第48話「隠しごと」
「───君、異世界から来たのかい?」
見透かしたようにそう口にする魔王さんに、僕は言葉を失った。僕が必死になって隠そうとした秘密を、目の前の彼女はあっさりと言い当ててしまった。
「な、なんで、知って・・・」
「・・・その反応から見るに、どうやら私の予測は当たっているらしいね」
「あ・・・」
・・・と思ったら、どうやらカマをかけられていたらしい。くっ、僕のバカ・・・
「それにしても、カゲハが連れてきた君が、なんて・・・こんな偶然があるとはな。だが、それなら全て筋が通る。異世界人の肉体ならば、悪魔族になっても、神操魔法を使えても、ありえない話じゃない」
「っ・・・」
さも当然のことのように納得する魔王さん。
・・・ど、どういうことだ? もしかして異世界人って、この世界じゃそんなに珍しいことじゃないとか? それに、こんな偶然ってなんだろう。
って、今はそんなことを考えている場合じゃない。僕の秘密が魔王さんにバレてしまったんだ。
・・・ど、どどどどうしよう。こんなこと知られて、い、一体、何されるか・・・
「あはは。そう怖がらないでくれ。別に何もしないさ」
「・・・へ?」
「それとも、私が無闇やたらに拷問や殺人をする酷い王様にでも見えたのかな?」
「うっ・・・」
そう見えていた、なんて口が裂けても言えない。いくらカゲハさんから凄く良い人だと聞かされていても、あんな殺気を間近でぶつけられたら怖くもなってしまう。
「安心してくれ。既にリーノフェルト王国が勇者召喚を行ったという情報は得ているからね。今更君を問い詰めたりもしないさ。むしろ、これで君への疑念は無くなったよ」
「ほ、本当ですか!」
喜びとともに、僕は安堵の息を吐く。魔王に疑われるとか怖すぎるし、疑いが晴れて良かった・・・。
心なしか魔王の威圧感というかが無くなった気がする。そう思って見てみると、ソファのうえで足をぶらぶらするその姿は普通の女の子にしか見えない。というか、凄い美少女だしスタイルも良いし、直視できない・・・
「・・・ただ、君はまだ私に言ってないこと、あるよね?」
「・・・えっ」
僕が彼女の身体から目を逸らした瞬間、魔王さんは不敵な笑みを浮かべながら僕の目を見た。・・・まるで、心の内を全て見抜かれているかのように。
言ってないこと・・・って、もしかしてあのことだろうか。
「・・・ご、ごめんなさい。その、隠してたつもりでは、なくて」
「別に構わないさ。言ってごらん」
魔王さんは本当に気にしていないという風に、穏やかな口調でそう尋ねる。
僕は緊張で息を飲みながら、恐る恐る口を開く。異世界から来たことや身体を入れ替えられたことは言ったが、これだけはまだ言っていなかった。
でも、隠し事をしていたら疑いは晴れないんだ!
「・・・実は僕、男なんです!!」
だから僕は、勇気を振り絞って真実を口にした。
「・・・ん?」
「その、僕、実は・・・な、中身は男で、それなのに、誰にもこのことを言ってなくて・・ご、ごめんなさい!」
「・・・えっと、それが君の隠してたことかい?」
「は、はい・・・」
ここに来る道中、たくさんの女の人達と行動を共にしたけど、あの中に男が混じってるなんて誰も思っていなかっただろう。騙しているようで、とても悪いことをしているようで、ずっと気まずかったし申し訳なかった。
さっきまでだって、魔王さんは僕のことを女の子だと思っていただろうし、女の子と接しているような感覚だったろう。そのせいか際どい瞬間も何度かあって・・・
「・・・は、はははははははははっ!!」
「え?」
「神妙な顔で何を言うと思ったら、それが君の隠していたことかい? あははっ! いやぁ、君は面白いね〜」
「え、ええー・・・」
僕としてはおかしなことを言ったつもりは微塵もないのだけれど、魔王さんとしては面白かったらしい。なんというか不服だ。
だ、だって僕、同級生とも普通に喋れないのに、いきなりあんな沢山の女の人に囲まれて、本当にどうしたらいいのか分かんなかったし、気まずかったし申し訳なかったし・・・
「いやぁ、ごめんごめん。でも、安心してくれ。君が男だっていうのは、ある程度予想していたことだったからね」
「えっ。そ、そうなんですか?」
「ああ」
魔王さんはやや笑みを残しつつも続けた。
「君はヴィリアナと過ごしていたというが・・・見たところ、女の子と話すのがそこまで得意ではないのだろう?」
「ゔっ・・・まあ、はい」
事実なんだけど、改めて面と向かって言われると結構刺さるな・・・事実なんだけど・・・
「でも、ヴィリアナとはすぐに打ち解けたのだろう?」
「そう、ですけど・・・」
そんな僕の返答を聞いて、魔王さんは真剣な表情へと戻る。
「────彼女の固有魔法は【魅了魔法】という」
そして、酷く落ち着いた声音でそう言った。その事実を告げられた瞬間、色々なものが自分の中でストンと腑に落ちたような気がした。
「魅了魔法、その目が合った者を虜にしてしまう魔法だ。一応、精神的に不安定な時などであれば同性にもかかるが・・・基本的に異性に対して発動する。これが、彼女の固有魔法だ」
「・・・じ、じゃあ、僕がヴィリアナとに抱いていた感情は・・・彼女に、植え付けられたものだったってことですか?」
一緒にいて楽しかったのも、彼女の言葉に心動いたのも、彼女を助けようとした勇気も・・・全部、ヴィリアナによって作り出された感情だったっていうのか?
「感情の真偽などというものは測れるものではない。・・・だが、少なくともきっかけはヴィリアナによって作り出されたものだろう」
「っ・・・」
その言葉に、衝撃と悲痛が胸の中を襲う。だけど同時に、納得してしまった。人とまともに話すことも出来ないような僕が、誰かを助けようなんてやっぱり自力で出来るはずがなかったんだ。
やっぱり僕は、優しい人にはなれない。
「ただ、君は異世界人だったからか、強い魔法耐性を持っていたようだな」
「え?」
「アレは魅了といっても、実質洗脳のようなものなんだ。深く魔法にかかれば、自我すら失いアイツの傀儡となる。惚れる程度ならまだ軽症さ」
「・・・そう、だったんですか」
完全に心を奪われて、傀儡になる。想像しただけでも怖い話だ。あのヴィリアナにそんな恐ろしい力があったなんて、知らなかったな・・・
「・・・でも、魔王さんは、どうしてそんなに詳しいんですか?」
ここまでの話を聞いて、僕は改めてずっと思っていた疑問を投げかけた。
「魔王さんは・・・ヴィリアナと、どういう関係なんですか?」
ずっと気になっていた。僕を騙した、あの少女───ヴィリアナ。僕の姿を見た魔王は、怒りと憎しみに満ち溢れていた。
一体、どんなことが・・・
「ああ・・・そういえば言ってなかったな」
言い忘れていたのか、それとも本当は言いたくなかったのか、まるで隠していた言葉を吐き出すように、苦悶の表情を浮かべながら口を開いた。
「ヴィリアナは─────」




