勇者編4「混乱と本心」
[SIDE:花乃]
転移で人々を戦地へと送り、その後私は近くの砦へと来ていた。その中の通路で、ふと立ち止まり、俯いた。
最近、ある少女の姿がよく蘇る。
勘違いかもしれない。思い込みかもしれない。だけど、先日捕まえた魔王軍幹部だという狐の少女が、以前私がとある魔族の村で見た少女に、似ているような気がした。
別に証拠なんてないし、どっちも顔を見た訳じゃないし、どういう訳か先日捕まえた彼女の姿形がぼんやりしていて、はっきりと思い出せない。だからきっと、これは私の考え過ぎだ。
だけど、もし本当に同じ子だとしたら・・・
「・・・やあ。そんな思い詰めた顔をして、どうかした?」
「わっ!?」
いきなり声を掛けられ、私はびっくりする。振り返ると、そこにいたのは白髪のイケメン───レイス・ミクシードだった。
・・・こうして間近で見ると、やっぱりとんでもないくらい美形だ。って、そんなこと考えてる場合じゃないでしょ!
「な、何か用ですか!?」
「そう警戒しないでよ。俺は単に、君が不安そうな表情をしていたから、気になっただけだよ」
「そ、そうですか・・・」
ニコリと笑うレイス・ミクシード。そのイケメンさに圧倒されそうになるが、何とか正気を保つ。
警戒するなと言われても、この人は要注意人物だと、王国騎士団の副団長であるアイズ・ヴァイオルさんに言われたばかりだ。
なんでも彼は、ある規則を破ったらしい。
本来、この間の狐の少女がいたのはリーノフェルト王国の境界線に面した場所であり、王国騎士団が対処すべき案件だったのだ。それなのに、イルアキナ共和国の人間である彼が勝手に来てしまった。それが規則違反ならしい。
同盟を結んでいるとはいえ、今でも人族の国同士はピリピリしている。しかし彼は、そういった現状をあっさり無視してしまったらしい。
結果的には、アイズさんが狐の少女の身柄を確保することになったけど。
「そういえば、アイズ殺されたらしいよ」
「え?」
まるで世間話でもするように、彼は唐突にそんなことを言った。
「し、死ん・・・え?」
「なんでも、こっそり自分だけであの妖狐から情報を引き出そうとしたら、逆に返り討ちに遭ったらしいよ。完全に自業自得だよね〜」
「っ・・・」
あまりにも平然と語られる内容に、理解が追いつかない。 ・・・殺された? アイズさんが? あの狐の少女に?
頭の中がぐるぐるして、混乱する。別にあの人と親しかった訳ではないし、なんなら偉そうな態度から少し嫌いだったくらいだ。
でも、それでも、顔を見知った人の死という事実に、吐き気を催す。
「大丈夫? 顔色悪いけど」
「・・・また、だ」
「ん?」
「私の、せいで・・・また、人が・・・・っ!」
思い返せば、私の魔法はいつも誰かを不幸にする。この魔法が無ければ、あの獣人の集落にいた少女に騎士団の人々が殺されることはなかったし、その少女が人を殺すこともなかった。そして、アイズさんが死ぬこともなかっただろう。
私が転移で送った人の多くは、その先で命を落としてしまう。
まるで私が殺しているみたいだ。
「別にそんな気にしなくていいのに。ってか、君は言われた通りにやっただけなんだから、何も悪くないでしょ」
「でも、でも・・・」
・・・それにもし、あの時の少女と魔王軍幹部である妖狐が同じなら・・・私の魔法によって、魔王軍幹部が新たに誕生してしまったかもしれない。
「──────花乃?」
瞬間、驚いたような声で、私の名前が呼ばれる。この、声は・・・
「し、翔斗・・・っ」
翔斗は、頭を抱え俯いていた私の元へ、急いで駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?」
「あ、いや・・・・・・って、ちょ、近いってば!」
「うわぁ!?」
「あ、ごめん・・・」
翔斗は私の肩に手を置き、顔を思い切り近付けて心配の声をかけて来た。びっくりして、心臓の鼓動が速く、大きくなってしまう。慌てて私は翔斗を突き飛ばしてしまった。
すると、レイスさんは私に向けて何かを見透かしたような笑みを浮かべた。
「・・・彼女、ちょっと思い詰めてるみたいだからさ。君がそばにいてあげな。俺じゃ力になれないみたいだからね。今の彼女には、どうやらもっと相応しい人がいるらしい」
「なっ・・・」
そう言って、彼はくるりと背を向け去っていった。そんな彼に、私の胸はドキリと跳ねる。もしかして、今の一瞬で、見抜かれてしまったのだろうか。
これまで誰にも言ったことのない、私の気持ちを。
「いてて。・・・それで、花乃。一体何があったんだ?」
「っ・・・」
私が突き飛ばしたせいでぶつけた所を擦りながらも、真剣な眼差しで尋ねてきた。
・・・翔斗は、優しい。それに真っ直ぐな人だ。この世界に召喚された時だって、みんな混乱してたのに、翔斗だけは冷静で、唯葉たちを助けることまで考えていた。本当に、かっこいいと思う。
だから、私は・・・翔斗のことが・・・・・・
「その・・・何でも、ないの。大丈夫だから」
取り繕うように、私はそう言う。
「・・・そう、か。話すのが辛いなら、無理強いはしない。でも、あんまり抱え込むなよ。俺ならいつだって話聞くから」
「ありがと。・・・じゃあね」
翔斗の優しさが、胸に染みる。だけど同時に、私は今、彼と一緒にいるのが・・・苦しい。
◇◇◇
あの後、私は逃げるように翔斗と別れ、自室へと向かった。
「あんなとこ、翔斗に見られたくなかったな」
灯りでぼんやりと照らされた天井に、視線が吸い込まれる。体重を乗せたベッドに、体が沈み込んでいく。
翔斗は私や唯葉の幼馴染だ。長い付き合いになるけど、弱ってるとこなんて見せたことがない。それなのに、ここ最近は何度も見せてしまっている。
かっこ悪くて、恥ずかしい。
「はあ・・・」
最近、何をしてても気が重い。誰と話しても違うことが頭をよぎる。
不安、後悔、恐怖。きっとみんな似たようなものを抱えているのかもしれないけれど、私は最近・・・それらを抱えるのが、辛くなってきた。
初めは、唯葉たちを助けたくて必死に頑張ってきた。でも、人の死を見て、自分の力が怖くなって、足がすくんだ。
それからは、偉い人に呼び出されて言われた通りに人を転移させるようになった。でも、それでも人々の死を何度も目の当たりにする度に、胸の中の何かがすり減っていく。
最後に詩織や凛子とまともに会話をしたのって、いつだっけ。もうよく覚えていない。今自分が何をしたいのかももう、よく分からない。
また唯葉に会いたい。唯葉を助けたい。その気持ちは当然変わりない。でも・・・もう、何もしたくない、なんて、酷いことも考えてしまう。
今頃唯葉は苦しんでいるかもしれない。辛い目に遭っているかもしれない。
それなのに、全部忘れて逃げてしまいたいと思ってしまう自分が、困難な道のりから目を背けたくなってしまう弱い自分が、確かにいるんだ。
それに、今だけは・・・
『俺ならいつだって話聞くから』
・・・最低だ、私。
叶わないからって、こんなこと、考えちゃダメだ。弱ってるからか、今まで抑えていた感情が、ブレーキ効かなくなってきてしまう。
このままじゃきっと・・・もっと最低なこと、考えてしまう。
「もう、寝よ」
何も考えないように、私は目を閉じる。だけど当然、目を閉じれば思考が加速するだけ。考えたくないことも、湯水のように湧き上がってしまう。思い出したくないことも、思い出してしまう。
たとえ今私を見てくれたとしても、彼が好きなのは・・・
『えー、私には聞かないの?』
『どうせ唯葉は空いてるだろ?』
『・・・まあ、そうだけど』
考えるな。
『唯葉! 今ちょっといいか? この前のことで聞きたいことがあるんだけどさ』
『えー。別にいいけど・・・めんどくさい』
『そう言うなよ。お願い!』
思い出すな。
『唯葉。ちょっと買いたいものあんだけどさ、付き合ってくんない?』
『またー? ・・・はあ。今度はなに買いたいの?』
『それはだな・・・』
お願い、思い出さないで・・・っ!
「─────可哀想な子」
「え?」
ぐちゃぐちゃになっていた頭を冷やすように、少女の声がそっと響いた。目を開けると、黒髪赤目の、黒い角を生やした少女が窓辺に立っていた。
「あなたは彼が好き。でも彼は違う子が好き。あなたもその子が好きだけど、その子がいない今も好き。・・・一方通行の想いって、虚しいわよね〜」
「・・・だ、れ?」
名前も知らない少女に、あっさりと胸の内を言い当てられて、心臓が破裂しそうな思いに駆られる。そして、混乱した頭で少女に尋ねた。
すると、少女は妖艶な笑みを浮かべる。
「・・・あなたが、これから好きになっちゃう人」
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