていた隼人の肩を強めに叩いたのは、怒気を大量に含んだ笑顔を浮かべた蓮で……その後ろには同様の表情の男子が数名。

「伊東君と加藤君……も?」

「今日最後の授業の体育、サッカーみたいだぜ?」

「楽しみだよな? 吉野」

「そ、そうだね……」

 一斉に親指で何かを切る仕草をされては乾いた笑みを張り付けるしかない。

「はいはい、やる気なのはいいけどほどほどにね」

「そうね、間違っても吉野君に怪我をさせちゃ駄目よ?」

 そんなところに手を打ちながら割り込む友也に、花梨も同調する。

「例えかすり傷でも半泣きで保健室に付いて行くのが誰かと、その後の展開をよく考えて?」

「「「はっ!?」」」

「綾瀬さんへのナイスアシストになっちゃうよね」

「……」

 隼人の味方は、オウンゴールの危険も大きい桃香を除けばチャイムくらいなものの模様だった。




「今日は、この辺で勘弁しといてやる……」

「それはどうも」

「つ、つかれた……」

「ちょっと昼メシ出そう」

 体育の授業を終え、更衣室から約半数の男子が足取り重く教室に戻ってくる様を女子が教室で迎える。

 普段なら着替える速度の関係上基本男子の方が早いが今日は時間ギリギリまで熱戦を繰り広げていたため逆だった。

「お疲れー」

「盛り上がってたね」

「呆れた」

 美春と絵里奈は可笑しそうに、花梨は言葉通りの溜息気味に。

「いや、男子には力一杯やらなきゃいけない時があるんだよ、委員長」

「だから委員長は貴方でしょうに……と言うか、それならどうして柳倉君は涼しい顔してるの?」

「僕、キーパーしてたから」

 そんな遣り取りを聞きながら自分の席に戻ると、横向きに座っていた桃香に話し掛けられる。

「はやくんも、おつかれさま」

「……なんか、滅茶苦茶ボールが飛んできた」

「あはは」

 先ほどの授業を一言で表現すると楽しそうに笑われる。

「頑張ってたから、まだ汗引いてない?」

「……かもしれない」

 そう言って拳で額の辺りを拭えば、ハンカチを出そうとしていた桃香に不服そうに小さく唇を尖らせられる。

 気にしてないから好きにしなよー、と桃香の後ろの美春からそんな言葉は飛んで来るが表情で制した。

 そんなことをしているうちに担任の先生が現れ放課前のHRが始まり特段の連絡事項も無かったそれはあっという間に終わって。

「桃香、吉野君」

「ん?」

「どうしたの?」

 窓の外を指す琴美に言われる。

「あの子、また来てるよ?」

 一体どうするの? と楽しそうに。




 何はともあれ、和花を不慣れな場所に立たせておくのは隼人も桃香も全く本位でないのは確かなので。

「和花ちゃん!」

「隼人さん、桃香ちゃん」

 安堵した顔に、こちらもほっとする。

「昨日はありがとうございました」

「いや、大した相手も出来ずに……」

 本の話をしつつ、二冊ばかり和花の背丈では届かない本を手渡したくらい、だった。

 特に最近だったり和花くらいの年に読んでいたジャンルの話で大人しそうな印象のままの和花と少しは盛り上がって、接客としては十二分だっただろうけれど、果たして和花の望み通りだったのかは若干自信がない。

 それでも嬉しそうだったし、こんな風にお礼も言われれば少しはいい時間を提供できたのかな、と思うことにした。

「それで、今日は」

 和花自身で声が小さいことに気付いたのか、一度言葉を切って気持ち大きくなった声で。

「よ、宜しかったら私の家へお招きしたいのですが」

「……そ、そうなんだ」

「はい」

 和花が知っているはずもないが、あんな会話があった日なので。

 遠慮がちに和花にそう切り出されると、隼人としてはどう対応すれば良いのかと少し答えに窮することになる。

 桃香の表情を伺えば……年下の女の子に対して割合いつもの僅かに微笑んでいるような顔だが、微妙に戸惑いと思案が混じっている感じだった。

「えっと、和花ちゃん」

 一呼吸置いて、桃香が沈黙を破る。

「わたしも、行っていい、かな?」

「……はい、勿論です」

 ほんの一瞬だけれど間を置いて、和花が応える。

「ありがとうね」

「いいえ」

 そんな桃香と和花を見比べながら……あれ? 俺が返答する前に行く流れになってしまっているぞ、と内心で首を傾げながらも気付いたところで。

 もう一つ気付いたことがある。

「じゃあね、桃香、吉野君も」

「あ、うん」

「またねー」

 何だか妙にスローペースで琴美が後ろを通って行った……さっきは花梨が手で合図だけして妙に近い距離を通過しつつ下校して行った気がする。

 つまりまあ、皆様興味津々、なのだろうな、と。

 トラップミスで強かにサッカーボールを食らった脇腹が今更ちょっと痛いな、と思いつつ……和花の先導で車を待たせているという場所に向かった。






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