【15】街への襲撃
夜が明け、空阿は会議室にいた。
「これで全員かな?」
空阿が見渡す先には、会議室に集まった各ギルドの幹部がおり、それぞれの表情は硬く、緊張しているようであった。
「はい。全てのギルドが集まっています」
「よし、それじゃあ、会議を始めましょうか」
会議が始まると、手元にある資料の1枚を手に取った。
「では、まずは商人ギルドから現状の問題を言ってください」
ラウィズの言葉で商人ギルドの職員が立ち上がった。
「は、はい。まずは――――」
そのような流れで始まった会議であったが、商人ギルドですらかなりの数の問題を抱えていた。
……はぁ、よくこんなに問題点があって存続できていたな……。
空阿は素人ながらも頭が痛くなるほどの問題の多さに頭を抱えた。
「ん?」
「続いての問題点は……」
「ちょっと待った」
そう言うと、空阿は立ち上がり、目をつぶった。
「え、あ、何か問題でも……」
「シーー」
空阿はギルド職員の話を静止して意識を集中させた。
この感じ……。敵か……?
「すまないけど、ちょっと席を外させてもらうね」
何かしてしまったのではないかと、慌てている職員をよそに、空阿は窓の方へと歩き出した。
その様子を見ていたシアスは空阿の元に駆け寄った。
「私が行きましょうか?」
「いや、俺が行くよ。人間相手にどこまでやれるか気になるしね」
「出過ぎた真似をしました」
「シアスはここをよろしくね」
「はっ」
窓の目の前までたどり着くと、開けて窓の縁に足をかけた。
「あー、俺がいなくても会議は続けててね」
そう言うと、空阿は窓から身を乗り出して飛んだ。
「ちょ!!」
ギルド職員は驚いて立ち上がり、飛び去った空阿の方を見つめたまま茫然としていた。
「……では、会議を続けますので、商人ギルドの方は続きをお願いします」
「え、いや、でも……」
「空阿様は気にせず続けろとおっしゃっていました。問題ありませんので、続けてください」
「は、はぁ……」
ラウィズ言葉を聞いたギルド職員達は椅子に座り直して、困惑したままであったが、会議を再開したのであった。
一方の空阿はというと、会議室から飛び去った後、街から少し離れたところを飛んでいた。
「……まさか、下級とはいえ、悪魔が倒されるなんてな」
空阿が会議室を離れた理由は、街の周辺を警戒させていた下級悪魔が数体やられたことが原因であった。
「確かここらへんだと……」
悪魔がやられた場所付近にたどり着いた空阿は、異変がないか辺りを探していた。
「ん?あれは……」
少し離れた場所に何やら大量にうごめく影を見つけたため、目を凝らしてみると、うごめいているものは人間であることが分かった。
「軍隊か?……調べてみるか」
空阿は休憩中であろう軍勢を遠くから眺めて、1人の人間に狙いを定めた。
「ふあぁぁ……。たく、朝っぱらから進軍しなくてもいいだろう……」
その兵士は周りから離れたところで、用を足していた。そして、背後に迫る空阿。
「どこに進軍するんだ?」
「どこって、スータリアの街だろ」
「あー、そういえば、そんな名前だったな。どうせなら変えるか」
「は?何言って……」
振り向こうとした兵士であったが、首元を掴まれ、身体が宙に浮かんだ。
「……!!……!!」
「シーー。静かに」
兵士は何とか拘束を逃れようと暴れたが、首元をガッチリつかまれており、動けずにいた。
「プッセ出てこい」
「何でしょうか」
呼ばれて出てきた悪魔は執事服を着た人間の姿をしていたが、頭は豹であった。
「こいつに変わりたいからよく覚えておいてくれ」
「かしこまりました」
プッセと呼ばれる悪魔は拘束されている兵士をジロジロと見つめる。
「!?」
悪魔が現れたことに兵士はひどく驚き、さらに拘束を逃れようと暴れたが、首を絞められていることもあり次第に頭がボーっとしてきて、抵抗する動きが鈍くなる。
「ふむ、もう大丈夫です」
「そうか」
ボキッ!!
プッセの言葉と共に空阿は兵士の首をへし折った。拘束していた手を離すと、兵士はドサッと地面に力なく落ちた。
下級悪魔を呼び出すと倒れている兵士の装備を外していき、そこには鎧が外された男が倒れているだけであった。
「黒焔」
空阿の手から放たれた黒炎は兵士の身を焦がし、一瞬にして炭となった。
「よし、プッセ頼む」
「お任せください」
プッセが手をかざすと、空阿の体を黒い霧が包んだ。そして、しばらくして霧が晴れると、そこには先程の兵士が立っていた。
「おぉ、相変わらずすごいな」
空阿はまったく別の体になった自分の身体を見て感心していた。
「お役に立てたようで良かったです」
「あぁ、ありがとう。戻ってくれ」
「かしこまりました」
プッセが消えると、空阿は先程兵士からはぎ取った鎧を身にまとって、軍勢の方へと歩みを進めた。
軍勢の方に行くと、こちらに気が付いた兵士が1人近づいてきた。
「おい!!どこに行っていた!!」
「すみません。トイレに行ってました」
「まったく……これから進軍だというのに、勝手な行動はするなよ」
「はい。気を付けますね」
空阿が頭を下げると、注意してきた兵士は離れていったため、辺りを見渡して階級の低そうな者を探した。
そして、1人の兵士を見つけると、近づいていった。
「なぁ」
「ん?おぉ、ウェシレンじゃないか、どうしたんだ?」
話しかけた兵士はどうやら知り合いだったようで、笑顔でこちらに振り向いた。
「いやー、説明を聞いてなくてさ、これからの行動って何だっけ?」
「おいおい、そんなこと上官に聞かれたらぶっ飛ばされるぞ」
「すまんすまん」
「ったく。いいか、これから俺達はな――――」
その兵士が言うには、これから魔族に占領された街に攻撃を仕掛けるとのことで、そのために街から軍隊が派遣されたとのことだった。
「そうだったな」
「まったく……相変わらずだな。お前は」
「ハハハ、でも、何で攻めるのは俺達の軍だけなんだろうな」
そう言うと、兵士は辺りをキョロキョロと見渡した後、近づいてきて耳元に口を近づけた。
「……仲の良い上官から聞いたんだけど、どうやら領主が功績を独占できると思って、占領されたと聞いてすぐに軍隊を派遣したから、他の街には伝えてないらしい」
「何で、俺達の領主だけがそんなこと知ってるんだ?」
「どうやら、街に内通者がいて、その内通者が言うには、街にはろくな戦力がいないらしいぜ。街を占領できたのも、奇襲がうまくいったからだって噂だ」
「内通者?誰なんだ?」
「いや、そこまでは上官も知らないらしいが、確かな情報ってことで、攻めることにしたんだとよ」
「なるほどなぁ……」
「じゃあ、そろそろ進軍の時間だし、配置に戻るわ。帰ったらまた酒でも飲もうぜ」
「あぁ、また後でな」
情報を教えてくれた兵士が離れていくと、空阿は思案した。
内通者か……いったい誰なんだ……。まぁ、どっちにしろ街を売ったことには変わらない。報いを受けさせないとな。
そんなことを考えていると進軍の時間が来たようで、号令がかかると兵達が動き出し、自分の持ち場につこうとしていため、空阿も周りに聞きつつ持ち場へと向かった。
全軍の配置が終わると、進軍を開始して、街へと歩みを進めた。
(どうするつもりなんだ?)
「……何がだ?」
空阿は極めて小さな声でカブルに返答しているため、行軍の足音によって周りには空阿の声が聞こえていなかった。
(このまま街に向かうのか?)
「あぁ、とりあえずはな」
(とりあえず?ここで殺せばいいじゃないか)
「最後のチャンスを与える。そこで、引き返すようであれば、手を出さない」
(かぁぁぁ、甘ちゃんだねぇ~)
「俺は別に殺しが好きなわけじゃないからな」
(ふーん。まぁ、お前の好きなようにしな)
行軍を進めていると、号令がかかり、全軍の足が止まった。何事かとざわついた軍勢であったが、軍勢の前方では悪魔と兵士が対峙していた。
「これはこれは、どうも皆さん。私は、サムフラと申します。この街には手を出さずに、帰っていただけませんか?このまま帰っていただければ、皆さんには手出しいたしませんので」
サムフラと名乗る悪魔は、人の形をした黒い鳥の姿をしており、喪服を着ていた。そして、その周りには数十体の下級悪魔が並んでいる。
どうしたものかと一般兵が困っていると、
「魔族の言うことに惑わされるな!!魔族に占領された街を取り返すのだ!!全軍突撃!!」
上官と思われる者の掛け声がかかると一瞬戸惑ったが、一斉に兵士達が悪魔目掛けて突撃した。
「何と勿体ない……」
突撃してきた人間達を見て、そう呟いたサムフラは下級悪魔に指示を出して、人間たちと交戦を開始した。
悪魔数十体に対して人間の軍勢は数百人と、圧倒的な戦力の差であった。しかし、人間の方が優勢とはいえ何とか善戦していたため、悪魔を取り囲もうと人間の軍勢が陣形を変えようとした時、
「そろそろか……。出てこいシャラス」
呼ばれた悪魔は大きな翼を持った犬の姿をしており、呼ばれた瞬間空阿の胸元に勢いよく飛びついた。
「お呼びでしょうか?」
シャラスは尻尾をこれでもかと振りながら、胸元に頭をこすりつけていた。
「あぁ、同化するぞ」
「わかりました!!」
元気よく返事をすると、シャラスの体は消えていった。
「悪魔同化」
空阿がそう唱えて同化すると、両手の甲から刃渡り40cm程の鋭い刃物が飛び出し、口には鋭い牙が生えてきた。
空阿の変化に気が付いた兵士達は驚きの声を上げて距離をとった。
「残念だよ……」
そう呟くと、兵士達へと飛び掛かった。




