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狐のあくび  作者: はしご
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第66話「偽れないもの」


[SIDE:花乃]


 影宮唯葉。彼女は、私の友達だ。


 幼稚園のとき、私たちは出会った。その頃から私は、彼女のことが気になっていた。幼稚園にいる誰よりも可愛くて、無表情なその姿も人形のようで、仲良くなりたいと思った。だから私は、唯葉に話しかけた。


『ねぇ、いっしょにあそぼ?』


 あの時、唯葉は私の手を取ってくれた。それから私たちは友達になり、小学校も中学校も高校も、ずっと一緒にいた。ずっと唯葉の傍にいた。


 だからこそ、ふと思うんだ。



 ────もしあの時、私が声をかけなかったら・・・



「・・・・・花、乃・・・っ!」


 視線の先、そこには血だらけになって倒れている唯葉がいた。私はそれを認識しているのに、ただそれを静観している。いや、見ているだけじゃない。


 そもそも、唯葉をこうしたのは・・・私じゃないか。友達なのに、大切な親友なのに、ずっと会いたかったのに、どうして私は彼女を傷つけているんだろう?


 分からない。上手く物事を考えられない。


「お願い、目を・・・覚ま、して・・・」


 目を覚ます? 誰が? 私が?


 なにをいっているんだろう。私の目は覚めているはずだ。それどころか、今の私は気分がいい。今まで感じたことがないくらいに爽快な気分だ。


 大好きな友達が倒れているというのに、こんなにも気持ちが良いなんて不思議だ。


 なんでこんなに気分がいいのかな。唯葉を、傷つけてるのに・・・


 唯葉を・・・


「・・・ああ、そっか」



 唯葉を傷つけている”から”、気分がいいんだ。



 そうだ。


 私はずっと─────唯葉が嫌いだった。



 何でも出来て、何もかも私より上で、誰からも好かれて、私の好きな人すらも・・・唯葉のことが好きだった。


 何もかも、私は唯葉に敵わない。そんな現実を、そんな苦痛を、十年以上も隣で見せられ続けて、ずっと嫌で嫌でしょうがなかったんだ。


 でもその感情から目を逸らして、劣等感に蓋をして、友達のフリを続けた。でも、そんなことで人の本心は変わらない。


 実際、異世界に来て唯葉がいなくなって、私は内心喜んでしまっていた。翔斗が私のことを気にかけてくれる現状に、幸福を感じてしまっていた。


 あの時私は、その気持ちを否定しようとした。だけど・・・認めてしまえば、気が楽になる。


 私はきっと、唯葉に生きていてほしくないんだ。


 なのに・・・


「ねぇ、なんで生きてるの?」


 もう何年も行方不明で、どこを探しても情報一つ見つからなくて、皆心のどこかで唯葉は死んだのだと思っていた。私も、もう生きて彼女には会えないと思っていた。


 それがまさか、魔族になって生きているなんて思わないじゃないか。


 それも・・・あの時の狐の少女が、唯葉だなんて。


「折角いなくなってくれたと思ったのに。ようやく目の前から消えてくれたと思ったのに。なんで・・・なんでまた私の前に現れるの?」


 また、私を苦しめるの?


「目、を・・・覚まし、て・・・」

「だから、目なら覚めてるよ!!!」


 私は転移陣から片手剣を取り出し、感情のままに唯葉の足を突き刺した。その刃は彼女の肉を裂き、血が吹き出した。


「うあああああああああああああああああああっっ!!!」


 そして、唯葉の悲鳴が響き渡る。


「唯葉、ごめ─────・・・いや、違う」


 言いかけて、言葉を止めた。


「な、何言ってるの私。もしかして今、謝罪しようとしてた? 唯葉に?」


 大嫌いな唯葉を傷つける。それは凄く気分のいいことのはずなのに、私・・・咄嗟に彼女を心配し、謝ろうとしてしまった?


 そんなわけない。そんなわけが無いだろう。


 私はとっくに目が覚めてる。本当の感情を隠してた今までの方がどうかしていたんだ。そのはず、なんだ・・・


「・・・私はアンタが嫌いだ。ずっと目障りだった。アンタが死んでくれて、私は・・・ようやく・・・」


 ようやく・・・彼に・・・──────



「─────そっ、か」



 ぽつりと、唯葉の声が零れる。それはとても悲しそうで・・・それなのに、どこか安堵したかのような声だった。


「花乃も、同じ・・・なんだね・・・」

「な、何を・・・」


 そう言いながら、唯葉はゆっくりと立ち上がる。身体中を刃が貫通し、血だって相当出てる。それなのに、彼女は立った。




「花乃も、自分が嫌いなんだね」




  ◇◇◇



[SIDE:カゲハ]


 出血が酷い。痛みで今にも意識が飛びそうだ。それでも死んでいないのは、花乃があえて即死しないように急所を外したからだろう。


 それが私を苦しめるためなのか、私を助けるためなのかは、分からない。


 でも、花乃は未だ私を殺しはしない。それはまだ、私を殺すつもりが無いからだ。もしそうなら・・・私は花乃と話すことが出来る。


 今の花乃は、洗脳を受けている。だけど・・・その言葉が全て嘘だとは思わない。むしろそのほとんどは、花乃の本音なんだと思う。


 でも、全てが本音な訳でもない。


「ぐ、ぅ・・・」


 立ち上がると、傷口から血が溢れ出てくる。それでも私は、立たなくちゃいけない。立って、花乃と向き合わなくちゃならない。同じ目線で、伝えなくちゃいけないことがある。


「よく、似てる・・・」


 最近、ロゼとも同じような話をした。


 彼は自分が嫌いだと言っていた。だから私も、改めて自分自身を見直す機会が出来たように思う。


 私も、ロゼも、そして花乃も、みんな自分が嫌いなんだ。だから苦しい。自尊心が低くて、自己愛が欠けていて、自分を認められない。だから・・・


「似てるって、誰に?」

「・・・私に」


 今の花乃は特に、人間を殺すことを人生の指標にしていた頃の私に似ている。


 苦しくて苦しくて、何も見えないくて、何も見たくなくて、自分を認められなくて・・・だから、その黒い感情を他のどこかにぶつけないといられない。


 だけど、私は知っている。


「だって・・・花乃は、そんな人じゃないから」

「知ったような口を聞かないで! アンタの知ってる私は、ずっと自分を偽ってきた私なの。何でもできるアンタに付き合うために、感情を殺してきた私なの! だから・・・」

「それ、でも・・・」


 たとえ花乃が見せてきた姿が偽物だったとしても、全ては偽れない。


「・・・花乃が私のこと、嫌いでも・・・花乃は・・・誰かを傷つけるような人じゃ、ない」


 そんなこと、耐えられるような人じゃない。だからさっきだって、無意識に私に謝ろうとしてしまった。たとえ洗脳されて攻撃的になっていたとしても、根本は変わらない。


 たとえ私のことが嫌いでも、あの友情が嘘だったとしても・・・花乃は、人を傷つけたりない。


「花乃は、すぐに自分を責めて、何でも抱え込んで・・・でも、それを誤魔化して・・・気にしてない、フリを、する・・・」

「そ、そんなこと・・・」

「知って、るよ。何年・・・一緒に、いたと・・・思ってるの・・・」


 だから分かる。きっと花乃は、今も自分を責めている。自分で自分を苦しめている。


 なら私は・・・花乃を救いたい。


 たとえ嫌われていても、花乃を助けたい。


 でもそのためには・・・花乃と、本音で語り合う必要がある。



 一歩、私は足を踏み出した。


「や、やめて・・・」


 もう一歩、もう一歩と、前へ進む。


「来ないで・・・」


 花乃の目の前に立つ。


「私は────」

「・・・だから、泣かないで」

「え?」


 私は右手を彼女の頬へと当てる。その私の手には、一雫の涙が伝った。花乃は・・・泣いていた。きっと、洗脳が薄れ、花乃の本当の感情が表層に近づいているんだ。


 だから、それを引っ張り出す必要がある。大丈夫・・・時間なら、稼げた。


 こんな短期間で二度もやったことないから、どんな負担があるのかは分からない。でも・・・私は、【魔力支配】を発動する。




「・・・花乃。私と、おはなししようよ」




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