第52話「第二軍団長の不満」
第0話の文章を一部修正・変更しましたので、よろしければご確認ください。
[SIDE:ガレル]
「「ガレル様! おはようございます!!」」
朝、何人もの部下たちが俺に頭を下げ、道を開ける。俺は開かれた道の中央を堂々と進み、魔王城へと進んでいく。それは、何も珍しいことのないいつもの光景だ。
なぜなら、俺はガレル・フーラヘッド。魔王軍第二軍の軍団長様だからだ。
「ガレル様、本日のご予定です」
「おう」
部下に一枚の紙を渡され、俺はそれに目を通す。
この後、軍団長たちによる会議が行われる。あの偉そうなバカども顔を合わせるのは気に食わねぇが、まあこれも仕事だ。仕方ない。
会議室へと赴き、用意された椅子へと腰を下ろした。一番ではなかったが、最後というわけでもないらしい。しばらくして、全員が揃った。
「全員集まったな。では、これより軍団長会議を始める」
そして、中でもとびきり偉そうにそう言う男は、第一軍の軍団長メフィル・ヴァーデン。第一軍は最高幹部とも呼ばれており、魔王軍の最高戦力でもある。
この俺がそこに属していないことは不服だが、それはまあ時間の問題だろう。だが、今俺が気になってんのはソコじゃねぇ。
「では、本日の議題だが」
「オイ。その前に一つ聞かせてくれよ、第一軍団長さんよォ」
「・・・なんだ?」
俺の言葉に、眼鏡野郎は変わらない表情で返事をした。
「なに、最近噂になってる七人目の最高幹部のことだよ」
「・・・ああ。それがどうした?」
「どうしたもこうしたもねぇよ。聞いたところ、そいつぁ獣人の女、しかもガキらしいじゃねぇか。ロクな戦果も挙げてねぇし、おまけに人間に一度捕まったんだろ? 副団長殺しただかなんだか知らねぇが・・・ソイツ、本当に第一軍に相応しいのかよ」
しかも、そのガキは《業火焔竜》の孫だという。つまりは、実力じゃなくコネで入ったってことだ。
この俺ですら所属できていない第一軍に、俺より弱いガキがいる。そんなん当然納得いくわけねぇし、許せるはずもねぇ。
「なるほど。つまり貴様は、彼女の実力不足を疑ってるということか」
「ああそうだ」
「ならば問題はない。俺は彼女と一度任務を共にしたが、彼女の実力は第一軍に相応しいものだった。・・・貴様よりもな」
「あ?」
俺を見下すその言葉に、一瞬思考が止まる。そして次に、俺のの中の何かがプツリと切れるのが分かった。
俺は第二軍団長だぞ? 次の最高幹部に最も近いと言われている男だぞ? にも関わらず、そのガキが俺より相応しいだと?
・・・このクソメガネ、俺をナメてるにも程があるだろう。
「・・・いいぜ。上等だよ」
「おい、まだ会議の途中だぞ」
「こんなクッソくだらねぇ会議に使ってやる俺の時間はねぇんだよ」
俺は席を立ち、会議室から出ていく。そして目指す先はただ一つ。新しい第一軍に選ばれた、獣人のガキのもとだ。
・・・本当に強ぇのか、俺がこの手で確かめてやるよ。
◇◇◇
[SIDE:カゲハ]
ロゼの指導を始めて一週間が経った。
初日ではいきなり魔力の流れを掴むことに成功したが、それからはそう簡単には進まなかった。今は魔力の操作について教えているが、なかなか上手くいかない。
一応、そこまで精密に操作できるようにならなくとも魔法は使えるのだけれど、ロゼの指導の目的は魔法を使えるようにするためではない。
彼の固有魔法が分かるようにするため、彼自身が自分の魔力についてより深く理解する必要があるのだ。
・・・とはいえ、私自身ここまで精密に魔力操作出来るようになったのは、一年半くらいあらゆる時間を魔力操作につぎ込み、死に物狂いで繰り返したからだ。
それと、この身体の性能が高かったということもだろう。ロゼの身体は魔力量がとにかく少なく、筋力や体力も低下しているので、一日にできる訓練の時間もそこまで長くはないのだ。
「・・・どうすればいいんだろ」
私は魔王城敷地内にある中庭のベンチに腰かけながら、魔法についての本を読んでみる。
何か分かることがあるかもしれないし、私もこの世界についてもっと学ばなければならないので、それも兼ねている。
「『固有魔法とは生まれながらに理解し扱うことのできる特有の魔法のことであり、既存の魔法とは一線を画す。しかしその性能に関しては高いものから低いものまで幅広く、中には既存の魔法とそこまで効果の変わらないものもある』か」
たしかこれは、おじいちゃんが同じようなことを言っていた。
固有魔法という名前だからこの世界に一つしかない特別なものというイメージがあったけれど、中には同じような魔法があるものも存在しているらしい。つまりはピンキリということだ。
さらに読み進めると、固有魔法を使えるまでの具体的な流れも記載されていた。
「『固有魔法はいきなり全てを使えるようになるのではなく、成長と共に情報理解が進み、徐々に扱えるようになる』・・・なるほど」
「────おい」
私が本に目を通していると、ふと何やら誰かを呼ぶような声が聞こえた。
「テメェが新しい最高幹部のガキか?」
「・・・そうだけど」
どうやら私に話しかけているようで、私は視線だけその声の主へと向ける。
オレンジ色のたてがみのような髪の男で、その体格はとても大きく三、四メートル近くあった。あれは確か、巨人族だったっけ。
魔力量も多い方だし、恐らくある程度は実力者だろう。この間殺した人族の副団長くらいかな。
「何か用?」
「用っていうかなぁ・・・────テメェの実力を測らせてもらいに来た」
「?」
実力を測る? この人は何を言っているんだろうか。
私が不思議に思いながら再び本に視線を戻そうとしたその瞬間、男がいきなりこちら目掛けて跳んで来た。そして、腰にあった鉈のような剣を私に向かって振り下ろす。
「オラァ!!」
────ギイイイイイイイイイン!!!
しかし、その剣が私に触れる前に、甲高い金属音とともに男は跳ね返された。
「・・・な、なんだ? テメェ、今何をした?」
何をしたって、むしろこっちが聞きたいくらいだ。
服装を見るに彼は魔王軍所属の人だ。つまりは私の同僚ということになる。それなのに何故私に剣を向けるのか甚だ理解できない。
付き合うのも面倒なので、無視して本の続きを読むことにした。
「テメェ無視すんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!!」
随分と短気な人らしい。彼は声を荒げながら何度も私を斬りつけようとする。しかし、私の前にある見えない壁───魔力障壁に阻まれ、それは叶わない。
「どうなってんだ? 魔力障壁・・・にしてはこんな硬ぇのはありえない。まさか、防御魔法か?」
前者が正解だというのにおかしな勘違いをし出す男。まったく、獣人の私に魔法なんか使えるわけないだろうに、何を言っているんだこの人は。
「えっと・・・『魔法の効果に付随した何かしらの兆候が事前にある場合もある』か。ってことは・・・」
「おい! ナメてんじゃねぇぞコラ!! 俺と戦いやがれ!!」
「・・・はあ」
うるさいなぁ。今いい感じの情報を掴めたところなのに、うるさいから全然集中出来ないんだけど。あまりにも煩わしいので、私は本を閉じて彼へと顔を向けた。
「あなた、誰なの?」
「・・・は、ぁ? まさか、この俺を知らねぇのか!?」
「知らない」
そんな驚かなくても。私別にこの人と会ったことないし、初対面なのに知らないことを驚かれても困る。
「・・・つくづくムカつくガキだな。いいか? 俺は魔王軍第二軍団長、ガレル・フーラヘッドだ。テメェみたいに自分を守ることしか出来ねぇような雑魚より、俺の方が最高幹部に相応しいんだよ!!」
「・・・」
なるほど第二軍団長さんだったか。この場合、どちらの方が地位が高いんだろう? まあ、別に地位とかはどうでもいいんだけど。
取り敢えず何となくではあるけど事情は分かった。どうやらこの人は最高幹部に私が選ばれたことが不服らしい。
まあ、私も自分が本当に最高幹部に相応しいとは思えないけど・・・でも、目の前の彼よりかはマシだと思う。
こんな単純な男だ。ずっと無視していればいずれいなくなってくれるだろう。
「おい、反撃してこいよ! それも出来ねぇような逃げ腰野郎、俺は認めねぇぞ!!」
・・・別に彼に認められなかろうがどうでもいい。私は早くロゼに固有魔法を使えるようにさせて、魔王様に褒めてもらうんだ。
だから彼に構ってる暇なんて・・・
「ハッ。この俺を差し置いて、こんなガキを最高幹部に選ぶなんて魔王様もどうかしてるぜ!
・・・今、なんて言った?
「魔族の王なんて言われちゃいるが、所詮は身内びいきの無能だ。なんなら、俺の方がよっぽど・・・──────あ?」
次の瞬間、私は男は吹き飛ばした。数メートルほど吹き飛ばされた男は地面に思い切り打ち付けられ、ゴロゴロと転がっていく。
「ぐ、ゔっ・・・な、なんだ?」
男は痛みと衝撃に混乱しているようで、間抜け面で辺りを見回している。しかし、そんな男の様子は私の頭には入ってこない。
私の脳内を駆け巡ることはただ一つ。
この男が・・・魔王様がどうかしてるって、無能だって、そう言ったことだ。つまりは、魔王様の判断や考えに異を唱え、あまつさえ馬鹿にしたということだ。
この男にどんな事情があろうと関係ない。
こいつは、私の大好きな魔王様を、私が愛してやまない魔王様を、貶したのだ。そんなこと、許されないし、許さない。
「別に、あなたが私に何を言おうとどうでもいいし、あなたがどんな不満を持っていようがどうでもいい。でも・・・」
ゆっくり、ゆっくりと歩みを進め、私は男へありとあらゆる憎悪と殺意をぶつけた。
「───────魔王様を馬鹿にするなら、殺す」




