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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
110/225

93+.一方その頃

「あー……疲れた」

「頭から煙出そう」

「同じくー……」

 一〇月半ばの日曜日。

 中間テスト対策の名の下に集まった面子が伸びる様に花梨は小さく溜息を吐いた。

「普段から習慣づけていればもうちょっと集中力も続く筈よ?」

「ごもっともではございますが」

「花梨は結構スパルタなんだよ~」

 美春、琴美、絵里奈、そして真矢。

 正直、怒涛の追い上げで全員が今の高校に入れた時は驚いたし、花梨としても友達が揃っていることはあまり表には出さないものの嬉しく思っている。

 まあ、そこで素直に心を入れ替えて勉学に励むような面子でないのも知っていたけれど。

 一学期の中間テストの時に桃香と吉野君が居てくれたときは楽だったわね、何てあと五人は余裕で入れるリビングを見ながら心の中で溜息を吐いてから。

「お茶、準備してくるから良い子で待ってて?」

「はーい」

「桃香のとこだとおやつが美味しいけど、花梨の家だと紅茶が美味しいから好き」

「絵里奈、アンタは毎度何しに来てるのよ」

「てへっ」

「褒めてもお茶しか出ないわよ」

「じゅーぶんです」

 いつものことながら賑やかね、と小さく言ってからキッチンに向かう花梨だった。




「……本当に賑やかね」

 紅茶の準備をしながら静かな時間と香りにリセットした気持ちがあっという間に引き戻される。

 どちらかが好きで嫌いでという訳でなく、純粋な感想。

 トレイを持って戻ったリビングでは美春たちがスマホを囲んで何やら盛り上がっている様子だった。

「いや、だって、花梨」

「これを見ても同じこと言える?」

「……何よ?」

 テーブルに人数分のカップを置いた後、髪を押さえながら琴美が表示している画面を覗き込むと。

「美味しそうじゃない?」

 零れんばかりに葡萄が盛られたタルトの写真。

「桃香のかしら?」

「そうそう」

 桃香が絡んだ時の果物と絵里奈が勧めるチョコレート関連の店は全く外れることがない、どころか人に自信を持って勧められるレベルの所が当たるので情報共有という形でも使っている写真を上げるタイプのSNS。

 一言味の感想を添えて上げるのはいつものスタイルだな、と思ったところで。

「よーく見てよ」

「あら」

 その美味しそうなタルトが乗せられた皿……の向こうにもう一枚が僅かに見切れている。

「桃香、選べなくて別のケーキも食べているのね?」

「おーい」

「その発想はなかったわ」

 わざとらしくずっこけながら突っ込んでくる美春と真矢をさらりと流す。

「解って言ってるよね? 花梨」

 勿論、と一つ頷いてから。

「吉野君ね」

「だよねぇ?」

「一昨日の桃香の様子から言ってもそれ以外が思い付かないじゃない?」

 琴美と絵里奈にも応じながら。

 金曜日の昼休み、中間テスト対策会を行おうという話になった際に上手く時間が嚙み合わないと判明した時の申し訳なさそうな桃香の顔を思い出す……そしてそんな顔をしながらもこれっぽっちも隠し切れてなかった「用事」への期待も。

「そういえば吉野君、土曜日は結城君達とバイト行くみたいなこと言ってた気がする」

「あー……それで桃香は週末の日程ずらせなかったんだ」

「というか、吉野君の予定、やっぱり把握してるんだよね、桃香」

「そりゃ、奥様ですから」

「いつも休日まで二人で過ごしているみたいだしね?」

 うんうん、と五人で頷く。

「吉野君、バイト代で何するつもりなんだろ……」

「池上君は身長買いたいって言ってるけど」

 わかるわー……と、遅刻寸前で駆けこんできたためお団子が無く普段より更に低く見える美春がしみじみと呟く。

「だからって安物の延長手術は止めなさいよ?」

「やらないって!」

「あとは、柳倉君と亀井君がシューズ買った後はスニーカーで」

「結城君は原付って言ってたっけ……集まって何かする機会あれば買い出し頼めそう」

 絵里奈と琴美も先日の休み時間の話題を引っ張り出す。

「……」

 そんな中で、少々沈黙する真矢に。

「どうしたの?」

「何かあった? 真矢」

「……前から思ってたけどそっちのクラス男女仲近いよね」

「え?」

「そんなことは……」

「あるかも?」

 美春たち三人が諸々思い起こしながらも曖昧に頷いたところで花梨はお茶を一口飲んでから推定される理由を述べる。

「まあ、あんな二人が居れば色々中てられるかもしれないわね?」

「……たまに休み時間に遭遇するときも仲良さそうって思ってるけど」

 真矢が手を上げて質問する。

「教室でも凄いの?」

 その問いに、四人が顔を見合わせた後、重々しく頷いた。

「桃香は明らかに五分に一回は黒板じゃなくて吉野君の方見てニコニコしているし」

「吉野君は吉野君でそれに気付いたときは『仕方ないなコイツ』みたいな感じで目配せしてるし」

「で、そしたら休み時間になった直後待ちきれなかったって感じに桃香はすぐ吉野君に話し掛けるでしょ?」

 絵里奈と琴美が交互に説明する。

「ちなみにそれをあたしと花梨の目の前でやってるからね」

「まあ、お幸せにとしか言い様が無いわね?」

「うっわー……桃香、全開じゃん」

 想像以上だ、といった様子の真矢に腕を組んで絵里奈が頷く。

「もうここ一ヶ月桃香に粉かける男子、出てないしね」

「あんな桃香見ててワンチャンすらあると思えるわけないでしょ」

 確かにね、と肩を竦めた後、花梨は続ける。

「でも、吉野君は吉野君で大概よ?」

「そうなの?」

「時々だけれど、桃香が可愛らしいことを言ったりした後」

 その発言に、琴美が指を鳴らす。

「ああ、アレね」

「そう」

「「「?」」」

 疑問符を浮かべる三人に琴美が花梨から引き継いだ。

「利き腕が一瞬反応した後、何事もありませんよ、って様子してるんだよね」

「そうなのよ」

「「「……」」」

 暫く考えた後、理解した三人が他人事ながら少々顔を赤くする。

「つまりそれって」

「二人きりなら桃香に」

「触ったりとかなんかしてる……ってこと?」

「多分ね」

 流れで全員その様を想像してしまい……僅かな間沈黙が支配する。

「……髪は絶対触ってるよね」

「間違いなく頭は撫でてるでしょ、高低差も丁度良さそうだし」

「ハグは……」

「したことくらいあるんじゃ?」

「桃香、きっと甘え上手だしね」

 この半年散々見せつけられた光景からの、その想像し易さに場の空気が若干居た堪れなくなり……真っ先に美春が。

「はい、やめやめ! 考えるのナシ!」

「賛成……」

「そうね」

「……危うく桃香の声が聞こえる所だった」

「私はもう聞こえたわよ?」

「吉野君を呼んでる時のあのあまーい声ね」

「だからそこからはもう離れようって!」

「あ、ごめん」

「ついつい」

 全員乾いた笑いを花梨が準備した紅茶で潤して。

 持ち寄ったお菓子を摘まみつつも、勉学より俄然興味が湧く話題は、まだまだ出涸らしてはいなかった。

「桃香は……美味しくタルト食べたんだろうね」

「大好きな彼氏と一緒だもんね……なんかまだそうじゃないらしいけど」

「実質一緒でしょ、あんなの」

「なんなら、その端に写っているお皿に乗っているケーキも半分食べた可能性が高いわね?」

「はんぶんこ、かぁ……」

「食べさせ合ったのかも」

 真矢の呟きに、絵里奈が何かを思いついたとホワイトチョコの個包装を剥がすと隣の琴美の口元に差し出した。

「はい、ことくん、あーん」

「な、なんだよこんなところで……でも、可愛い絵里奈がしてくれたら食べたくなっちまうじゃねーか」

 勿体ぶりながらチョコレートを口にした琴美と、その様に「きゃっ」と両手を頬に当てている絵里奈に、花梨が呟く。

「……茶番ね」

「「ひっど」」

「吉野君は顔には出すけどそこまでつべこべ言わないし、桃香はもうちょっと甘ったるいわよ」

「アンパイアが厳しい」

「あんなの完全に再現できるわけないじゃん」

 そんな風にやいのやいのしている更に隣で、しばらく沈黙し何かを考えこんでいた美春が声を発した。

「なのに……なんであたしたちは女子会の名のもとに勉強してるんだろ」

「普段からの積み重ねが足りないからでしょ?」

「うぐっ」

「花梨……容赦ないね」

「本人のためにならないじゃない?」

 やり込められた美春が先程の発端になった画像を開いて絵里奈に差し出した。

「絵里奈、このお店どこかわかる?」

「んー、このお皿の柄とテーブルの感じは……」

 郊外のショッピングモールのコーヒーショップじゃない? と呟いて絵里奈がその店舗のHPを開いて見せれば確かにトップに季節のメニューとして同じタルトがモンブランと並んで勧められていた。

「ちょーっとちょっかい出しに行かない?」

「桃香のとこに?」

「『へいへーい、お兄ちゃん、可愛い彼女連れてるじゃねーの』……とか」

「……昭和じゃん」

「結城君呼んでやってもらおっか?」

「彼のことなんだと思ってんの」

 盛り上がりながら花梨以外の四人の腰が浮きかけている。

 最初の頃ならお邪魔なんてしないでおこう……と思っただろうけれど、今は逆に一回くらい茶々入れても許されるだろう、って気持ちになっていた。

 どうせ何千何万回の内の一回でしょ? って。

「あ、そうだった」

「どしたの? 絵里奈」

「あそこの近くの美術館で好みの展示があって見に行くって言ってたから由佳子ちゃんも周囲にいるやも」

「いいじゃんいいじゃん、瀬戸ちゃんも巻き込んじゃえ」

「よーし、とりあえず現在地を確認だ」

 そんな風にどんどん盛り上がって行く様子に、あくまで冷静に花梨が指摘する。

「止した方がいいと思うけど?」

「花梨は乗り気じゃないの?」

「いいじゃーん、花梨の家からならそこまで遠くないし」

「デートモードの桃香に返り討ちに会うのが関の山って言ってるのよ?」

 お休みの日に二人きりで遠慮してない桃香直視できる? と花梨が追い打ちをかけると他全員がそっと座り直した。

「こっちが火傷しそうだね」

「一人での帰り道が空しくなりそう」

「……あの二人は仲良く帰るんだろうなぁ」

「大人しく勉強しよ」

「そうそう、いい子ね?」

 各々ノートを再度開いたところで、新着通知に絵里奈がパンケーキのスマホケースを手に取った。

「ありゃ、由佳子ちゃん本当に近くに居るっぽい」

「瀬戸さんには、注意喚起でもしておいたら?」

「熱々な二人が居るから気をつけろー、ってね」

「そうしまーす」

 絵里奈が指を動かした後、おや即既読……と呟いてから。

「!?」

「「「「?」」」」

 驚きの顔になり、花梨まで含めて全員が視線を集中させる。

「『今日の吉野君格好いいですね』……だって!?」

「え! 遭遇したの!? 瀬戸ちゃん」

「マジで!? っていうか吉野君本気のデートモード?」

「さすがに……気になるわね?」

 再び腰を浮かせる面々に、絵里奈がどうどう、と片手を上げて制する。

「『誤送信なので忘れてください』とのことなので聞かなかったことにしよ……多分桃香に送るのを間違えたね」

「ああ、そういうこと」

「気にはなるんだけど」

「自重なさい? 美春」

「あ、あの二人も買い物終えて帰るところだったみたいから今から行っても駄目かもよ?」

「そっか、残念」

 またもや席に座り直しながら。

「あそこの界隈なら冬服見に行ったのかな?」

「吉野君、桃香にどんなの選んだんだろ」

「セクシー、オア、キュート?」

「彼は絶対可愛い派だと思う、なんとなくだけど」

「桃香にドはまりしてる時点でね」

「あと、必要最低限しか手を出せてないところとかもね」

「そだね」

「案外、桃香のことまだ子供だと思ってるのかも」

「そのうちあの桃香でもしびれを切らすかも」

 それってどういう意味よ? と黄色と桃色が混じった悲鳴が上がる。

「今度は女子だけで服を見に行こうよ!」

「え? まさか桃香に……」

「言わせないでよー」

 一頻り笑ったところで、我に返ったように場が凪ぐ……流石にこれ以上は止めておこうか、という空気。

 そんな風に話が一段落したところで、脱線が過ぎたわね……と花梨が参考書を開きながら呟く。

「それに、わざわざ見に行かなくてもまた月末に何かしら見せつけてくれるでしょ、あの二人」

「月末? 何だっけ?」

「あ、体育祭か」

「吉野君、また活躍するだろうし……桃香がにっこにこで喜びそう」

 わかるわかる、と全員で頷いたところで。

「そういう訳だから、先ずは中間テストを終わらせましょうか」

 そろそろ夕方間近なのでもう三〇分だけ頑張りましょう、と花梨が手を叩く。

「はーい」

「早速ですが、花梨先生、ここの解き方のヒントを」

「はいはい」


本日3/3は主役二人の誕生日のため、予定外投稿です。

本人たちは出番無いですが(笑)

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