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妖怪喫茶・鈴猫堂へようこそ!  作者: 花宮智子
10/11

チノちゃんとピザトースト

その日は朝から雨が降っていた。

先日仲良くなったテマとまた遊びたいというチノたっての希望で、今日はアレンとテマが、ローラン達の喫茶店に泊まりに来ていた。

「いやー、わりぃなローラン。お邪魔しちまって」

「良いって良いって。チノの希望だし、たまにはこういうのも悪くないだろ?」

玄関でご主人二人がそんな会話を交わす中、チノはテマの手を引いて、クレヨンで画用紙にお絵かきをしたり、カラフルな積み木を積み上げて、さっそく遊びだした。

「そうだチノ、テマ、今晩の夕飯は何を食べたい?」

夕方になっても、なお降りしきる冷たい雨。ローランは店内にある円筒形の薪ストーブに火を付けてから、猫又の子供二人に聞いた。

「トマト、トマトが食べたいでし!」

「ボクもー!」

二匹の猫又は、積み木を積み上げる手を止めて、ハーイ!と元気いっぱい手を上げてそう答えた。

「ふむ、『トマト』か……ちょっと待てよ」

二人のリクエストを聞いてから、ローランは冷蔵庫を覗き、夕飯のメニューを思案する。そうして数分、 調理台の上に並べられていく食材を見て、隣に着いてきたアレンは頷いた。

「なになに…………チーズにトマトの水煮、ピーマン、マッシュルーム、サラミ、玉ねぎ……? ははぁ、こりゃ、ローランあれだな?」

「さぁ、なんだろうな?」

そんなアレンに、ローランは意味深にそう返すと、小さな鍋にトマトの水煮、すりおろしたニンニク、塩を少々入れて、その上からオリーブオイルをほんのちょっと回し掛け、火を付けてぐつぐつと煮詰めはじめた。そしてアレンに、

「悪いが、其処のカウンター近くに置いてあるバスケットから、食パンを出してきて、厚切りにしてくれないか」

と、そう指示を出す。

「へーへー」

アレンはそう返事を返すと、おもむろにバスケットから食パンを取り出し、それをブレッドナイフ (パン切り用のナイフ) でザクザクと、四人分に厚切りしていった。

その上からローランは、先程煮詰めたトマトソースを丁寧に塗ってゆく。同時進行で具材も切り分けボウルに分け入れると、頃合いを見て、ストーブの近くで遊んでいるチノとテマに声を掛けた。

「おーい、チノー、テマー、ちょっと手伝ってくれないか?」

「はい、ローランさん、なんですか?」

「パパ、どうしたでしか?」

ローランが呼ぶと、二匹の猫又はトテトテとこちらに駆けてくる。

彼はそんな二人に、先ず綺麗に手を洗うように指示をすると、

「二人にも、今日の晩ご飯作りを手伝って欲しいんだ」

と少し屈んで言った。

「え、ボクも手伝って良いんですか?」

テマが驚いたように聞くと、ローランはもちろん、と頷く。

「是非テマくんにも手伝って欲しい。二人とも手は綺麗に洗ったか? 洗ったな? …………そしたら此処の、今アレンが切り分けた食パンの上に、それぞれのボウルに分けてあるピーマンやサラミとかをな、チノとテマが食べたい分量散らして欲しいんだ」

「チノ達がやっていいんでしか?」

驚いたように尻尾をピンと立てて訊ねるチノに、ローランはうんうんと頷く。

「ああ。 好きなだけ散らしていいぞ」

「やったー!」

優しいローランから許可を貰った二人は、とても楽しそうに、ハイタッチをしてはしゃいだ。

そんな二人の様子を見ていたアレンは、そういえば、と口を挟む。

「そういや、お前達って玉ねぎは大丈夫なのか……? ほら、猫科はネギ類はダメって良く聞くだろ?」

心配そうに聞くアレンをよそに、チノは何でもないというように、小さな胸を張って答える。

「もちろんふつうの猫さんはダメでし。でも、チノは猫又さんだから、なんでも食べられるでし!」

「へー……そうなのか。猫又って凄いんだな」


                    *


――――――数分後、ローランに指示された通り、具材をパンに散らしたチノ達は、その上からさらにチーズを散らして、オーブンに入れて六~七分加熱する。オーブンの中で次第にこんがり蕩けていくチーズ、漂ってくる美味しい匂いに、思わずチノとテマの小さなお腹から、くうぅ~という音が聞こえてきた。それを聞いた魔術師達は、思わず顔を見合わせて吹き出した。

オーブンで加熱する間、他のサラダや食材を準備していたローランとアレン。暫くして

「焼けたでし! 早く早くでしー!」

と呼びに来たチノに連れられて、両手にミトンを付けてから、オーブンからこんがり焼けた、美味しそうなトーストを取り出す。

「出来たぞ。今日の夕飯はピザトーストだ!」

「わーい!」

「やったーでし!」

チノとテマ、それにアレンも手伝ったお陰で、夕食はいつもより早く、賑やかなものになった。

「いっただっきまーす! ……ふお~、じぶんで作ってみると、またおいしく感じるでし~!」

「ボクも! …………本当だ!チーズとソースがとってもおいしいです、ローランさん!」

「ははは、良かった良かった。アレンも、手伝ってくれてありがとうな」

そう言って、ローランはいつもとは違い、取ってきたアレンのグラスにワインを注ぐ。アレンがそのローランの行動に、一瞬だけ驚いて目を丸くすると、ローランは

「たまにはいいだろ?」

と笑った。

「あっはっは。やっぱりお前は最高のダチだなローラン!よーし、今日は朝まで呑むぞー!」

そう言って嬉しそうに、早速グラスのワインを呷るアレンに、ローランは待て待てと慌て出す。

「おい待て! 朝までとは言ってないだろ!?チノやテマ達もいるんだぞ!?」

「だーいじょうぶだって、よし、もう一杯」

「おい、まて、アレン、アレーン!!」


                *


――――――その夜。ローランが片付けを終え、結局泥酔して眠り込んだアレンを客室に運び終えると、 先に寝てて良いと言ったチノ達の様子を見に、彼女の私室、子供部屋を訪れた。

「チノ、 テマ――――――っと」

極力音を立てないようにして部屋のドアを数センチ開け、そこから部屋を覗き見ると、チノとテマは、寄り添うようにしてスヤスヤと小さな寝息を立てていた。

「ふふふ、楽しかったんだな。おやすみ、チノ、テマ、良い夢を」

電気を消した部屋の外、雨が上がり、すっかり晴れた夜空から、星達の光が、二匹の子どもに優しく降り注いでいた――――――

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