【9】街へ襲撃する
「まずは、街の周りを最低限の人数で取り囲みます。まぁ、最下級の悪魔で大丈夫だと思います」
「なるほどなるほど」
「それと、今回の目的は占領なので、最速で敵の大将を討ち取るのが良いでしょう」
「大将というと」
「この場合は、領主と兵士長の2人でしょう」
「なるほど。だけど、他の兵士はそのままでいいのか?」
「はい。ここは魔族領とも離れていますから、大した人物はいないでしょうし、兵士全員がかかってきたところで大丈夫でしょう」
「おぉ、すごい自信だ……」
「ですので、雑兵などは私にお任せください。大将は空阿様にお任せします」
「お、俺!?」
俺よりもアシスの方が強いと思うんだけど……。
「確かに、多くの下級悪魔を召喚できる空阿様の方が雑兵、単騎の私が大将を狙う方が良いかもしれません」
「俺もそう思うんだが……」
「ですが、空阿様の威厳を高めるためにも、大将を討っていただく方が良いと思います」
「そうか……。俺が領主になるわけだから、力を見せつけておいた方がいいのか……」
「その通りです。ですので、大将の方はお任せしますね」
てことは、悪魔に大将を討たせるようにすればいいのか。
(まさか、悪魔に討たせようと思ってる?)
「え?そうしようと思ってたけど」
(はぁ、やれやれ……。お前に1つ能力を教えてやるよ)
「はぁ?」
(いいか?お前にまだ教えてなかったが、悪魔召喚の能力は召喚して使役するだけじゃないんだよ)
「お前……。なんでそんな大事なことを黙ってやがった!!」
(聞かれなかったからねぇ~)
こ、こいつ……!!
(で、その能力ってのは、悪魔と同化できるってものだ)
「同化?」
(あぁ、まずは最下級の悪魔1体出してみろ)
「わかったよ」
空阿は言われるがままに悪魔を1体召喚した。
「で?ここからどうすんの?」
(悪魔を消す時と同じような感覚だが、実際に消すわけじゃない。悪魔を消す時に魔力が空気中に放出されるが、それを自分の中に入ってくるイメージをするんだ)
消すわけじゃないが、消すイメージ……?魔力が自分の中に入ってくるイメージ……?まぁ、よくわからんけど、とりあえずやってみるか……。
カブルに言われた通りに悪魔を消すわけじゃないが、消すイメージをする。すると、悪魔の体が徐々に消えていき、消えると同時に何かが自分の中に入ってくるのを感じることができた。
こ、これのことを言ってたのかカブルは……。
悪魔の姿が完全にいなくなると、自分の中にカブル以外の何かがいる感覚がした。
(うまくいったようだな)
「お、おぉ」
(じゃあ、次は、入ってきた奴を感じながら、悪魔同化って言いな)
「分かった。悪魔同化!!」
そう唱えると、体の中心から力が湧き上がってくる。
「こ、これは……」
身体を見てみると、両腕は肘から下が黒くなっており、指先には鋭い鉤爪がついていた。
(うまくいったようだな。それが悪魔同化だ)
「……す、すごい!!前よりも力が上がってる」
(ステータスボードも見てみな)
「あ、あぁ、そうだな」
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名前:苫芝 空阿
Lv:50
[ステータス]
HP:4500 MP:2500 力:132(+20) 身の守り:129
素早さ:93 魔法攻撃:106 魔法防御:101 運:10
[スキル]
・悪魔召喚
・陞滂スゥ闖エ?ソ陷ソ?ャ陜
〇---------------------------------------------------------〇
「力が上がってる……!!」
(まぁ、最下級の悪魔だからその程度だがな、上級になるほど能力の上昇も大きくなってくる)
「最下級でこれなのか……」
上級。例えば、アシスレベルの悪魔と同化したら、どれだけのパワーアップになるんだ……!!
(あ、でも、まだ上級の悪魔と同化するのはやめとけよ)
「え、何で?」
(レベルが足りない、このままのレベルで上級と同化しようもんなら、身体が爆発するぜ)
「ば、爆発!?」
(まぁ、嘘だけど)
「嘘かよ!!」
こいつちょくちょく嘘ついてくるなぁ。
(爆発はしなくても、同化しようとしてもできないし、しばらく動けなくなるからやらない方がいいぜ)
「そうなのか……。レベルが足りないってのは本当なのか?」
(それは本当。上級と同化するには、もっとレベルを上げないとね~。レベルが上がれば、1度に同化できる数も増えるし)
「今のレベルだとどの階級を何体まで同化できるんだ?」
(うーん、そうだなぁ……。下級の一部を1体かなぁ」
下級の一部か……。となると、戦いになる前に調べとかないとな。
「……あの、もうよろしいでしょうか?」
「あ、ごめん!!」
何か前にもこんなことあったな……。
その後は、もう一度作戦内容のおさらいと、同化できる悪魔の種類と能力の確認を行って時間が過ぎていった。
「それで、敵方の大将は討てそうですかね?」
「あぁ、大丈夫だ」
同化できる悪魔はあらかた試した。あとは、相手の大将がどんな奴なのかで対応するだけだ。
最下級の悪魔を気が付かれないように街の周りを取り囲むように配置して、街から出てくる者がいたら捕縛をする。そして、捕縛が無理なようであれば殺すように命令した。
この街が落とされたっていう情報が外に流れるのは、なるべく遅くしたい。もしかしたら、街の中に遠方と連絡を取る道具や魔法があるかもしれないけど、あったらあったでしょうがない。
「よし、行くぞ!!」
空阿達は小高い丘から飛び立ち、街の遥か上空へと移動する。
「シアス分かっていると思うが、民間人には手を出すなよ」
「はい。民間人には一切手を出しませんので、ご安心ください」
「じゃあ、任せたぞ」
「お任せください」
そう言うと、シアスは急降下していき、街の中心へと降り立った。急に現れたシアスの存在に民衆は驚き、悲鳴を上げながら逃げ惑った。しばらくすると、兵士たちが現れて、シアスに攻撃を始めた。
その様子を見ていた空阿は移動を開始した。
「あそこか……」
空阿は街の中の一段と大きく、頑丈そうな建物を目掛けて急降下していく。建物にたどり着くと、同化を解除して、新たに別の悪魔と同化をした。
「何者だ!!」
空阿の存在に気が付いた兵士が近づいてくるが、下級の悪魔を召喚することで対処して、建物の中へと進んで行った。
「どこだ。どこにいる」
この街を治めている人物がいる部屋をしらみつぶしに探してく。
「ここか!!」
扉を開けると数名のメイドがいた。
「「……」」
「キャアァァァァ!!」
「あぁ、ごめん!!」
間違えた!!……てか、なんで俺謝ってんだろ……。
「ここじゃあないとすると、こっちかな」
目的の部屋を探していき、数部屋目の扉を開けたところで目的の人物を見つけた。
「多分お前だな」
服装を見る限り明らかに身分が高い人物であることが分かった。
「き、貴様は何者だ!?」
「この街を貰いにきた者だ」
「な、なんだと!!」
「俺は別にお前を殺したくもないが、邪魔をするんだったら……」
「ひ、ひぃぃぃ!!」
空阿を恐れて怯んだのか、領主と思われる人物は後ろに思いっきり転んでいた。
「貴様!!この街での狼藉は許さんぞ!!」
「おぉ、兵士長!!あの、侵入者を始末しろ!!」
「はっ!!」
空阿の前に立ちふさがったのは、全身が鎧で覆われている大男であった。
「さぁ、こいっ!!」
兵士長が剣を構えると同時に窓ガラスが割れた音がした。
「なんだ!?」
兵士長がそちらの方を見ると、小さな悪魔が窓ガラスを割って部屋の中に入っていた。
「新手か!!」
そう叫んだ瞬間、ドンっと衝撃を感じて兵士長が頭を下げてみると、空阿が胸元にいた。
「まぁ、兵士長っていっても、魔族領から離れている辺境の地となるとこんなもんか……」
「何を言って……」
次の瞬間ズボっという音と共に空阿が兵士長から離れると、その右腕は赤黒くきらめいており、手には何かが握られていた。
「何も武器を持ってないと思って油断したのか……?」
「なんだそれは……」
「うーん。あんな作戦に引っ掛かるなんてな……」
状況が飲み込めない兵士長であったが、自身の胸元を見てみると、自慢の鎧に大きな穴が開いており、そこから血が溢れている。
一方の空阿はそんな兵士長をまったく気にしていないようであった。
「ま……」
鎧の大穴、空阿が握っている物、状況を理解した兵士長はその場に倒れて、そのまま動かなくなった。
「へ、兵士長……?」
領主が兵士長に近づいてみたが、兵士長は物言わぬ屍となっていた。
「ひ、ひぃぃぃ!!」
腰を抜かした領主の元に近づいてくる影があった。
「さぁて、お前はどうしようか……」