【1】異世界に召喚されたけど……
「どうして……。こんなことになったんだ」
敵意をこちらに向けてくる民衆を目の前にして、そんなことを考えていた。
時を遡ること数日前、1人の男が暗い夜道を力なく歩いていた。
「あー、バイト疲れた……」
バイトが終わり、独り言をつぶやきながらも、何とか体を動かして歩いていた苫芝空阿21歳。ふと時計に目をやるともうすぐ夜の12時を回ろうとしていた。
「まぁ明日は休みだし、帰ったらゆっくりしよう……」
片手にはコンビニの袋を持って家までの道のりを歩いていると、急に背中がゾクっとして、立ち止まって辺りを見てみるが、誰もいない。
「……何か嫌な予感がする……。さっさと帰ろ」
歩き出そうと足を踏み出した瞬間、地面に魔法陣が出現した。魔法陣から放たれるまばゆい光が空阿の体を包み込む。
「な、なんだこれは!?」
慌ててその場から離れようとするも、体が宙に浮かび、手足をバタバタさせるだけでその場から1歩も動けないでいた。
すると急に、
「お前にしよう……」
耳元で何者かがささやいた。
「え……?」
驚いて振り向こうとした空阿であったが、次第に意識が遠のいていく。すると同時に、空阿を包んでいた光がよりいっそう強くなり、空阿の姿が見えなくなった。
空阿の体を包んでいた光が収まると、魔法陣は跡形もなく消えており、その場に転がっていたのはコンビニの袋と商品のみであった。
「……よ。め……ませ……しゃよ」
「ん……」
どうやら誰かが叫んでいるようで、その声の大きさに目を覚ました。
「目を覚ませ!!勇者よ!!」
「……なんだ……」
ボーっとする頭で周りを見渡すと、周りにたくさんの人がいた。自分のように現代の格好をしている者もいれば、漫画やアニメで見たことあるような王様や貴族のような服を着ている者もおり、状況を呑み込めないでいた。
ここは……。どこなんだ?たしか、家に帰ってたはずなんだけど……。
現状を理解できないでいたが、周りにいた兵士に案内されるがままに王様の前に立たされた。王様の前に歩いていくうちに、頭も段々冴えていき、落ち着いて状況を判断することにした。
うーん、周りの人の雰囲気や内装・家具から考えるに、ここは謁見の間って呼ばれるところなのか?
そんなことを考えているうちに全員集まったようで、集められた者達を見てみると10代後半から30代ほどの男女6名だった。それぞれ、スーツ姿であったり、パジャマであったりと急な出来事であったことが分かる。
「これはどういうことだ。シュナイド」
「はっ」
王様とその側近らしき人物が集められた者達に聞こえないような声で密かに話し始めた。
「確か、召喚されるのは五大英雄とのことだったと思うのだが」
「これは……、もしかしたら、五大英雄というのは間違いで六大英雄だったのか、以前召喚された時が5人だっただけで、召喚される人数は決まってないのか……私にもわかりません」
「ふむ、そうか……まぁよい、英雄が多いに越したことはないからな」
そう言うと、王様は席に座り直して姿勢を正した。
「セントロイス王国に現れし勇者達よ。まずは、此度の召喚に応じてくれたことに感謝する。私はセントロイス王国国王ローレンス・セントロイスだ。そなた達は――――」
長々とした説明が始まったが、要約するとこうだ。現在セントロイス王国を含め人類は魔族と戦っており、魔族を倒すために各国はそれぞれ勇者・英雄召喚を行うとのことで、ここにいる6人はセントロイス王国が召喚した英雄なのだという。そして、勇者には何かしらスキルが付与されていると思うので、これからそれを確認するとのことだ。
その説明を聞いて異世界召喚だ!!と喜ぶ者もいれば、そのようなジャンルを知らない者は驚き戸惑っていた。そして、空阿はというと。
こ、これは!!まさに異世界召喚!!まさか現実に起こるなんて……!!
と、期待を膨らませて、異世界に飛ばされていたことに歓喜したほどだった。この時までは……。
「なんと!!こちらの方は魔道王だ!!」
「この方は剣聖だぞ!!」
と盛り上がりを見せる中、空阿の番が来た。
「では、最後の者」
「はい!!」
目の前にある台の上の球に手をかざしみると、目の前にステータスボードが出現した。
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名前:苫芝 空阿
Lv:1
[ステータス]
HP:100 MP:110 力:50 身の守り:50
素早さ:50 魔法攻撃:50 魔法防御:50 運:10
[スキル]
・悪魔召喚
・陞滂スゥ闖エ?ソ陷ソ?ャ陜
〇---------------------------------------------------〇
おぉ、これが俺のステータス……。さっき、ちらっと見えたけど、他の人に比べるとステータスは高い方なんじゃないか!?
……まて、何か悪魔召喚ってあるけど、大丈夫なのか……?あと、文字化けしてるのもあるし……。
そんなことを考えていると、周りがざわつき始め、悪魔……、魔族……といった声があちらこちらから聞こえてきた。
……やっぱり、この「悪魔召喚」ってスキル何かまずかったりするのか……?
「あのー、何かダメでしたかね……?」
周りの兵士たちに聞いてみるが、兵士達は睨むかのような目つきで空阿を見つめたまま何も答えずにいた。前の方に視線をやると、王様と数人の大臣のような人が話していたが、内容までは聞こえず時折こちらの方をチラチラと見てきた。経験上このような場合は、ろくなことにならないと思っていると、話し合いが終わったようで、王様が手を挙げた。
「その者を捕らえよ!!」
王様がそう言うと、周りにいた兵士たちが空阿を取り囲み襲い掛かった。
「お、おい!!何なんだよ!!」
「その者の処分に関しては後日決定するため、魔封じの首輪を付けて地下牢に入れておけ!!」
急なことで対応することができず、なされるがままに拘束されていく。
「だから、待ってくれって!!誰か助けてくれ!!」
空阿は周りに助けを求めたが、他に召喚された者達は空阿のことを知らなかったということもあり、庇うような行動を起こすことは無かった。
空阿は逃れようと必死に抵抗したが、長年王国に努めている兵士に多少ステータスが高いとはいえレベル1が敵うわけがない。そして、抵抗もむなしく魔封じの首輪をつけられて、地下牢に閉じ込められてしまった。
「話を聞いてくれ!!なんで、閉じ込められないといけないんだ!!」
牢屋まで連れてきた兵士に助けを求めるが、一度も振り返らずに離れていく。
「おい!!待てよ!!待ってくれ!!」
兵士たちの姿は見えなくなり、地下牢には空阿の姿しかなかった。
「くそっ!!何なんだよ……」
一切の説明もされぬまま地下牢に閉じ込められた空阿は地下牢の中でうなだれていた。
「せっかく、異世界に召喚されたってのによ……」
何とかスキルを使ってみようとしたが、スキルの使いかたも分からず、色々試してみたがうまくいかなかった。気が付くと、牢屋の中を月光が照らしていた。
「どうなるんだよ、これから……」
ふと、牢屋の小さな窓を見てみると、三日月がうっすらと見えた。ボーっと月を眺めていると、疲れていたのもあり、いつの間にか眠ってしまった。