チノちゃんとピザトースト
その日は朝から雨が降っていた。
先日仲良くなったテマとまた遊びたいというチノたっての希望で、今日はアレンとテマが、ローラン達の喫茶店に泊まりに来ていた。
「いやー、わりぃなローラン。お邪魔しちまって」
「良いって良いって。チノの希望だし、たまにはこういうのも悪くないだろ?」
玄関でご主人二人がそんな会話を交わす中、チノはテマの手を引いて、クレヨンで画用紙にお絵かきをしたり、カラフルな積み木を積み上げて、さっそく遊びだした。
「そうだチノ、テマ、今晩の夕飯は何を食べたい?」
夕方になっても、なお降りしきる冷たい雨。ローランは店内にある円筒形の薪ストーブに火を付けてから、猫又の子供二人に聞いた。
「トマト、トマトが食べたいでし!」
「ボクもー!」
二匹の猫又は、積み木を積み上げる手を止めて、ハーイ!と元気いっぱい手を上げてそう答えた。
「ふむ、『トマト』か……ちょっと待てよ」
二人のリクエストを聞いてから、ローランは冷蔵庫を覗き、夕飯のメニューを思案する。そうして数分、 調理台の上に並べられていく食材を見て、隣に着いてきたアレンは頷いた。
「なになに…………チーズにトマトの水煮、ピーマン、マッシュルーム、サラミ、玉ねぎ……? ははぁ、こりゃ、ローランあれだな?」
「さぁ、なんだろうな?」
そんなアレンに、ローランは意味深にそう返すと、小さな鍋にトマトの水煮、すりおろしたニンニク、塩を少々入れて、その上からオリーブオイルをほんのちょっと回し掛け、火を付けてぐつぐつと煮詰めはじめた。そしてアレンに、
「悪いが、其処のカウンター近くに置いてあるバスケットから、食パンを出してきて、厚切りにしてくれないか」
と、そう指示を出す。
「へーへー」
アレンはそう返事を返すと、おもむろにバスケットから食パンを取り出し、それをブレッドナイフ (パン切り用のナイフ) でザクザクと、四人分に厚切りしていった。
その上からローランは、先程煮詰めたトマトソースを丁寧に塗ってゆく。同時進行で具材も切り分けボウルに分け入れると、頃合いを見て、ストーブの近くで遊んでいるチノとテマに声を掛けた。
「おーい、チノー、テマー、ちょっと手伝ってくれないか?」
「はい、ローランさん、なんですか?」
「パパ、どうしたでしか?」
ローランが呼ぶと、二匹の猫又はトテトテとこちらに駆けてくる。
彼はそんな二人に、先ず綺麗に手を洗うように指示をすると、
「二人にも、今日の晩ご飯作りを手伝って欲しいんだ」
と少し屈んで言った。
「え、ボクも手伝って良いんですか?」
テマが驚いたように聞くと、ローランはもちろん、と頷く。
「是非テマくんにも手伝って欲しい。二人とも手は綺麗に洗ったか? 洗ったな? …………そしたら此処の、今アレンが切り分けた食パンの上に、それぞれのボウルに分けてあるピーマンやサラミとかをな、チノとテマが食べたい分量散らして欲しいんだ」
「チノ達がやっていいんでしか?」
驚いたように尻尾をピンと立てて訊ねるチノに、ローランはうんうんと頷く。
「ああ。 好きなだけ散らしていいぞ」
「やったー!」
優しいローランから許可を貰った二人は、とても楽しそうに、ハイタッチをしてはしゃいだ。
そんな二人の様子を見ていたアレンは、そういえば、と口を挟む。
「そういや、お前達って玉ねぎは大丈夫なのか……? ほら、猫科はネギ類はダメって良く聞くだろ?」
心配そうに聞くアレンをよそに、チノは何でもないというように、小さな胸を張って答える。
「もちろんふつうの猫さんはダメでし。でも、チノは猫又さんだから、なんでも食べられるでし!」
「へー……そうなのか。猫又って凄いんだな」
*
――――――数分後、ローランに指示された通り、具材をパンに散らしたチノ達は、その上からさらにチーズを散らして、オーブンに入れて六~七分加熱する。オーブンの中で次第にこんがり蕩けていくチーズ、漂ってくる美味しい匂いに、思わずチノとテマの小さなお腹から、くうぅ~という音が聞こえてきた。それを聞いた魔術師達は、思わず顔を見合わせて吹き出した。
オーブンで加熱する間、他のサラダや食材を準備していたローランとアレン。暫くして
「焼けたでし! 早く早くでしー!」
と呼びに来たチノに連れられて、両手にミトンを付けてから、オーブンからこんがり焼けた、美味しそうなトーストを取り出す。
「出来たぞ。今日の夕飯はピザトーストだ!」
「わーい!」
「やったーでし!」
チノとテマ、それにアレンも手伝ったお陰で、夕食はいつもより早く、賑やかなものになった。
「いっただっきまーす! ……ふお~、じぶんで作ってみると、またおいしく感じるでし~!」
「ボクも! …………本当だ!チーズとソースがとってもおいしいです、ローランさん!」
「ははは、良かった良かった。アレンも、手伝ってくれてありがとうな」
そう言って、ローランはいつもとは違い、取ってきたアレンのグラスにワインを注ぐ。アレンがそのローランの行動に、一瞬だけ驚いて目を丸くすると、ローランは
「たまにはいいだろ?」
と笑った。
「あっはっは。やっぱりお前は最高のダチだなローラン!よーし、今日は朝まで呑むぞー!」
そう言って嬉しそうに、早速グラスのワインを呷るアレンに、ローランは待て待てと慌て出す。
「おい待て! 朝までとは言ってないだろ!?チノやテマ達もいるんだぞ!?」
「だーいじょうぶだって、よし、もう一杯」
「おい、まて、アレン、アレーン!!」
*
――――――その夜。ローランが片付けを終え、結局泥酔して眠り込んだアレンを客室に運び終えると、 先に寝てて良いと言ったチノ達の様子を見に、彼女の私室、子供部屋を訪れた。
「チノ、 テマ――――――っと」
極力音を立てないようにして部屋のドアを数センチ開け、そこから部屋を覗き見ると、チノとテマは、寄り添うようにしてスヤスヤと小さな寝息を立てていた。
「ふふふ、楽しかったんだな。おやすみ、チノ、テマ、良い夢を」
電気を消した部屋の外、雨が上がり、すっかり晴れた夜空から、星達の光が、二匹の子どもに優しく降り注いでいた――――――




