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ある青年の記憶
――――――何もない、と思っていた。
魔術師の間でも由緒ある家柄に生まれ、生まれたときから、生活全般の不自由はなかった。
ただ一つ、俺に『魔術の才能が無い』ことを除いては。
生まれたときから、周囲の目が怖かった。
憐憫や嘲笑、失望した両親の顔。
そんなものに苛まれながら、それでも頑張ってきた。
頑張ってきた、つもりだったんだ。
誰にも必要とされない、と思っていた。
あの雨の日、気紛れに、ほんの気紛れに拾ったあの猫と
『約束』を交わすまでは――――――