第59話「魔王城を攻略せよ」
[SIDE:カゲハ]
「・・・くっ」
曇天の下、剣と刀とがぶつかりあう音が何度も何度も響き渡り、正気を失った兵士たちの怒号に包まれる。
私は刀で剣をいなし、槍を避け、素早く身を翻しながら兵士たちの腹や首筋に打撃を加える。致命傷にはならず動けなくなる程度の攻撃をしながら、地道に進む。
「本当に面倒だな、これ」
兵士一人一人の実力は大したことはない。というか、むしろ弱いくらいだ。
しかしこの数が面倒だ。殺せるなら殺せばいいだけで楽なのだけれど、殺さずにいなしつつ前に進むというのは中々に面倒くさい。
この程度の兵士たち相手に魔力をあまり消費したくないので魔力障壁などを使うのを避けていたが・・・仕方ない。
「急がないと」
私は全身の魔力を熱く巡らせる。魔力障壁で身体を包み、魔力を足へと集中させる。そして、思い切り跳躍した。
飛び交う弓や槍を諸共せず、私は軽々と城壁を飛び越える。
・・・はずだった。
「あ」
城壁の上空で、私は壁のような何かにぶつかった。魔力障壁のおかげで身体にダメージはないものの、呆気なく元いた場所へと弾かれてしまう。
・・・冷静に考えてみれば、魔王城にそんな簡単に侵入できるはずもない。当然、城壁の上には私の魔力障壁なんかより強力な防護結界が張られているに決まっているだろう。
焦っていたせいか、冷静さを欠いていた。
「魔王城・・・想像以上に攻略が面倒そうだなぁ」
私は落下しながら改めて眼下の兵士たちを見る。
こんなに沢山の兵士、一体いつ洗脳したのだろうか。一人ずつ洗脳しに行くのは難しいだろうし、かといって一斉にどこかへ呼び出せば目立つだろう。方法は分からないが、とにかく厄介極まりない。
「・・・はあ。もう、いいや」
私は早く魔王様のところに行きたい。だから、もうこれ以上こいつらに付き合ってやることはできない。
「恨むなら・・・簡単に洗脳された自分を恨んでね」
魔力を込めて、私は地面に狙いを定める。魔力弾を地面に撃ち付けて、その衝撃波で兵士たちを吹き飛ばすために。別に彼らを殺すつもりはないけれど、耐えきれず死んでしまったらそれまでだ。
「それじゃあ─────」
『カゲハ、止まれ!!』
私が魔力を放とうとしたその瞬間、聞き覚えのある声がした。そしてその方へと視線を向けると・・・そこには、一羽のカラスがいた。
カラスといっても、その姿は少し不気味だ。瞳も羽の光沢も見えず、まるで黒い絵の具で塗りつぶしたかのように、そのカラスは真っ黒だった。
『魔力障壁を解いてくれ。今からお前を、魔王城内部まで連れていく!!』
カラスの口から聞こえるその声は、いつものように大きくてよく響く。しかし、その力強い声は、いつだって信用できるものだった。
『俺に任せろ!!』
「分かった」
私はすぐさま魔力障壁を解く。その瞬間、カラスが私の襟をクチバシで咥えた。地面に落ちるスレスレのところでカラスによって回収された私は、物凄い速さで兵士たちの頭上を飛んでいく。
飛び交う弓を舞うように避けながら、先程までの私とは比べ物にならないほど早く、城門を突破した。カラスは速度を落とすことなく空を舞い、私は風を全身に受けながら前を見た。
「あれは・・・」
魔王城の門の前に、大量の兵士たちが横たわっていた。そしてその中心に、一人の男の人が立っていた。青い髪に二本の角が特徴的な彼は・・・
「レイヴンさん!!」
「カゲハ! 無事ここまで来れて良かった!!」
カラスはレイヴンさんのすぐ側まで運んでくれると、クチバシを開いてその場に私を落とした。そして、同時にその姿を消してしまった。私はそのまま地面に着地し、レイヴンさんの元へと駆け寄る。
「ねぇ、今のって・・・レイヴンさんの魔法?」
「ああ。すげぇだろ? 直に他の奴らも来るぞ」
レイヴンさんの視線の方に私も目を向けると、遠くから何かが複数飛んでくるのが見えた。
「あれは・・・おじいちゃん?」
まず見えたのは、おじいちゃんだった。こんな状況にもかかわらず愉快そうにこちらに手を振っている。
そしてその他にも、全最高幹部たちがカラスに掴まれて運ばれていた。そしてここまでやってくると、私と同じように地面に降ろされた。
「いや〜助かったのぅ」
「いつやってもこのカラスで飛ぶの楽しいな!!」
「うわぁめっちゃ洗脳されちゃってるねー」
「こ、怖かったです・・・」
「よし、これで全員揃ったな!!」
全員が着地し、瞬く間に最高幹部が一箇所に集まった。まさか、ここまで早く合流出来るとは。あの真っ黒なカラス・・・一体、どんな魔法なんだろうか。
「おいメフィル。これは想像以上にマズイ状況だぞ」
「何か分かったのか?」
「ああ。兵士が洗脳って聞いて嫌な予感がしてな・・・戦地の方を”見て”みたんだがな」
集まるなりすぐに、レイヴンさんが深刻な表情でメフィルさんの元へと駆け寄った。
「流石に各地にいる兵士たちまでは全て洗脳されてなかったようだが、それにしたって相当兵力が薄くなってしまったからな。この状態で人族軍の攻撃が再開したら、負けるぜ」
「・・・問題は城内だけではない、ということか。どこまでが敵の術中かは分からないが・・・」
メフィルさんは口に手を当てて、少し悩むように目を閉じた。しかしすぐに目を開き、真っ直ぐな目で私たちを見た。
「貴様ら、緊急事態だ! よく聞け!!」
空気を切り裂くような鋭い声が響き渡る。その声とともに、全員の意識がメフィルさんへと集中した。普段はバラバラな最高幹部たちも、目付きが違う。
「敵は魔王様の妹、ヴィリアナ。奴の狙いは魔王様だ。ならば、魔王様もヴィリアナも城の中にいるだろう。だが、城の外、この国の警護を怠る訳にもいかない。よってこれより我々は、再び分かれて行動する。───オルヴァとレイヴンは人族との戦地を頼んだ」
「了解じゃ」
「任せろ!!」
メフィルさんの素早い指示と共に、おじいちゃんは背中から翼を生やし、レイヴンさんは先程の黒い鳥を呼び出した。そして、瞬く間に飛び立ってしまった。
「城内へ向かう我々も、中へ入り次第、各々別方向へ分かれて進む」
この大規模洗脳を解くには、その方法を知っている魔王様かヴィリアナのもとへ直接行くしかないし、そもそもこの事態の首謀者は倒さねばならない。
とはいえ、まだ魔王様があの会議室にまだいる確証もない。ならば魔王様捜索のためにも、城内組も分かれて動くのは合理的だろう。
こういう咄嗟の判断や迅速な指示は、流石は第一軍団長だ。
「敵がどれほどの勢力か不明な以上、油断はするな。では・・・行くぞ!!」
「「おお!!」」
皆城内の構造については把握している。細かな内容は省いた端的な指示を受け、合図とともに全員が駆け出し、門から魔王城の中へと入った。
「きたぞー!!」
「やれえええええ!!!」
瞬間、大量の兵士たちが私たちへと襲いかかる。
今度は外と違って魔法での一斉攻撃だった。炎や水など様々な魔法の攻撃が私たちへと降り掛かるが、私たちはそれらを躱しながら分かれた。
城の入口は大きな空間が広がっており、二階へと続く大きな階段が正面に見える。メフィルさんとルナさんとセイラさんはその階段を駆け上がり、私とシグラスさんはそのまま一階の道を進んだ。
城内には魔力が無数にあるため、魔力を辿って魔王様を探すのは難しい。これはもう、勘で行くしかないだろう。
「いやぁ、面白くなってきたぞぉ!!」
「・・・」
シグラスさんは楽しそうにそう言うが、魔王様に会えないこの状況のどこが面白いのか理解に苦しむ。とはいえ、彼は軽口を叩きつつも雨のように降り注ぐ魔法と矢の乱撃を避け、攻めてくる兵士たちを殺さぬよう薙ぎ払っている。流石は最高幹部の一人だ。
私は右へ、シグラスさんは左へと分かれ、進んでいく。兵士は至る所にいるが、入口と比べると減ってきたように思う。
「魔王様・・・」
早く魔王様に会いたい。でも、闇雲に探してはなかなか見つからないだろう。取り敢えず、魔力の強い方向へと走っていく。
その中で、ふととても大きな魔力反応を感じ取った。魔王様のものかは分からないが、この方角に何かがあるに違いない。
これは・・・食堂の方だろうか。
私は魔力を刀に込めて、お面をつける。このお面は、私の御守りのようなものだ。普段はつけないようにしたが、こういう場ではつけた方が不思議と集中できる。意識を研ぎ澄まし、より強い魔力の方へと進むと────
「────っ!?」
「いたぁ!」
魔力のほとんど感じない、誰かとぶつかった。予想外の相手に戸惑いつつも、その声を聞いてすぐに誰かは分かった。
「・・・ロゼ、こんなところで何してるの?」
私にぶつかって床におしりをついた彼女・・・いや、彼はロゼだった。何やら急ぐように走っていたようだったけど。
「か、カゲハさん! あっちに行っちゃダメです!!」
ロゼは突然私の服の裾を掴むと、そう叫んだ。




