女子社員のランチ会話が辛辣すぎる件
こちら、武 頼庵(藤谷 K介)さま主催 能登沖地震復興支援『繋がる絆』企画参加作品です。
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「イトちゃん引越ししたんだってー?」
「え、何で知って…………あーっ! ドツボね?!」
「そそ。総務に経費精算に行ったら、ドツボがペラペラしゃべっていたの」
「うっわ、マジか」
……この声は、伊藤と宮原だな。
ここのランチ美味いし大盛り無料だから、よく来るけどたまに同じ会社の人間に会うんだよ……。って言っても、背の高いパーテーションのおかげで、俺の姿は向こうには知られていないが。
んでもって、きっと『ドツボ』は総務の三田さんだろう。あいつらもドツボって呼んでたのか……。男性社員の間では、三田のババア略してサンバだ。
「ほんっっとに、ドツボって他人のことベラベラ喋るのね!」
「うん。イトちゃんがきっと、住所変更の届出メールだしたんだろうなって思った」
あー、サンバならやりそう。
ってか、営業部の原田もやられてたな。そろそろ部長から注意してもらわなきゃだなぁ。
「ねぇ、宮原さん! 伊藤さんお引越ししたのよ!
住所をゴーグルマップで調べてみたら、なんか高そうなマンションだったわ! 郊外っぽいのに!――って、言ってた」
「あー、もう! 誰も注意してないの?! 総務部の部課長とか!」
「するわけないじゃん。じゃなきゃ、超弩級(クソ)お局。略してドツボ! なんてあだ名つかないよ。一応あたし軽く注意したけど、あのババア笑ってたよ。アタシはだいじょーぶよって」
「部課長つっっっかえねぇ!! つーか、大丈夫なわけねぇだろ、何考えてんだ、あのクソババア。別に宮ちゃんには知られていてもイイけど、他はやめれっての」
あー、部課長コンビも手に負えないのかよ……。おばちゃんパワーに勝てないんだなぁ。
んでもって、超弩級お局でドツボか。なるほどなぁ。給湯室のそば通ると『ドツボ』への愚痴がよく聞こえるから、内容的にサンバのことだってわかったけど……。
今の時代、個人情報ペラペラ喋り散らかすのまずいっての……。俺から注意するかぁ……。
それにしても、伊藤クチ悪いな。
「まぁ、ドツボは嫌だって言っても聞かないから、頭どっかすっ飛んでるよねー。昭和に置いてきたのかなー」
「ほんと、やめてって言ってるのに聞かないのって、セクハラオッサン社員連中と一緒だよ」
宮原も中々キツい言い方だな。
伊藤よ、俺はそのセクハラオッサンの中に入ってないよな……? 大丈夫だよな?!
「あれ? そういやドツボがマンションだって言ってたけど、イトちゃんとこの旦那さん、一軒家希望じゃなかったっけ?」
「あぁ、あれ却下したよ。マンション育ちだから、庭に憧れていたみたいだけどさ、手入れ方法知るはずないじゃん?」
「え? それで庭付き希望したの?! お庭について調べたりは……?」
「ないない! 言うだけ! 希望するだけ! 自分は見るだけ」
「うっわ、マジか。クズだな」
宮原ぁ、お前もクチ悪いのか……。
つーか、庭付きに憧れるのはわかるなぁ。俺も手入れの方法ってよくわかんねぇな。
手入れができないと希望しちゃいけないのか……。カミさんに言わなくてよかった……。
「一軒家って、建売だと2階か3階建てが多いじゃない?」
「だねー」
うんうん。俺の家も床面積狭めの3階建てだ。土地が高いから面積は狭めで土地を買って、上にのばすしかないっていうアレな。
「んで、その縦に伸びた家を掃除するのはだーれ? ってなるのよね。私は定時出勤・退勤で通勤時間は片道30分くらい。旦那は通勤は車で20分くらいだけど、早番・遅番ある上に、残業モリモリ」
「家にいる時間は、イトちゃんのが長いから、家事はイトちゃん多めだよねー」
まぁ、家事の割合はその家庭家庭だし、なんとも言えないよな。
「階段上り下りで上から下を掃除、おまけに庭の掃除や手入れも私に降りかかるなんて、冗談じゃないよー」
「だねー。それなら庭もないうえに、全部屋が同じ階にあるマンション一択だよね!」
え、そんな風に考えるもんなの? つーか、お家に庭があったら、子供の遊び場つくるとか夢広がるじゃん? うち庭ないけど。
「ホントにその辺見えてないんだから、いい加減にしてってケンカしたんだもん」
「あー、おうちの理想型ばっか見てたのか、イトちゃん旦那」
「そりゃあ私だって、バイクのためにガレージ付きの家が欲しかったけど、マンションの駐輪場で我慢したよ。理想見てたら家のローンが膨らみまくる!」
家のローン! 痛い言葉っ!!
うちは1階に駐車場、あと玄関、4畳半の客間と風呂とトイレがある。
駐車場の上がリビングだからな……ガレージ付きなんて無理だったよ……。
理想ばっか見てました、すんません。
「掃除も皿洗いも、何ひとつマトモに出来ないんだよ。お皿洗ったらギトギトのまんまだし。食洗機の方が優秀だわ」
「あははは、イトちゃん旦那さんて、実家でお手伝い家事してこなかったタイプかなー」
「だと思う。出来るムーブだけかまされるから、すっごいイラつく」
あ、数年前にカミさんに俺も言われた。食洗機の方が優秀って……。
俺も出来るムーブかましてました。いや、洗剤つけたスポンジで皿をこするだけだろ? 出来るって思うじゃん!
なのに、泡を流し終わったら、油汚れが落ちてないとか言われてさ……擦っている時、泡で見えないだろ。
「わかるー。うちの旦那はタブレットで動画見ながら洗い物するから、手を動かしてる風なだけー」
「宮ちゃんとこもか! それも最悪だねー。出来ないのをツッコむと逆ギレするし、ホント勘弁して欲しい」
うぅ、耳が痛い。
いや、食洗機を導入した我が家は無敵だ。
「あと、お掃除! 基本の基で上から順にってのもやってくれないし、掃除機かけてすみっこホコリ残っていてもドヤ顔!」
「わー、イトちゃん旦那とうちの旦那、魂の双子みたいー」
「「………………ハァ」」
ため息が重いぞ!
よし、うちはロボット掃除機もいるから、なおさら無敵だな!
「ロボット掃除機だって万能じゃ無いのにさぁ」
何っ?! どういうことだ、宮原!!
「そうそう。帰ってきてから即靴下をリビングにポイ捨てするの、ホントに殺意湧く」
「イトちゃんとこもー?! マジで魂の双子!!」
「床散らかされると、ロボット掃除機の意味ないよねー」
フッ……床にある物を片付ける役割は俺だ。カミさんにきつーく言われたからな。
子供のブッ散らかしハンパないけどっ!!
「掃除をイチからやらないから、平気な顔して散らかすのよね」
「そうそう。そんである時、「おい、散らかってるぞ」とか上から目線ー。お前が散らかしたんだろが! ってね」
「ホントホント! 宮ちゃん旦那も中々だね」
うっ……カミさんにシバかれた記憶が……。
「おかーさんにぜーんぶやって貰っていたんだろうねぇ。お金以外の生活力と思いやり的な人間力も、しっかり身につけてから結婚に踏み切れって感じ」
「あたし、家事あんまり出来なかったけど調べまくって、実践しまくったー。そうしたら、旦那と家事レベル差がついて、アイツサボるようになったの」
「宮ちゃんとこもか……」
あ、俺も思った。じゃあ出来る方がやればいいよねって。そんで任せていたら、ある日実家に帰られた……。
あー、そういう事だったのか……。なんか拗ねて帰ったから、テキトーに謝って帰ってきてもらったけど。
…………もしかして、俺それなりに地雷踏んでた?!
カミさんにご機嫌取りで、ホールケーキと花束でも買って帰ろうかな……。
「そんで、ブチ切れたら、ケーキと花束買ってきてんの!」
「あはははは、うちもあったー! イトちゃん旦那と双子すぎー!」
「うちに花瓶なんてねぇってのに、バカじゃねぇの?! ケーキだってホールで持ってこられても、冷蔵庫の空きねぇわ! って更に切れたよー」
「あるあるー!! ケーキよりありがとうの言葉欲しいよねー!」
「それね!」
あっっっっっっぶねぇ!! 帰りにまず電話して美味しそうなケーキ屋見つけたけど、買っていいかを聞こう……いきなりだと地雷踏み抜くかもだな。花はやめとこう……。
ありがとう、伊藤・宮原。
さて、ランチも食ったし、戻って一服したら、昼休みも終わる。サンバに注意して、総務部の部長にも注意しなきゃだ。
今日のランチは、味がしなかった……。
俺は帰りにカミさんに電話して、ケーキを買って帰る。
そして、カミさんに家の事結構任せっぱなしなので、ありがとうとごめんを伝えた。
次の日の夕飯、少しだけ豪華だった。俺好みの味付けで出てきたの、数年ぶりだ。けれど、子供たちに不評だったようだ。
子供たちが喜ぶ味付けにしてもらうよう伝える。もちろん、カミさんに今日のご飯がとても嬉しかったことを、ありがとうと言葉にして。
――半年後
昼休み。少し前までカミさんが弁当を作ってくれていたのだが、それも今はお休みだ。
ここの大盛り無料ランチ、久しぶりで懐かしい。
「イトちゃん、イトちゃん! なんか、営業の佐藤部長んトコ、奥さん妊娠中らしいよ。んで、ブチョ禁煙宣言してた」
「あらま……めでたいのねー。つーか、最近旦那が優しくなったのよー。悪いもんでも食ったのかなぁ?」
「あれ? イトちゃんとこも?」
……伊藤と宮原だ。半年前に彼女らの言葉で目が醒めた俺は、冷えかけていた家族仲を取り戻せた。
なので、宮原の夫である人事部の宮原と、取引先の伊藤さんにこっそりアドバイスをしている。もちろん彼女らの事は伏せて。
こんな恩返ししか出来ず、結果が出るのかもわからなかった。
「やっぱ、魂の双子だねー」
「だねー」
彼女らの声が嬉しそうなのが、結果と思おう。