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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
107/225

91.秋色デザート

「おいしそう」

「うん」

 混み合う時間と、更にフードコート付近を避けて。

 コーヒーショップのカップとサンドイッチを前に桃香は上機嫌を継続中だった。

「ところで、桃香が買うものは他には?」

「うーんと、普段使いもできそうな、もうちょっとお値段抑え目でニット系もう一着かな?」

「そっか」

 もしそういう値段帯のものなら隼人ももう一枚あってもいいかもしれない。

「はやくんは?」

「急ぎではないけど、コートの類も一つ必要だよな、ってところかな」

 寒さには強いのと重ね着するのが若干苦手なので気乗りはしないし、着る機会は人より少ないだろうけど真冬にでもなれば無いという訳にはいかなそうだった。

「コートだね」

「ああ」

「急ぎじゃないって言っても、今日は見ないってことじゃないよね?」

「……まあ」

 もう隼人だって次の流れがわかる、ので。

「さすがにそっちは控えめな色合いのにするからな」

 先手を取って宣言する。

「ざんねん」

「どんなの選ぶ気だったんだ」

「えへへ」

「おい」

 桃香の笑顔は好ましいものだけど、こういう時は危険な香りがするな……なんて思ったところで。

「食べよっか?」

「ああ」

 促されて、小さく合掌して昼食を開始する。

 レタスとトマトの味わいが少し乾いた口に沁みるな、と思ったところで今日は同じメニューにしている桃香が同じことを思ったのが表情から伝わった。

「新鮮でおいしいね」

 そんな桃香の言い様に。

「あれ? どしたの?」

「青果店の娘が言うとなかなか説得力があるよな、って」

「あはは、そう?」

 包みから上げた表情には結構入っているソースが全くついていなくて上手に食べてるな、なんて思う。

「そういえば、はやくんは」

「ん?」

「それで足りる?」

「ああ」

 そのことか、と一つ頷いてからレジカウンターの近くの冷蔵ショーケースを思い浮かべながら答える。

「あとで、モンブランも食べようかな、って」

「栗、好きだっけ?」

「まあ割と好きな方だけど……それを桃香が聞くか?」

「え? どうして?」

 本気で不思議そうな顔に指摘する。

「その色合いで一緒にいると食べたくなるぞ?」

「……あ」

 袖やら裾やらを自分で見た桃香が噴き出した。

「ほんとだ」

「わざとじゃなかったのか」

「秋っぽく、って思ってたらなってただけだよ」

 笑う桃香に隼人も思わずつられてしまう。

「だろ?」

「うん」

「わたしも、食べよっか……」

 な、の形で口が止まって、何かを考えるモードの顔つきになる。

「どうした? まだケースにはたくさんあったけど」

「……」

「ああ、他にはチーズケーキとかも」

 被らないように、ということか? と考えて言ったけれどそういうことではない、と首を横に振られる。

「えっとね」

「ああ」

「食欲の秋って……素敵だけど敵なんだよ」

 割と真剣に悩みながら小さな声で告げられる。

 そういうことか、と内心で納得しながらも。

「前にもちょっと言ったけど……桃香は気にする必要ないと思うけど」

 幾度か触れたり腕を回したりした肩や腰のことを思い出した後、直ぐに追い出しつつ口にする。

 傍から見ている観点から言えよ俺、と自分を内心で平手打ちしながら。

 でも、傍から見るは見ると言えば、どうしても男子高校生同士でたまに発生する女子には聞かせられない話なんかが蘇る。

 柔らかそう、ではクラス内でもかなりの高評価な桃香である……無論、隼人は複雑でそれ以上の話の発展は鬼の形相で阻止したのだが。

「花梨ちゃんと琴美ちゃん、わたしから見ても格好いいもん」

「……まあ、そうかもしれないけど」

 そのこと自体は隼人も認める所だけれど……好きな女の子と他の女子のこんな話をするのは若干の居心地悪さがある。

「桃香は今のままがいいと思うけど」

「……はやくんの好みってこと?」

 じっと、見られる。

「そういうことになる、かな」

 鶏と卵問題にも似たことだけれど。

 桃香だから好みなのか、好みだから桃香なのか……多分前者。

「あとは」

「あとは?」

「桃香、美味しそうに食べるし」

 一瞬きょとんとした表情になってから、聞き返される。

「そう?」

「ああ」

「じゃあ、食べちゃおうかな」

 そう言いながらサンドイッチを食べるのを再開しつつテーブルの隅に視線を送る。

 軽く追えば季節のデザートをアピールしているメニュー。

「何にしよっかな」

「モンブランじゃないのか?」

「それは、はやくんにひとくち貰って……違うものの方がいいよね?」

 わたしもあげるからね、と表情が伝えてくる。

「わたしが食べないって言っても、はやくん一口はくれるつもりだったでしょ?」

「……まあ、一応」

「えへへ」

 どうしよっかな、と言いながら片手でメニューをひっくり返しつつ。

「ぶどうのタルトにしよっと」

 せっかく二人で来てるもんね、とそんな風に宣言する桃香だった。




 席を取っている時間が長すぎない程度に珈琲とデザートも楽しんだ後。

「このくらいなら、いいかな」

 薄ピンクのセーターのサイズと値札を確認して桃香が頷く。

 隼人の方はコーナーに張り出された方の値札を見つつこの価格なら服の数を増すのには気軽まではいかなくても手が出るお値段だな、と思って。

「結構軽い感じか?」

「うん? そうだね、薄手だし」

「そうか」

 隼人も中学生の時にも何着か持っていたくらい全国にある量販店のものだけに店内の逆側を見れば男性向けの物も大量に置いてある感じだった。

「はやくんも買っちゃう?」

「家での普段使いにも良さそうだし」

「そうなんだ」

 と桃香が、決めたはずの物を奇麗に整えて戻す。

「ん?」

「色、同じにしよ?」

 もしかして、と思ったことと全く同じ内容を口にされる。

「せっかく、二人で来てるもんね」

「……」

「わりとみんな持ってるから、被ったくらいにしかならないと思う」

「まあ、そうか」

「そうだよ?」

 じゃあ良いよね? とばかりに桃香がチョイスをやり直す。

「どっちがいい?」

「……」

 そして指差したのは薄いベージュとグレー。

 ちょっと考えてから、隼人はグレーを選択する。

「じゃあ、こっちで」

「そう?」

「その方が桃香にレア感あるし」

「そっか……そうかも」

 頷いた桃香がサイズは先程確認済みなので自分用の物を手にとって、そのまま二人で男性用の方に赴き。

「はやくんはXL?」

「まあ、そうだな」

「うん」

 またもや隼人が手を出す前に隼人の分まで抱えてセルフレジに向かわれてしまい、隼人は後から付き従うしかできない。

「そうそう」

「うん?」

「後で分けちゃえばいいから、今は袋同じでもいいよね?」

「まあ、うん」

「ね?」

 二着を入れた袋の中を確かめるように覗いて閉じて、それから笑って。

 楽しそう具合が、もう一段上がった気がした。






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