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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
118/225

101.古書店への興味?

「はやくん」

「ああ」

 実のところ心のどこかで安堵するくらいいつも通りに始まった月曜日の朝。

 ただ、人通りの少ないところで、いつものように手を繋ぐタイミングで桃香が一度隼人の小指を撫でるように触れてから、握った。

「え、えへへ……」

「……どうした?」

「ううん、なんでもない……よ」

 何でもあるよな、と……お互いそうだよな、と思う。

 触れられた左の小指が今まででなかったくらいに体の感覚の中で存在を放つ。

 そんな中では昨日のことを咎めればいいのかすらわからない……更にもっと、と求めるのは確実に危険だとだけはわかるけれど。

「……」

 桃香は、どう考えているのか……と盗み見れば耳の先が少しだけ赤かった。

 そんな風に、普段より言葉少なに登校していたところで桃香が、あ、と思い出したように言った。

「昨日はマシュマロ、ありがとね」

「ああ、まあ」

「?」

「桃香と違って買ってきただけだけど」

「でも、嬉しかったよ?」

「なら、よかった」

 ちょっとだけ、桃香がいつも休日にはお菓子を作ってくれる理由がわかるような気がした。

 ほんのちょっとだけ、だろうけど。

「桃香」

「うん?」

「いつもいろいろ作ってくれてありがとな」

「……どうしたの?」

「別に……何となく」

「そう?」

 そうは言いつつも、明らかに軽やかになった足取りと歩きながら。

 さっきまでよりはいつも通りになったな、と安堵して遠目に校舎を見る……そうじゃないとまた色々と玩具にされかねないからな、と。




「お菓子をくれないから恨んでやるぅ~」

「……」

「あ、あはは……」

 幸い(?)なことに到着した教室では机に頬を付けながら恨めし気に見上げてくる美春に持っていかれて、まあ総じていつも通りの日常が始まった。

「花梨たちは吉野君にお菓子貰ったらしいじゃん~」

「駄々をこねて小さい子供かしら?」

「花梨の小さいには悪意がある」

「まあ、駄菓子だったんだけどね」

 苦笑いしながらも、鞄からイチゴ味の飴を一つ取り出して美春の机に置く。

「え? いいの?」

「何となくそうなる気がしてて」

「吉野君、聖人じゃん」

 昨日駄菓子屋さんで貰ったものの一部なのだけど大袈裟な、と別の意味で苦笑いしていると、隣の席の桃香も鞄に手をかけながら隼人の肘辺りを突いて来た。

「ん?」

 もう片方の手で桃香が少しだけ鞄から出してちらっと見えた包みに、ああ、と頷く。

 流石にそこまでひとり占めしたい訳ではないので。

「美春ちゃん、これもどうぞ」

「ももか!」

 結構量産したというココアクッキー二つ入り半透明の包みも手渡され感極まった様に美春が桃香に抱き着いていた。

「もー、吉野君とこは夫婦揃っていい人じゃん」

「……」

 そこで口に出して否定すると数倍になって実証されて返ってくるとさすがに最近学習してきているので聞き流す隼人だった。

「……えへ」

 桃香は、照れた顔が緩んでいるが。

「まあ、吉野君はいい人よね」

「うん!」

 そんな様を見ていた花梨が呟くと、桃香が思い切り首を縦に振る。

「でもいいの?」

「なにが?」

「昨日も公園で頑張っていたみたいだけど、わりと周囲に優しいのは気にならない? 小さい子なら別?」

「小さいにあたし入れてるな……」

 まあ花梨の性格なら含んでいるよな、と思いながら、桃香の反応が気になるが。

「やーね、花梨」

「吉野君は桃香に対してはぶっちぎりで優しいに決まってるじゃない」

「それもそうね」

 どやどやと雪崩れ込んで来た琴美と絵里奈に、桃香が何かを言う前に話は流れて行ってしまう。

 それでも、もみくちゃにされているほわっとした表情に……特別大切にしよう、と心の中で改めて決めるのだった。




「じゃ、そろそろ部活行くね」

「がんばってね」

 放課後、今日一日機嫌よく過ごしていた美春に桃香が手を振る。

 女子たちの会話も終わって鞄を持ちながら桃香に声を掛けようとしたタイミングだった。

「あ、真矢」

「や、美春」

 そんな声に顔を上げれば真矢が片手を上げながら隼人と桃香の席付近にやって来た。

「もしかしてハロウィンの件?」

「一応あるけど……」

「わたしももう一袋あるよ」

 隼人が桃香にオレンジの飴を渡し、それをクッキーの包みと一緒にして桃香が差し出せば。

「あ、サンキュー」

「どういたしまして」

「うん」

「……って、そうじゃなかった」

 恭しく受け取った真矢が自分に突っ込みながら顔を上げる。

「吉野君と桃香が居るって聞かれたんだった」

「ああ」

「お姉ちゃんたちだね」

 あれで頻度は自重しているという悠がそろそろ現れる頃合いだったかもしれない、なんて桃香と顔を見合わせて頷く、と。

「いや、そうじゃないのよ」

「「?」」

「まあ、兎に角来てもらっていい?」

「「……?」」

 今度は二回、桃香と互いに首を傾げることになった。




 例えばいつもの悠だったら女子の人だかりができて、という塩梅の所だけれど。

「ほら、あの子」

 真矢が示す先には校門を出たところで周囲からの視線に小さくなって不安そうに出ていく生徒を見ている姿があった……というか、実際のところ小さい。

「あれ……?」

 ワンピースタイプの制服姿ですぐにはわからなかったけれど、よく見ると昨日自宅の古書店に来てくれていたあの女の子だ、と気付いた。

 それと全く同時に。

「和花ちゃんだ」

「ん……?」

 しっかりと名前を口にした桃香に、この年齢差で桃香が知っているとして商店街にあんな子は居なかったし……と考えを巡らせたところで記憶の奥から見つけた。

「ああ、西園寺の」

「そうそう」

「今、さらっと凄い名字が出た気がするんだけど」

 真矢の呟きに、桃香が説明する。

「ええと、わたしたちのお母さんのお友達の家の子……たしかに、お家がけっこうおっきいけど」

「……桃香と吉野君、実はお嬢様お坊ちゃま?」

「うちはふつうのお店だよ」

「同じく」

 真矢の疑問に違う違うと二人で手を顔の前で振ってから……。

「そっか、大きくなって……」

「はやくん、ちょっとおじさんっぽい」

「む……」

 桃香の笑いながらの指摘に、何せ小学生の頃よちよち歩きの女の子と遊んだ記憶が辛うじてある程度なんだから……。

「仕方ないだろ」

「そうかもだけど」

 頬を掻いている隼人に笑いながら桃香が肘を突いて来る。

 そうしながら校門付近に到達したところで、向こうも隼人と桃香を認めたのか小走りにこちらにやって来た。




「こんにちは、隼人さん、桃香ちゃん」

 丁度良い距離で止まっての丁寧なお辞儀と、あと年下の女の子からの想定とは違う呼ばれ方に少々混乱して、さっきまで話していた内容にも引っ張られて。

「ひ、久しぶりだね……」

 何か戸惑いながらな感じに言ってしまう、が。

「昨日もお会いしましたよ?」

「うん、そうだった」

「え? そうなの?」

 その通りです、としか言えないことを言われて頭を掻く。

「あ、お忙しい中呼び出しお願いをしてしまって申し訳ありませんでした」

「い、いえいえ、お気になさらず」

 隼人がそんなことをして、桃香が不思議そうに見ている間に、和花は真矢に丁寧に頭を下げていた。

 真矢の方も歳不相応の物腰に戸惑いながらも、そして三人に若干興味を残しながらも、居場所を見つけられないのか手を振って校舎に戻って行った。

「はやくん、昨日和花ちゃんと……?」

「うちの店を見ててくれていて……」

「その時に、助けて、頂いたんです」

 隼人の説明を和花が妙に力を込めて引き取った。

「ちょっと、高い所の本を取っただけだけど……」

「でも、とても助かりました」

 帰ったら父にそういう時用に踏み台準備するように進言しよう、と心の片隅で思いながら。

 いいことしたね、と褒めたそうな桃香の視線は、今は流す。

「前々からお母様と桃香ちゃんの家に遊びに行ったときに気になっていて」

「ああ……」

 隣に家のような店があれば興味が引かれるのかもな、と思う。

「本、好きなんだね」

「はい! とても!」

 大人しそうで線の細い和花からこんな声が出るんだと少し驚くくらいの主張の強めな声。

 そんな子なら、場合によってはお宝探しなのかもしれない。

「ええと、それで、なんですが」

「うん」

「御迷惑でなければ、今日も隼人さんのお家へ行ってみたいんです」

 瞳を輝かせながら聞かれて、隼人は頷く。

 父が居る限り基本開いている不定休営業の古書店なので。

「いつでも歓迎するよ」

「はいっ!」


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