第49話「嫉妬なんかしてないし」
[SIDE:カゲハ]
会議室で一通り事情を説明し終えた私は、他の幹部の人たちと、ロゼやセレネアさんたちについて話していた。
「・・・それで、お前が連れてきた者たちはどうするつもりなんだ?」
メフィルさんが私に問いかける。
どうするつもり、というのは彼女らの今後の処遇のことだろう。私の時は運良く魔王様に魔王軍に入れてもらったけど、彼女らはそうはいかない。
どこで、どうやって生きていくのか。現実問題、そういう話は避けては通れない。でも・・・
「みんなはもう、自由だから。それは私が決めることじゃない」
「・・・そうか」
無責任な発言かもしれないけど、私の仕事はここに連れてくることだけだ。そこから先は、みんながしたいように、みんなの思うようにするべきだ。
「まあ、あの者たちは人族に襲われた村や里などでさらわれたのじゃろうからな。故郷や家族の元へ戻る者もいるじゃろう」
・・・家族。そうか、家族か。
言われてみればそうだ。帰る場所の無かった私と違って、みんなには本当は家族や暮らしがあったんだもんね。そういう選択肢もあるか。
ただ、そうなると一つ気になるのは、ロゼのことだ。彼女は魔王様の知り合いらしいけれど、中身は違うと言っていた。それが嘘か本当かは分からないけど・・・あの子は、魔王様によく似ていた。
魔王様に、家族はいるんだろうか。
と、そんなことを考えた時、扉が開いた。
「────待たせたね、皆」
「魔王様! ・・・と、ロゼ」
「露骨に態度を変えるんじゃない」
メフィルさんの呆れたような声が聞こえたけれど、特に気にせず私は二人へと視線を向けた。魔王様はもう既にいつも通りの感じだ。対してロゼは、なんだか気まずそうというか、居心地の悪そうな様子だ。
「さて、早速だが皆席に座ってくれ。いくつか話したいことがある」
「承知しました」
魔王様の指示を聞いて、メフィルさん含め私たちは直ぐに自身の席に座った。そして、最後の空席に魔王様が腰を下ろす。
話したいこと、というのはやはり、今魔王様の隣で落ち着きなく立っている、ロゼのことだろうか。
「まず君たちには、彼女・・・いや、彼について説明しておこう」
魔王様は予想通りそう言って、ロゼの肩にポンと手を置いた。
「────今日から我が魔王軍に入ることとなったロゼだ。彼は私の妹と入れ替わった元男の子なんだが、仲良くしてやってくれ」
まるで世間話でもするかのように、予想外の言葉が告げられ、空気が凍りついた。恐らくこの場にいた全員の思考が止まったことだろう。あまりの情報量の多さに、私も脳の処理が追いつかない。
「ま、魔王様、それはどういう・・・」
「実は私には妹がいるんだが、どうやら彼は妹と入れ替わってしまったらしくてね。だから、彼の中身は全く別の男の子だということさ」
「いや、言葉の意味は理解できるのですが・・・」
メフィルさんも混乱しているようだが、それもそうだ。ロゼが魔王軍に入るってだけでも驚きなのに、彼の身体は魔王様の妹だって?
魔王様の発言が突発的なのはいつものことだけれど、これは流石に予想外だ。
「い、色々突然すぎて、あ、頭がパンクしそうです・・・」
「というか、そもそも魔王様に妹いるとか初めて聞いたな!」
「でも、妹ちゃんではないんでしょ? 入れ替わってるって言ってたし・・・」
「なあ、魔王軍に入れるってことはソイツ戦えんのか!? 俺と勝負しよーぜ!!」
そしてようやく皆も話を呑み込めてきたのか、各々反応を示し出した。かくいう私もようやく平静を取り戻し、次に視線をロゼへと向けた。
「・・・ねえ。魔王様と、二人で、何話してたの?」
「カゲハよ。もう少し穏やかな声色で喋れんのか・・・」
別に穏やかなつもりだけど。
「な、何話してたと言われても・・・い、今魔王さんが言ったことくらいで・・・」
「・・・ふーん」
私が尋ねると露骨に目を逸らし口ごもるロゼ。
・・・怪しい。明らかに怪しい。何だか、まだ何か隠している気がする。きっと他にも魔王様と喋ってたことが・・・
「まあまあ、皆落ち着け。聞いて欲しいことはもう一つあるんだ」
ざわざわと騒ぎ出した幹部たちを、魔王様は鎮めつつ続けた。
「これはロゼを魔王軍に入れる理由でもあるんだが・・・彼には、固有魔法があるんだ」
「固有魔法、ですか」
「だがこれがちょっと厄介でね。彼、自分の固有魔法が何か分かっていないんだ」
「・・・はい?」
そして、その発言にまたもや全員が困惑した。
固有魔法が分からない、なんてことは普通ありえない。私は魔法は使えないけれど、おじいちゃんから教わったので、それは一応知識としては知っていることだ。
固有魔法というのは普通の魔法とは違い、生まれながらにして扱うことができる魔法だ。そして自分がどんな固有魔法を使えるのかも分かるらしい。たとえ召喚された勇者でも、自然と自分が何ができるか理解できるんだとか。
だから、固有魔法が分からないというのは普通ならおかしな話だ。もしかして、記憶喪失か何かなのだろうか。あの檻の中にいた経緯もよく分からないし。まあ、何か事情があるのは確かだろうけど。
「そこで、だ。────カゲハ」
「はい」
すると、魔王様が私の名前を呼んだ。
「彼に、魔力の指導をしてあげてほしいんだ」
「・・・魔力の、指導? 私がですか?」
「ああ。自身の固有魔法を理解したいなら、まずは自身の魔力を理解すべきだろう。そして、この中で魔力の操作に最も長けているのはカゲハ、君だ。取り敢えずはカゲハの直属の部下ということにして、指導してやってくれ」
直属の部下、か。たしか、第一軍の人達は一個の軍団ほどの規模ではないけれど、何名かの部下をもつことが出来るんだとか。要するに側近みたいなものだ。
「しかし魔王様よ。なぜその子にそこまでするのじゃ? 固有魔法といっても、その強さや有用性は人による。もし使えるようになったとして、我が軍に有益か否かはわからないはずじゃ。それなのに、わざわざ幹部であるカゲハを指導役にする理由がわからんの」
「詳しい理由については悪いがまだ話せない。だが────彼は使える。それは、私が保証しよう。それにこれは、カゲハにとっても大事なことなんだ」
固有魔法が分からないというのに、魔王様はそう断言した。そのあまりにも迷いのない返答に、おじいちゃんは目を丸くしたあと、溜め息をつく。
「魔王様は相変わらず、肝心なところをぼかすのう。・・・じゃが、それが誤っておったことはない。そういうことらしいが、どうするんじゃカゲハ?」
「どうするも何も、最初から魔王様の言うことに反対なわけない」
「ま、それはそうじゃな」
魔王様の意見に納得がいかないことなんてない。
・・・だけど、疑問は少しだけある。魔王様があんなにも期待するくらいの何かが、ロゼにあるというのだろうか。
私の時は魔王軍に入れるか迷ってたのに、ロゼは絶対に入れたいみたいだし、それって私よりロゼの方に期待してるってことでしょ?
私より、ロゼに。私より・・・
「ひっ!?」
「だからカゲハよ・・・少しは嫉妬と殺気を抑えんか・・・」
・・・別に、嫉妬なんかしてないし。
◇◇◇
[SIDE:ロゼ]
『ヴィリアナは────』
未だに頭から離れない、魔王さんの言葉。そして、声と表情。
理由は分からないけれど、魔王さんは最高幹部の人達に対して、”すべて”を話していない。どうして話さないのか、逆に、どうして僕には話したのか、分からない。
でも、言わないってことは言いたくないことなんだろう。ならそれは、僕の口から言っていいことじゃないはずだ。
「よし、それじゃあ決まりだな。カゲハ、彼を頼んだよ」
「・・・わかりました」
若干不服そうにしつつも魔王さんの話を受け入れる。・・・でも正直、あまり納得出来ていないのは僕も同じだ。
魔王さんは僕が役に立つと自信たっぷりに言っていたけれど、僕自身、自分が何の役に立てるのか見当もつかない。
あの後、魔王さんから異世界人には固有魔法というものがあると聞かされて、そして魔王軍に入らないかと勧誘された。
でも、カゲハさんのおじいさん? の話を聞く限り、固有魔法を持っているからといって必ずしも強いわけではないらしい。
それなのに、なんで僕なんかを・・・
「ロゼ」
「は、はいっ!」
カゲハさんの声が耳に入った瞬間、僕は思考をやめて裏返った声で返事をした。さっきから物凄い殺気をカゲハさんから浴びせられまくってるから、怖くてしょうがない。
一応僕を助けてくれた恩人なんだけど、それでも怖いものは怖いし・・・一体、何を言われるのか・・・
「私、嫉妬なんかしてないから」
「・・・え?」
しかし、帰ってきた言葉は、まったく想像していないものだった。
表情は分からないし、声も相変わらず感情が読めないけれど・・・必死に否定しようとする姿は、少しだけ可愛らしいような気がした。
「・・・なに?」
「あっ、いや、その、なんでもないです・・・」
でも、やっぱり怖い・・・




