第64話「謎の声」
[SIDE:ロゼ]
止められなかった。
僕は、カゲハさんを止めることが出来なかった。きっと会えば傷ついてしまうだろうと分かっていながら、彼女らの再会を止める勇気が僕にはなかった。
じゃあ僕は、どうすればいいんだろう。初めは急に戦場となったこの場所で、取り敢えず誰かと合流しようと考えていた。
でも、今更あのカゲハさんの後を追うことは僕には出来ない。ついて行ったって、邪魔になるだけだ。
「っ・・・」
何も出来ない自分が歯がゆい。奥歯を噛み締めながら、僕は静かに立ち上がる。
しかし、すぐにふらついて床に手をついた。カゲハさんを見つけるために探知のようなあの魔法を使ったせいだろうか。
まさかあれだけで魔力に限界が来たのか?
力が入らなくて立てない。そう思った瞬間、凄まじい振動が響き渡った。
「なっ、なに!?」
カゲハさんが折宮さんと交戦しだしたのか?
いや、方向が違うまた別の・・・いや、天井の向こうからだ。何かが、崩れているような音がする。
そして──────
ドゴオオオオオオオオオオオオン!!!
爆発音と共に、天井が破壊された。そしその黒煙の中から、誰かが降ってきた。
「っ! ロゼ!?」
「・・・め、メフィルさん!?」
降ってきたのは、最高幹部であり第一軍団長でもある、吸血鬼族のメフィルさんだった。
「な、何が・・・うぁ!?」
「悪いが、ゆっくり説明している暇は無い!」
メフィルさんは着地するなり僕を抱えて走り出した。僕は何も理解出来ないまま担がれて連れられていく。
その瞬間、さっきまで僕のいた場所が突如として崩れ出した。まるで、僕を殺そうとしていたかのように。
「貴様は確かカゲハの直属の部下だったな。恐らく洗脳も受けていないだろう」
「せ、洗脳って一体・・・」
「一度しか言わんから一度で理解しろ。魔王様の妹のヴィリアナが、最高幹部を除いた全ての兵士に洗脳をした。また、他にも奴には仲間がいる」
「えっ!?」
今、ヴィリアナって言ったか? ヴィリアナが来ているのか? ここに?
「貴様は早くここから逃げろ。城の中は危ない」
「なっ、何を・・・」
「この城はじきに崩れる」
「っ!?」
メフィルさんはさっきの場所からある程度距離をとると、僕を降ろした。
この城が崩れるって・・・それは、今起きているこの反乱によってということだろうか。
どうしていきなり兵士たちがこんな事をし出したのか疑問だったけど、もし本当にヴィリアナが兵士たちを洗脳をしたのなら、辻褄は合う。
そして何より────彼女には、こんなことをする理由がある。
「─────失礼だなぁ。私、ここを崩したりしないよ? さっきのだってちゃんと調整したし」
その時、メフィルさんが降ってきた穴から一人の少女が飛び降りてきた。その少女は、紫色の髪の上から、猫の耳が生えていた。
「あ、あの人も洗脳されてるんですか?」
「いいや、あれは違う。あれは魔族のふりをした人間だ」
「えっ!?」
人間? どういうことだろう。今回の事件の首謀者はヴィリアナじゃないのか? なんで人間がこんなところに・・・
「人間、ふふ。そう、私は人間だよ。あなたたちみたいな化け物とは違う。吸血鬼に、そっちは・・・あれ、その角ヴィリちゃんそっくり。もしかして、あなたがヴィリちゃんの言ってた前の身体の子?」
「え? ヴィリちゃんって・・・」
「あはは! 私ってば運がいいなぁ・・・第一軍団長の命とヴィリちゃんの前の身体、同時に消せるなんて」
少女は僕のことを見て笑みを浮かべる。その笑顔には一切の悪意がなく、ただただ純粋に、子供のように喜んでいるように見えた。それがとても不気味で、恐ろしい。
それに、ヴィリちゃんっていうのはヴィリアナのことだろうか。もし彼女らが仲間なら・・・ヴィリアナは、彼女に僕を殺すように言ったのか。捨てた器はもう、邪魔なだけなのか。
「ロゼ、俺が合図を出したら、そのタイミングで走って逃げろ」
「は、はい」
メフィルさんは僕の前に立ち、紫髪の少女を睨みつけた。そして、僕に視線を向けることなく静かにそう言った。
「”さっきの”見たんだから、一緒に逃げればいいのに」
「悪いが、俺はもうこれ以上逃げるのは御免だ」
メフィルさんはそう言うと、右手を静かに口元まで持って行く。そして、その鋭い八重歯で指先を掻っ切った。指先からは赤い血が滲み出て、そして手のひらを伝っていく。
赤い赤い血。それは、吸血鬼の武器。
僕はまだ本で少し読んだ程度だけど・・・その武器、血操魔法は血の形状や性質を自由に変えるという。
血はその量を増し、長く鋭い武器へとその姿を変えた。
「へぇ・・・槍かぁ。かっこいいね」
メフィルさんは血の槍を構えると、少女は楽しそうに笑う。驚いたり怯んだりすることはなく、ただただ彼女は楽しそうだ。
その明るい笑みを・・・僕は、どこかで見たことがある気がする。どこだっただろうか。
「でも、私には勝てないよ。─────崩壊魔法【破撃】」
少女は思い切り右手を突き出すと、そこから衝撃波のようなものがこちらへと飛ばされた。
その大きさは人一人飲み込むほどで、地面を抉りながらやってくる。
「────悪いが俺はもう、仲間を傷つけさせはしない」
メフィルさんは槍を地面へと突き刺す。瞬間、地面から赤い壁のようなものが突如として出てきた。その壁はとても硬く、あの恐ろしい衝撃波を防いでいた。
これも、血操魔法の力なのだろうか。僕程度の魔力感知技術では、この戦いで何が起きているのか理解することすら出来ない。
さすが最高幹部だ・・・
「行け」
そして、メフィルさんが僕の目を見て合図を出した。そうだ、感心してる場合じゃない。僕はすぐにメフィルさんに背を向けて、全力で走り出した。
その瞬間、後ろから物凄い爆音が鳴り響いた。まるで、何かが破壊されたかのような・・・
「っ!」
でも、後ろを向いて確認する余裕は僕には無い。メルフィルさんに逃げろと言われたのだから、僕は言われた通りにするしかない。振り返ったとしても、何かが出来るわけじゃないんだから。
走る。ただひたすらに、無心に、前へ前へと走り続ける。廊下を曲がり、割れたガラスを跳び避けて、魔王城の出口を目指す。
そして、そろそろ出口に着くと言ったところで・・・
「・・・え?」
僕は、不思議な光景を目にした。
「建物の作りが・・・変わってる?」
ど、どうなってるんだ? 確か、今僕のいる廊下は、この城の出入口へと繋がっていたはずだ。
それなのに、行き止まりになっている。何かに封鎖されているのではなく、初めからそう設計されていたかのように、行き止まりになっているんだ。
僕もこの城の構造を完璧に把握している訳ではないけれど、それにしたってこれには違和感を覚える。
というか、長い廊下の先が行き止まりなんておかしいだろう。迷路じゃないんだから。
「何がどうなってるんだ・・・と、取り敢えず、他の道を探してみよう」
ここで立ち尽くしていても仕方がない。僕は引き返して別の行きた方を試みた。
・・・だが、進めば進むほどそのおかしな現象は発生した。明らかに僕の知っている魔王城の構造と掛け離れている。
まさか、誰かが魔法で作り替えたのか? 誰もこの城から出さないようにするために・・・?
ヴィリアナか? それとも、ヴィリアナの仲間か?
「・・・ん?」
しばらく城の中をぐるぐるとして、ふと人の声が聞こえた。
男の人の、聞いた事のない声だ。それなのに、どうしてだろう。その声に自然と意識が向かってしまう。
まるでその声には、不思議な魔力が込められているかのようだ。
「お、落ち着け僕・・・」
・・・経験上、こういう怪しいのについていって良いことが起きた試しがない。大抵、その先にいるのは良くないものだ。ならばこの声の方には行くべきじゃない。
とはいえ、このまま別の方向へ向かってもまた迷子になるだけかもしれないし・・・
「・・・少しだけ、様子を見てみよう」
声の主が敵か味方かくらいは確認しておいた方がいいかもしれない。もしも味方だったら、助けてもらえるかもしれないし。
僕は息を殺して、バレないように慎重にその声がする方へと足を進めた。そして曲がり角に着き、そこを曲がった先に人がいるのが分かった。
「何しに来たの?」
「っ!?」
その瞬間、一人の女の子の声がそう言った。僕は思わず悲鳴を上げそうになったが、必死に口を塞いだ。
・・・ま、まさか、もうバレた? というか、今の声・・・ヴィリアナ?
「あなたが来なくても、私一人でやれるんだけど?」
しかし、彼女が話しかけている相手は僕じゃないようだ。もしかして、さっき声の聞こえた男の人だろうか。
「安心してよ。それくらいは俺にも分かるって。ただ、今回は別の用があって来たんだ」
どうやらヴィリアナの仲間のようだ。ということは、僕たちの敵だ。ヴィリアナとも対等そうだし、きっと僕じゃ敵わない。見つかって殺される前に逃げないと。
そう思って引き返そうとしたその時、男が再び口を開いた。
「そろそろ・・・この長かった計画も、第二段階へ移行しようと思ってるんだ」
長いこと更新を止めてしまっていてすみません…!
私生活の方が忙しく、なかなか書き進めることが出来ずにいました
また、本当に申し訳ないのですが、これから更に忙しくなってしまい、しばらく更新することが出来なくなると思います
なので今日から、ある程度キリの良いところまで何話か投稿して、それが終わったら、来年の3月頃まで更新を休もうと思います
この作品は最後まで書き切るつもりなので、どうかそれまでの間、応援よろしくお願いします…!




