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狐のあくび  作者: はしご
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第35話「異質な檻の中」


 あの後から、約一時間ほどが経過した。


 その間、私の拷問によって男は簡単に色んな情報を吐いてくれた。・・・もっと手こずるかと思ったけど、想像以上に簡単だったな。


 彼からの情報によると、まず、彼はリーノフェルト王国の騎士団の副団長らしい。副団長ともあろう人がこんな単純でいいのかとも思うが、私にはあまり関係のないことだ。


 取り敢えず、彼が持っていたメモ帳とペンに引き出した情報を全て書かせた。


 現在の人族の状況や人員、今後想定している作戦等、魔王様にとって有益であろう情報は全て聞き出した。たとえ、勇者のことでも。


 そして、最後に・・・


「・・・あの魔法剣士、何者?」

「れ、レイス・ミクシードのことか?」

「うん」


 確か、そんな名前だった気がする。


「あ、アイツは、人族最強と言われてる、イルアキナの剣士だ。全ての魔法を操れるらしいが、詳しいことはあまり知らない。ほ、本当だ! う、嘘じゃない・・・」

「・・・そう」


 確かに嘘はついていないように見える。というか、早く解放されたい一心でそんな余裕もなさそうだ。


「わかった」

「こ、これで、終わりか?」

「うん。終わりだよ」


 一瞬安堵の表情を浮かべた彼の頭に、私はポンと手を置く。そして───魔力弾で、その脳を貫いた。


 彼はそれに反応することもできず、その場に倒れてしまった。一応脈をとって確認してみるが、確実に死んでいる。


 なんか、本当に呆気なかったな、この人。


「・・・ま、いいや」


 私は眼下の死体を跨ぎ、ドアの方へと向かう。


 さて、どうやって逃げようか。副団長からの情報によると、現在この建物は王国周辺の郊外にある森の中にあるらしい。


 何でそんなに所にあるのかというと、彼が秘密裏に私から情報を引き出して手柄を全て自分のものにしようとしていたからだとか。全くもって馬鹿らしい理由だけれど、こちらとしては好都合だ。もしこれが王都の中心とかだったら脱出も難しいだろうし。


 とはいえ、ここにも彼の部下が何人もいる。慎重に行かないと、すぐに王都の方へ連絡が行くかもしれない。


 だから、まずはバレずにここから出ないといけない。


「よし、決めた」


 バレずにここから出る方法・・・簡単だ。全員、殺しちゃえばいいんだ。それが最も単純で、かつ確実な方法だ。


 私は目を閉じて、魔力を集中させる。地面にそっと手を置き、この建物全体の魔力の流れを掴み取る。



 ─────魔力感知。人数把握。位置、距離、確認。行動パターン、予測。魔力操作・・・魔力弾、同時発射。



「・・・今だ」



 瞬間、高密度の魔力を凝縮した魔力弾を、大量に発射する。それらは壁や床を貫通し、ただひたすらに真っ直ぐ、標的へ向かう。そして・・・全て同時に、対象の脳を穿った。


 ・・・成功した。全員の魔力反応が消え去った。何も知らずに死んで行った彼らには申し訳ないけれど、魔王様と敵対してる時点で容赦はない。


 確実に、全員殺した。


「ふぅ」


 流石に、魔力支配を行ったばかりの疲弊した身体で、広範囲の魔力感知を行うのは相当しんどい。私は頭を押えながら、扉を開く。通路には私の殺した人間たちが何人も倒れていたが、無視して進んでいく。


「・・・あった」


 いくつか部屋を探し、暫くしてようやく私は自身の服とお面、そして刀を見つけた。


 これらは全部魔王様からいただいた大切なものだ。それがほんの少しの間でも薄汚い人間の手に渡っていたと思うと心の底から不快だけれど、もう死んでしまった人達に何を言っても意味など無いだろう。


 ボロ布を脱ぎさって服を着替えて、腰に刀をつける。そして、お面を被る。


 さっき魔力感知をして思ったけれど、お面をつけているほうが視界に無駄なものが入らず魔力に集中できる気がする。何よりずっと付けていたから、こちらの方が安心感がある。


 とりあえず目当てのものは見つけたので、私は再び魔力感知を行い、出口を探した。



 どうやら私のいた場所は地下だったようで、階段をのぼり、地上へと出る。そこは、あの男が言っていた通り森の中だった。


 ・・・よし、帰ろう。


 一応あの男にヴィルノ山脈までの道のりを書かせたので、たぶんそれ通りにいけば帰られるだろう。むしろ問題は山脈に着いてからだ。


 以前はレイヴンさんに連れて行ってもらったけど、今度は私一人で行かなくてはならない。・・・まあ、あれからどれだけ成長したのか、試すのに丁度いいだろう。



「─────・・・ん?」



 地図に従いながら森の中を歩いていると、私の耳がピクリと動く。


 ・・・近くに、魔族がいる。人族と魔族は体内の魔力の質が異なり、判別がつく。そしてこの感じ・・・地図を見れば、人族の村の方だ。



 ・・・・・もしかして、奴隷、とか?



 間違いなく人族の村ほうから魔族の魔力を感じる。人族に捕らえられ、奴隷にされてしまった魔族がいるのだろうか。


 ・・・だとしたら、黙って見過ごす訳にはいかない。


 私は奴隷制度が大嫌いだ。奴隷がどれほど辛い思いをして生きているのか、私はよく知っている。だから、叶うなら・・・見つけた奴隷は、絶対に助けたい。



 それは私にとって、魔王様の次に大切なことだから。



「・・・行ってみよう」


 私は真っ直ぐ、気配のある方へと足を進める。ふと途中で、気配の位置が村とは少し離れていることに気がついた。


 村で捕まっている奴隷では、ないのかな?


 しかし、先程からその魔力の主は微塵も動かない。死んでいはいないようだけれど、とても生きているとも思えない。


 そんな不可思議な存在へと、私は魔力を頼りに向かう。



「・・・なに、これ」



 近づいて、私はようやくその異質さに気がついた。微かに感じていた魔力がはっきりとして、その不気味な流れに背筋を凍らせる。


 確かに魔族のもつ魔力ではあるのだけれど、それにしてはとても気味が悪い。何だかとても、濁っていて、歪んでいる。そんな感じがした。


 その魔力の正体へゆっくりと歩み寄り、やがてひとつの檻が見えた。私が入れられていたのよりは大きい。


 そして、中に誰かいる。それがきっと、この異質な魔力の主だろう。私は少し警戒して、魔力操作で気配を完全に断った。


 一歩、また一歩と近づいていく。そして・・・



「・・・ねえ、大丈夫?」



 私は、声をかけた。


 その呼び掛けに反応して、中にいた赤髪の”少女”が、ゆっくりと顔を上げた。私を映すその瞳はとても虚ろで、肉体もやせ細っている。今にも消え入りそうな儚い雰囲気を身に纏う彼女の頭には、見覚えのある角が生えていた。


 そこにいたのは、魔王様と同じ────悪魔族の少女だった。



  ◇◇◇



[SIDE:???]


 それは、カゲハがこの世界に来る少し前のこと。


「はあっ・・・はあっ・・・」


 真夜中の森林で、一人の少女が道無き道を駆けていた。


 その服装は服とも呼べないボロ布のようなもので、汚れている。赤い髪はボサボサで、肌も傷だらけ。今にも折れてしまいそうな程に身体は痩せ細っていた。


「嫌だ・・・誰か・・・っ!」


 少女は歯を食いしばって走るが、その速度は次第に遅くなっていく。


 泥だけの足はズキズキと痛み、全身の疲労も既に最高潮に達している。もはや立つことだってままならない。


「ひゃっ!?」


 とうとう限界が来たのか、少女の足は縺れ、その場に倒れ込んだ。


 そして、倒れたまま動けない少女の周りを何人もの人間が取り囲む。彼らの手には、縄や拘束具が握られていた。


「い、いや・・・」


 その弱々しい抵抗も虚しく、人間たちはついにその少女を捕らえた。


「この・・・化け物め」


 憎悪、怨嗟、殺意、そういった黒い感情を隠そうともせず、人間たちは少女を睨みつける。


 その少女の頭には、まるで山羊のような角が生えていた。漆黒で、おぞましい、悪魔の角が生えていた。


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[一言] 人間、許せない
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