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【19】ゲセベリヌの領主

「どうなってるんだ!!」


 ゲセベリヌにある領主館。そこの1室では怒号(どごう)が響いていた。


「そ、それが、背後から敵の攻撃にあいまして……」


「それは、もう聞いた!!」


 その部屋では、豪華な装飾を(ほどこ)した服を着ている少し小太りの男、バド・イドッグが数人の兵士達に向かって怒鳴っていた。


「何故!!壊滅状態になったのかと聞いているのだ!!」


「そ、それは……」


 バドの機嫌を少しでも損ねないようにしようと考え、兵士達は何も言えずにいた。


「……まさか、1人によって壊滅状態にさせられたとかいうんじゃないだろうな?」


「……」


 空阿による背後からの攻撃によって、陣形が大崩れして壊滅的な被害を受けたのは事実なのだが、それがたった1人によってもたらされたものだという報告はバドにとって信じがたいものであった。


「……ですが!!それが事実なのです!!他の街にも支援を要請するべきだと進言します!!」


 1人の兵士が勇気をもってバドに進言したのだが、


「ほう……」


 バドは兵士をギロリと睨みつけると、手をパンパンと叩く。すると、どこからともなく黒装束(くろしょうぞく)人間が数人現れた。


「そいつをいつもの場所に連れていけ」


 バドが黒装束の人間達にそう伝えると、黒装束の人間達は素早く動き、兵士を拘束した。


「な!!」


 突然のことで何もできずに拘束された兵士は、


「お、お待ちください!!私が間違っておりました!!あの、あの部屋には行きたくありません!!」


 必死にバドの許しを得ようとしたが、黒装束の人間達は無言で兵士を引きずっていく。


「バド様お許しを!!バド様!!」


 必死の懇願(こんがん)もむなしく、進言した兵士は部屋の外へと連れていかれた。


 バタンと扉が閉まり、部屋には静寂が流れた。兵士達はバドの機嫌を少しでも損ねてはならないと下を向いたまま、言葉も発さずにバドが喋り出すのを待った。


 しばらく沈黙が続いていると、バドが口を開いた。


「……それで、説明できるものはいないのか?」


 兵士達の間に緊張が走り、言葉を発することができない。喉がカラカラに乾き、汗がツーと頬を(つた)う。ただただ、誰でもいいからバドが納得する説明をしてくれと思いながら、時が過ぎるのを待った。


「……誰も説明できるものはいないのか?」


 口を開く者はいない。


「……仕方ない。お前ら全員を連れていってもよいが……、そんなことをしたら軍が機能しなくなるからな。今回は許そう」


 バドの言葉を聞いた兵士達は安堵し、この状況を乗り越えられたことに心の中で歓喜した。


「もう出ていくがよい」


「はっ!!」


 バドの指示に従い、兵士達はそそくさと部屋を出ていった。そして、部屋に残ったバドは椅子に腰かけた。


「……ギエルよ」


 バドがそう呼びかけると、先ほどと同じように黒装束の人間が現れた。


「どうされました?」


 ギエルと呼ばれる黒装束は、顔が仮面で覆われており、声も魔法で変えているため、その者の表情を読むことはできない。


「あの者達の家族を捕らえてこい」


「かしこまりました」


 ギエルはそう言うと、その場から姿を消した。椅子に座っているバドは兵士達の報告を思い出していた。


「まったく……軍の主力ではないからといって、壊滅しおってからに!!」


 バドは段々イライラしてきて、手元にあるコップを扉に向かって投げると、思いっきり扉に当たったコップは勢いよく砕けた。

 

「やはり、あいつに任せるしかないか……」


 次に街を攻める算段を立てるバドであった。

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