【13】街の中での仕事
空阿は街の中を歩いていた。
「見事に避けられてるな。俺達」
「達ではない!!貴様だけだ!!」
街の中を歩いていると、空阿の存在に気が付いた者達はそそくさと離れていき、遠巻きにヒソヒソと何やら話しているようであった。
「やっぱり、まだ受け入れられてないよなぁ……」
時間をかけて受け入れてもらうしかないか。
「おい!!いい加減これから下せ!!」
ロレーヴァの体は椅子に巻き付けられており、椅子の足にはそれぞれ車輪が取り付けられて、椅子を押すと車輪が回って進むように改造されていた。
「そんなこと言っても、せっかくシアスが作ってくれたし……」
「何故こんな辱めを受けなくてはならないのだ!!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
「これが落ち着いてられるか!!」
ロレーヴァは何とか椅子から降りよう暴れたが、ガッチリと椅子に拘束されており、全く動けずにいた。しかし、空阿はそんな様子を気にも留めず、椅子を押して街の中を進んで行った。
「着いた」
空阿の目の前には街の掲示板のようなものがあり、そこには街で起こった事件などが記された紙が貼られていた。
そして、新たに貼られたであろう領主館で決めたことが記された紙と領主館で働く者を募集する紙を見るために民衆達は集まっていた。空阿達は民衆をかき分けて、掲示板の前へと歩みを進めた。
「ロレーヴァ。これどう思う?」
「どう思うって……」
そう言うと、ロレーヴァは掲示板に貼られてある紙を見て、
「……少々高くないか?逆に、賃金は少ない気もするが」
「少々?」
「少々」
「……なら、いいか」
空阿は振り返って、民衆の外側へと歩き出した。
「え、これを聞くために連れてきたのか?」
「よーし、次に行くぞ」
「おい!!話を聞け!!」
次に空阿が向かったのは様々な店が並ぶ市場であった。
「いらっしゃい。いらっしゃい」
「今のうちに買っとかないと後悔するよ!!」
市場は賑わっており、多くの人が行き来していた。人が多いからか、周囲の人間は空阿の存在に気が付いておらず、自分のことでいっぱいいっぱいといった様子であった。
「……やっぱり、駄目だなぁ」
「何が駄目なんだ?」
「値段を見てみな」
ロレーヴァは空阿が指さした商品の値段を見た。
「……な、なんて高いんだ」
「そう。高すぎるんだよね」
「な、なぜこんなにも高いんだ?」
「まぁ、簡単な話だよ。俺達が占領したからね」
「それが、この値段とどう繋がってくるのだ?」
「まぁ、簡単に説明すると、俺達が占領したってことは、この街に出入りする商人なんかは少なくなるだろ?」
「それは……そうだな」
「そうなると、街に流通する物が少なくなって、物の価値が上がる。それが、今起きてるってことだな」
「確かにそうだが、こんな急激に上がるものなのか?」
「うーん。まぁ、元々の値段自体が高かったからな」
「そうなのか……」
「流通が増えるかどうかは今後の頑張り次第かな」
「それは、どういう……」
「よし、次行こう!!」
「おい!!」
空阿は再び歩き出すと市場を離れてある場所に向かった。
「とうちゃ~く」
空阿の目の前には大きな建物が建っており、看板には商人ギルドと書かれていた。
「……いいかげん。外してくれ」
「ん?」
「いい加減!!拘束を!!外してくれ!!」
「……なんで?」
「恥ずかしいんだ……」
「と、言いますと?」
「注目されて恥ずかしんだ!!逃げないから外してくれ!!」
「んー」
空阿がどうするか考えていると、ロレーヴァは目を潤ませて見上げていた。
「……まぁ、いいか」
そう言うと、空阿はロレーヴァの拘束を解いた。
「これでいいか?」
「あぁ、すまない」
「俺が拘束したんだし、謝らなくていいよ。それじゃあ、入ろうか」
商人ギルドの中に入っていくと、空阿達の存在に気が付いたギルド職員達はザワザワしだした中、1人の職員が近づいてきた。
「空阿様いかがなさいました?」
「商人ギルドの調子はどうですか?」
「……何も問題ないかと」
「嘘ですね。こんな状況で問題ないわけないですよね」
「……その通りでございます。実際の所、問題は山のように存在します」
「なるほど、以前お伝えしたと思いますが、問題は洗い出せましたか?」
「大方は……」
「分かりました。では、明後日、領主館で会議を行いますので、それら問題点をできる限りまとめてきてください。できるようであれば、それら問題点に対する解決策も考えておいてください」
「あ、明後日ですか!?」
「はい。問題ありましたか?」
「い、いえ……。分かりました。明後日までにまとめておきます」
「よろしくお願いしますね」
空阿達が商人ギルドから出ると、中から慌ただしい音が聞こえてきた。
「次行こうか」
「あ、あぁ」
空阿達はその後も、様々なギルドに向かい、商人ギルドで行ったように各ギルドの問題点を洗い出して、2日後に領主館でそれら問題点に関する会議をすることを伝えて回った。
「ふー、終わった終わった」
最後のギルドにも伝えおわり、空阿は団子屋のベンチに座って団子を食べながら一息ついていた。
「ロレーヴァも食べる?」
「……あぁ、いただこう」
ロレーヴァは団子を受け取った。
「……今日の貴様はいつもと雰囲気が違ったな」
「そう?」
「あぁ、なんていうか、いつもより冷たい雰囲気というか」
ロレーヴァは少し俯きながらそう言うと、団子を口に入れた。
「んー、そう?自分だと分からないなぁ」
お茶をすすりながら、次の団子に手をつける空阿。
「そういえば、ロレーヴァはこれからどうするの?」
「どうするのとは?」
「帰らないの?」
「どこにだ?」
「自分の住んでる所にだよ」
「牢屋のことか?」
「いやいや、牢屋にじゃなくてこの街に来る前に住んでたところにだよ」
ロレーヴァは立ち上がり、空阿の肩を掴んだ。
「も、戻ってもよいのか!?」
「え、いいけど……」
お互いに見つめ合ったまま、しばらくの間、沈黙が続いた。
「なんの処罰もないまま戻してもよいのか!?」
「あ、あぁ。この街に何か危害を加えたわけじゃないし、俺だけを狙っただけだから別に構わないけど……」
ロレーヴァは俯いて体を震わせていたが、大きく息を吐くとベンチに座った。
「貴様は不思議なやつだな」
「えー、そうかなぁ」
「なんというか、甘いところと厳しいところを持ち合わせているな」
「うーん、誰でもそうなんじゃないか?」
「確かにそれはそうだが……。貴様は何というか、歪というか……。うまく言葉にできないが」
ロレーヴァは少し神妙な顔をしたが、空阿はまったく気にも留めていないようであった。
「まぁ、いいんじゃない?今のところ問題ないし」
「だが、私みたいな存在を何もせずに解放するのはどうかと思うぞ」
空阿はお茶をすすった。
「さっきも言ったけど、街に危害を加えてないからね」
空阿はロレーヴァの方を見た。
「危害を加えていたら、流石に帰さなかったけど……」
ロレーヴァは鳥肌が立った。空阿のその言葉には、いつものような温かさを感じられず、底知れぬ冷たいものを感じた。
「だから、帰ってもいいよ。あー、でも、この街のことはあまり言わないでいてくれるとありがたいかなぁ。まだ、安定してないしね」
ロレーヴァは黙ったまま何か考えており、2人の間には沈黙が流れていた。
「……そろそろ戻るよ、荷物は全部その袋の中に入ってるから。それじゃあ、元気でね」
ベンチから立ち上がり、歩き出そうとした空阿の服をロレーヴァが掴んだ。
「どうした?」
「……残る」
「ん?」
「この街に残ることにする」
ロレーヴァの返答に驚いた空阿であったが、
「え、別に構わないけど……。この街かなり危ない状態だよ?帰った方がいいと思うけど……」
「貴様のことを見張っておかなくてはならないからな」
「まぁ、残りたいんだったら別にいいけど」
「あぁ、残らせてもらう」
空阿とロレーヴァは会計を済ませると団子屋を後にして、領主館へと歩き出した。
「残るってことだけど、本当によかったの?」
「あぁ、どうせ戻ったところで、ろくなこともないだろうしな」
「それは、どういうこと?」
「……実は、この街には上司の命令で来たのだ」
「あ、そうなんだ。1人で来たから、誰かに聞いて独断で来たんだと思ってたよ」
てことは、この街のことは結構な人に知られてそうだなぁ……。
「私のことが邪魔だったのだろうな。だからこの街に1人で向かわせて、死ぬことを望んでいたのだろう。最悪生きて帰ってきてもいいわけだしな」
「ふーん。なるほどなぁ」
「だから、戻ってもろくなことにならないだろうし、貴様を見張る意味でもこの街に残ることにするが、構わないか?」
「別に大丈夫だけど、家族とかに言わないくても大丈夫なの?」
「あぁ、それなら大丈夫だ」
「そっか……。街に住まわせるのはあれだから、領主館の適当な部屋に住んでね」
「分かった」
「それと、この街で暮らすんだから、貴様はやめてくれ」
「む、そうか……。では、空阿殿と呼ぶことにする」
「殿かぁ……まぁ、良いか。分かったそれで頼むよ」
そのようなことを話していると、領主館にたどり着いた。
「適当に部屋を選んだら、ラウィズに報告しておいてくれる?」
「部屋はどこでもいいのか?」
「多分、客室があるだろうし、そこでも使ってよ」
「分かった」
「じゃあ、俺はやることがあるから」
「何をするんだ?」
「まぁ、色々とね。今日は帰ってこないかもしれないから、今日のことクルースとラウィズ伝えといて」
「え、あ、おい!!」
空阿はロレーヴァと別れて街の外へと出ると、離れた山まで飛んで行った。
移動すること十数分、目的の場所にたどり着くと、
「んーっっ……ふぅ。久しぶりだな」
大きく伸びをした空阿はストレッチを始めた。
(何するつもりだ?)
「レベル上げだよ」
(なるほどな。でも、何で急に)
「ロレーヴァの話からすると、思ったよりもこの街のことが知られてそうだからな」
俺に恐れて黙っているかと思ったけど……。
「少しでも強くなっておかないといけないと思ってな」
(確かに、それはそうかもな)
「上級悪魔とも同化できるようになっておきたいしな」
(ふーん。まぁ、頑張れや)
「あぁ」
ストレッチを終えた空阿は、ダンジョンへと足を踏み入れた。一度来たことのあるダンジョンであったため、それほど時間をかけることなく踏破することができた空阿は、今度は別のダンジョンへと向かった。




