第63話「軍団長たち」
以前投稿した「魔物編1」を諸事情により削除しました
[SIDE:メフィル]
魔王軍は、全部で十の軍団によって構成されている。そして、各軍団の軍団長は皆それぞれ異なる種族の者から選ばれる。
それは魔王軍に古くからある風習で、様々な特性を持った魔族たちが混在するにおいて、団員たちの強みをより活かせる優れた団長によって率いられるように作られたものだ。
第二軍団長、巨人族のガリル。彼は性格にこそやや難があるものの、巨人族の力の強さを活かしたその破壊力は他の軍団長の中でも特に優れている。
第三軍団長、鬼人族のキド。彼は真面目で落ち着いた男で、冷静に物事を分析することに長けている。
第四軍団長、竜人族のパドラ。彼女は他の軍団長と比べるとまだ若いが、視野が広く全体をまとめるのが上手い。
第五軍団長、馬頭族のドーメズ。彼は考えるより先に行動するタイプだが、何が大事か即座に見分けられる感の鋭さを持つ。
第六軍団長、森精族のイリアル。彼の観察眼や魔力探知は群を抜いて高く、いち早く周囲の状況を把握して素早く動く事が出来る。
第七軍団長、闇精族のシェルナ。彼女は隠密行動に長けており、彼女の鍛えたものたちは皆諜報活動において我が軍を支えている。
第八軍団長、土精族のゴウデン。彼の頑丈さと力強さは、どんな攻撃をも耐えうる強靭な盾となる。
第九軍団長、魚人族のルード。彼の俊敏さは水中でなくとも劣ることはなく、その速さと魚人族の特性を織り交ぜた戦闘を得意とする。
第十軍団長、淫魔族のエリーナ。彼女は他者の心を掌握するのに長けており、戦場の指揮においてその才を遺憾無く発揮する。
皆、方向性は違えど各々の強みを持ち、軍団長として相応しい者たちだった。
・・・だが、それはどうやら間違いだったようだ。確かに彼らは優秀だが・・・甘かった。
この様子だと恐らく、他の幹部たちの元にも洗脳された軍団長たちが立ち塞がっているだろう。まさか揃いも揃って敵の洗脳に引っかかり、あまつさえ魔王様に敵対するとは・・・魔王軍の風上にも置けない。
「どうやら貴様らには、再教育が必要らしいな」
今俺の目の前にいるのは、第三軍団長キドと第四軍団長のパドラの二人。どちらも魔王軍の中では強者に位置する者たちだった。
「随分と余裕そうだね・・・でも、彼らがあなたの知っている彼らだとは思わない方がいいよ?」
「確かに、普段より強い身体強化が施されているな。それに、洗脳によって行動パターンも異なるかもしれない。だが、俺の敵ではない」
俺は腰の鞘から剣を抜く。だが、当然これで彼らを斬るつもりはない。彼らには再教育が必要なのだ。だから殺しはせず、今はここで眠ってもらおう。
「じゃあ二人とも、頑張ってね」
「・・・了解した」
「分かりました」
そして、紫髪の女の言葉に合わせて二人が同時に駆け出した。二人とも剣を抜き、そしてそこに魔力を乗せる。剣に魔力を乗せ、魔法と併用しながら戦う。これがこの世界の接近戦での主流だ。このような狭い屋内では大きな魔法を放つよりこちらの方が良い。
だがしかし・・・これはあまりに酷い。
「動きが単調すぎるな」
「っ!?」
まず先にこちらへ剣を振るったのはキドの方だった。確かに彼の剣さばきは普段より速くなっているが・・・以前の彼はもっと洗練された知性を感じる動きをしていた。
やはり洗脳によって多少能力を底上げさらても、彼自身の強みが消されてしまっている。振われた剣は空を斬り、躱した俺は彼の背後へと回り込む。
「させない・・・っ」
しかしその更に俺の背後を取るように、後ろからパドラが迫る。剣に炎を纏わせて俺に斬りかかる。だが、それもまた俺に誘導された動きに過ぎない。
「丸見えだ────天魔法【破天】」
「なっ!?」
「ぐぁっ!!」
俺の周囲から小さな竜巻が発生し、二人を壁へと吹き飛ばす。鈍い音と、壁の一部が破壊される音が耳に響いた。一応威力は抑えたが、それでも相当な衝撃のはずだ。骨の何本かは折れただろう。
「凄い・・・あの人たち、相当強いよね? しかも、普段より速くなってるよね? なんで追いつけるの?」
紫髪の女が不安げな表情で尋ねてくる。しかし、その表情とは裏腹に、彼女からは未だ余裕を感じられる。吹き飛ばした二人へ視線を向けると、すぐに立ち上がるのが見えた。
気絶するくらいの威力はあったはずだが・・・これも洗脳の影響か。
「でも、あなたじゃ彼らは倒せないよ。その人たち、死ぬまで止まらないもん」
「・・・そうか」
本来ある無意識のブレーキが外されてしまっているのか。彼らは自身の身体のダメージなどものともせずに再び向かってきた。
・・・このままでは、俺が直接手を下さずとも確実に彼らは命を落とすだろう。悪趣味な魔法だ。
「風魔法【斬風】!」
「火魔法【炎刃】!」
今度は合わせ技か。どちらも基礎的な魔法だが、彼らの魔力と火と風の組み合わせによって威力が増大している。しかも、先程よりもさらに速い。
俺は、右に体を翻しそれを避けた。だが・・・その行動を読んでいたかのように、下から火炎が噴き出した。
「今だ、業火魔法【紅蓮】!!」
「っ!」
どうやら行動を読まれたらしい。俺の避けた先に、下からマグマのように火炎が噴き出した。この魔法は、オルヴァが使っているのをよく目にしたことがあるな。
そしてそれは、彼女も同じことだろう。
「────パドラ。貴様は確か、自身の上位種であるオルヴァに憧れていたな」
彼女の技は魔王軍の軍団長に相応しいレベルだ。だが、オルヴァには────最高幹部には、まだ届かない。
「なっ!?」
「威力が足りない。これでは業火とは呼べないぞ」
炎は俺を焼かなかった。何故なら、もうそこに俺はいなかったからだ。既に彼女の背後に回り、その首を掴んだ。そして、思い切り投げ飛ばす。
「うぁ!」
「ぐぅ!?」
そして投げた先にはキドがいる。二人は思い切りぶつかり、再び吹き飛ばされる。俺はこのような力技は好まないのだが、致し方ない。
「おのれ! 雷電魔法【雷風】!!」
しかし、キドはすぐにパドラを突き飛ばしてこちらへ向かってきた。剣先からは風と雷の混ざりあった竜巻が発生し、周囲のものを破壊している。
あちらは本当に殺す気でいるな。だがそれ以上に、気に食わないな。
「キド。貴様は仲間を傷つけるような者ではなかったはずだ」
「何!?」
「無感情に見えながら、常に部下を気遣ってやっていたのが貴様だった。まったく、そんな者が仲間を突き飛ばすとは・・・」
キドの攻撃は再び俺に当たることはなく、俺は彼に突き飛ばされたパドラの身体を支えていた。そして彼らがそれに気付く前に、俺は拘束具を取り出す。
その拘束具は《魔縛錠》という魔導具で、魔力を込めて対象に当てれば一瞬にして拘束してまう。ルナが開発したもので、幹部にのみ支給されている。
彼らはその一瞬の出来事に対して、一様に目を丸くしている。恐らく彼らには俺が瞬間移動でもしているように見えたのだろう。だが・・・
「凄いなぁ・・・─────あなた、凄く”速い”んだね」
すると、奥の方で余裕そうに座っていた紫髪な女が、感心するようにパチパチを手を叩いた。そう、彼女の言うように、俺はただ単に速く動いているだけだ。何も特別な事はしていない。
しかし、洗脳状態とはいえ軍団長たちに見えなかった俺の動きが、彼女には分かったらしい。
「それってただの身体強化? それとも天魔法っていうのの効果かな? 凄いなぁ・・・羨ましいなぁ・・・私もそんな風になれたらなぁ・・・」
「・・・貴様、何を言っている?」
この女が何を考えているのか先程から微塵も分からない。実力はあるはずなのに、態度や佇まいがそれに見合っていない。だが、何も理解出来ないのに、その歪さだけは伝わってくる。
不思議な少女だ。だがその異質さは、どこかカゲハと似たものを感じる。
「でもさ、まだ・・・血、使ってないよね?」
血を使うというのは、血操魔法のことだろう。吸血鬼のみが使える魔法で、そして一切の詠唱を必要としない特別な魔法だ。
「見てみたいなぁ・・・あなたの本気」
「それはつまり、貴様が相手をするということか?」
「うん」
彼女は静かに立ち上がると、笑みを浮かべた。しかしそれは、どこか恍惚としたような、戦場には余りに不釣合いな表情だった。
「本気のあなたを殺せたら・・・私はもっと、あの人に愛してもらえるのかな?」




