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【3】空阿の身に起きた変化

「ま、魔族だ!!」


「助けてくれ!!」


 集まっていた民衆は、変貌した空阿の様子を見て散り散りに逃げていった。その様子をただただ眺めていると、兵士たちがこちらに向けて攻撃をしてきているようで、火の球や尖った氷、矢などが飛んできた。


「これは……魔法というものか」


 最初の内は飛んでくるものを躱していたが、興味本位で1発受けてみることにした。飛んできた魔法を手で受け止めてみたが、大したダメージにはなっておらず、少しチクリとしたぐらいであった。


「ふむふむ、なるほどな。……こうか」


 空阿は、指を1本突き出した。すると、指先にどす黒い炎が形成されていき、指を兵士たちの方に振り下ろすと、黒炎が1人の兵士目掛けて飛んで行き、直撃した。


「ぐぉぉ、あ、熱いぃぃぃ!!」


「は、早く消火しろ!!」


「な、中々消えません!!」


 水魔法で消火しようとしているものの、何故か黒炎はなかなか消えることなく、消火には時間がかかっており、火力の高さが目に見えて分かった。


「くそ!!騎士団を呼べ!!俺たちでは倒せない!!」


 そう言うと、数人の兵士が城に向かって走り出した。


「もっと強いやつがいるのか……。まぁ、大丈夫だろう」


 逃げ惑う民衆に向けて魔法を放とうとしたが、体の動きが止まった。


「……ちっ。ここまでか」


 放とうとした魔法をおさめると、体の自由が戻った。


「と、するとどうするか……。許可なく危害を加えることもできないようだし……」


 現状をどうしたものか考えていると、城から大勢の兵士たちがこちらに向かってくるのが見えた。


「仕方ない……。ひとまずこの場から離れるとしよう」


 そう言うと、上空へと大きく羽ばたき、遠くの山を目指して飛んでいった。


 その様子を見ていた兵士たちは国王に状況の説明をしに行った。


「なんと……。そのようなことが……」


「やはり、あやつは魔族だったか……」


「殺すことには失敗しましたが、英雄として我が国に置いておかなくて正解でしたね」


「いやはや、スパイを送り込んでくるとは……。魔族とはなんとずる賢い存在なのだ」


 王の元に集まっていた貴族達はそれぞれ思い思いのことを口にして、空阿に対する処遇が正しいものだったと、自分たちの判断に安堵した。


「王よ、いかだなさいますか」


「うむ、我が国はもちろんのこと、各国に対しても指名手配をするように通達を出せ」


「はっ!!」


 そう言うと、貴族達は空阿を指名手配するための準備を進めるために動き出した。その様子を見て、ローレンス国王は王座にドカッと座った。


「ふぅ、まさか英雄に成りすまして、我が国に忍び込むとはな……」


「王の判断により、最悪の状態は免れました」


「……被害はどうなっておる」


「どうやら、幸いにも死者は0名で、兵士1名が全身火傷の重傷を負っただけのようです」


 王様は大きく息を吐き、その報告に安堵した。


「そうか……。それは良かった」


「ですが、兵士どもの話によりますと、低級魔法や補正無しの弓矢ではダメージを与えることはできなかったそうです」


 負傷者の報告で安堵したのも束の間、その報告を聞くと、頭を抱えた。

 

「……ということは、上級魔族だったということか……」


「上級以上は確実かと……」


「……今まで以上に警備を強化するように伝えておけ、いつ再び襲い掛かってくるか分からない」


「了解しました。各街の警備に限らず、検問所でも警備を強化するように伝えておきます」


「任せた」


 シュナイドは一礼をして王の元を離れると、ローレンスは天を仰ぎ目を(つむ)った。


「どうしたものか……」


 人間の国にまで魔族が紛れ込んでいたと勘違いしたローレンスは、今後の対策に頭を悩ませるのであった。


 一方、王都を離れた空阿は遠くの山に降りていた。


「ここでいいだろう……」


(で、お前は何なんだ?)


「俺か?俺は……。ふふふ、そうだな、内緒だ」


(な、内緒ってお前……」


 王都で空阿の体を動かしていたのは空阿自身ではなく、別の何者かであった。王都を離れて山に向かっている途中、意識を取り戻した空阿は、自分の体が乗っ取られていることに驚いた。しかし、すぐに落ち着いて、体を操っているのが何者なのか聞いてみるが、はぐらかされるだけだった。


「む、そろそろ時間か」


「そろそろ時間かって……あれ、戻った」


(しばらくはお前と共に過ごしてやろう)


「過ごしてやろうって……」


 いつの間にか体が動かせるようになっていた空阿は自分の中にいる何者かについて調べることにした。


「で、お前は何者なんだよ」


(内緒って言っただろ?)


「ヒントくれ、ヒント」


(ヒント?そうだなぁ、お前自身が良く知ってるだろう?)


 俺が良く知ってる?……何だ?


(ふふふ、そうだな、向こうの世界にはなくて、こっちの世界にはあるものだ)


「向こうの世界にはなくて、こっちの世界にはあるもの……スキルか?」


(お、そうそうスキルだ)


「て、ことは……。……悪魔か!!」


(ご名答~)


 ご名答~って……。


「お前のせいで、こんなことになってるんだぞ!!」


(おいおい、酷いなぁ。悪いのはこの世界のやつだろ?)


「いやでも……」


(あいつらはお前の話も聞かずに一方的に殺そうとしたんだぞ?」


「……」


(勝手に召喚したくせにな)


 悪魔の言葉を聞いているうちに、再び自分の中でどす黒いものが込み上げてくるのを感じた。


(……悪いのはこの世界のやつらなんだ。お前は悪くない)


 そうだ……。俺は何もしてないのに、あいつらは……。


 脳内に響く声は甘く、どす黒いものがどんどん込み上げてくる。


(こんな目に合わせた奴らに復讐しよう。皆殺しにしようぜ)


 ソウダ……。フクシュウヲ……。ミナゴロシニシテ……。


 どす黒いものが沸き上がっていくにつれて視覚、聴覚、触覚とあらゆる感覚が無くなっていく。視野が狭まっていき、先ほどまで聞こえていた動物の鳴き声も遠ざかっていき、フワフワとした感覚が襲ってくる。


(そうだ、そのままその感情に身を任せるんだ)


 どす黒いものに染まり切ろうとした瞬間、空阿の体が突然光ると、先ほどまでの感情が嘘だったかのように、全ての感覚がハッキリとした。


「あれ、俺……」


(……。チッ……)


「あ!!今、舌打ちしたな!!お前何かしようとしてただろ!?」


(……)


「黙りやがったこいつ……。はぁ、全く悪魔は油断ならないな」


 何だったんだ今の……。自分が自分で無くなるような……。


 先ほどの感覚を不思議に思いながらも、意識をしっかり保とうとする。


 何にしてもこいつには気を許しちゃいけないな。


(……次はどうすんだ?)


「あ?」


(次はどうすんだよ、つーぎ)


「次?」


(そうだよ、これからこの山で暮らしていくつもりか?)


「あ、あぁ、そういうことか……。そうだなぁ……」


 王都でのこともあって、俺は人類の敵という認識で固まっているだろうなぁ。


「魔族の所にでも行ってみるかな」


(魔族の所?何でまた)


「人類には魔族認定されてるだろうし、この世界で生きていくには魔族の方がいいかと思ってな」


(同じ悪魔同士でってか?まぁいいんじゃないか)


 王国のやつら俺のスキルを見て悪魔やら魔物やら言っていたから、恐らく魔族にも悪魔っていう種族がいるんだろう。


「ん?てか、何でお前魔族のこと知ってるんだよ」


(この世界のことはある程度知ってるんだよ)


「じゃあ、魔族の所まで道案内してくれ」


(えー)


「えー、じゃない!!俺の中に住まわせてやってるんだから、それぐらいは手伝え」


(はぁ、はいはい分かりましたよ)


「よし、じゃあ向かうか」


 空阿と得体のしれない悪魔は魔族領へと向かった。


(そうだ、名前が無いとお前も呼びにくいだろ)


「いいよ、お前って呼ぶから」


(おいおい、そんな悲しいこと言うなよ。そうだなぁ……。俺のことはスタウカブルとでも呼んでくれ)


「長い、カブルな」


(ふっ。じゃあ、カブルでいいよ)

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