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狐のあくび  作者: はしご
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第31話「初任務」


 叙任式を終えた私は、最高幹部の人達の前に立っていた。他の兵士たちは既に立ち去り、この玉座の間には魔王様と最高幹部の人たちと私しかいない。


 ひと仕事したから疲れたけど、魔王様の前で気は抜けられない。


「それじゃあカゲハ。自己紹介しな」

「・・・はい」


 魔王様に促され、私は彼らに目を向ける。といっても、仮面越しだけれど。


「カゲハ・レングウ。よろしく」

「・・・カゲハ。もう少し詳しく頼む」


 名乗った私に、魔王様はなぜか嘆息する。・・・詳しくって言われても、どうすればいいんだろう。自己紹介って何言えばいいのか分からないんだけど。


 適当に好きなこととか今後の目標とか言っておけばいいのかな?


「・・・えっと・・・狐の獣人。好きなことは睡眠。尊敬してる方は魔王様。魔王様の力になれるよう、たくさん人間を殺したい。よろしく」


 取り敢えず、魔王様に言われた通りに詳しく自己紹介をしてみる。これでいいかと思い魔王様の方をちらりと見たら、なんだか残念そうな目でこちらを見ていた。


 私、何か変なこといったかな?


「まあいい。それじゃあ、お前らも軽く自己紹介していってくれ」

「了解しました」


 魔王様が今度は他の最高幹部の人たちに自己紹介を促すと、メガネを掛けた男の人が真っ直ぐな声で返事をした。


「ではまず俺からしよう。俺は───」

「オレ、シグラス・ヴァント! 吸血鬼だ! 好きなものは殺し合い! よろしくな!!」


 メガネの男の人の言葉を遮り、もう一人の男の人が自己紹介をした。なんだか陽気な人だ。さらっと凄いこと言ってたけど。


 ふと、私は二人の容姿を見比べてみる。どちらも銀色の髪に、赤い瞳、そして鋭い八重歯が特徴的だ。メガネの人は髪が長くて、それを一つに結ってるけど。


「被るなシグラス! ────こほん。俺はメフィル・ヴァーデン。吸血鬼だ。第一軍の軍団長を務めている」


 メガネの人は改めて自己紹介をし直した。


 やっぱりこの人も吸血鬼か。シグラスっていう人と凄く容姿が似てたし、多分そうだろうとは思ってた。


 っていうか、この人が第一軍の軍団長なんだ。まあ確かに、この中では一番しっかりしてそうな雰囲気がするし、納得だ。


「貴様の性格や能力については、今後の活躍に応じて評価することにしよう」

「うわぁ、嫌な言い方をするね〜。団員もまとめられないリーダーのくせにそういうこと言うのかい?」

「黙れ。まとまりがないのは貴様らに協調性というものが欠落しているからだ」


 そんなメフィルさんを煽ったのは、先程私にもの凄い勢いで喋りかけてきた、桃色の髪と兎の耳が特徴的な女性だ。


「さっきも自己紹介はしたけど、私はルナ・メタリル。兎人族さ。魔導具開発を専門としている。よろしく」

「魔導具開発?」

「ああ。別に最高幹部と言っても、みんながみんな戦闘向きって訳では無いのさ」


 ・・・そうなんだ。初めて知った。


 魔導具って、確か魔力を込めるだけで魔法みたいな現象を引き起こせる道具のことだよね。それを作ってるんだ・・・。確かに、白衣着てるし研究者っぽい。


「わ、わたしは、セイラ・ニールノリア、です。えっと、その・・・回復魔法が、得意です・・・」

「おー」


 次に自己紹介してくれたのは、金髪の少女だった。耳が長いけど、もしかしてエルフっていう種族なのかな?


 最高幹部に選ばれたってことは、きっと凄い回復魔法が使えるんだろうけど・・・なんでこんなにおどおどしているんだろう。


 私が首を傾げていると、レイヴンさんが声を上げた。


「俺はレイヴンだ!」

「知ってる」

「鬼族で、敵をぶっ飛ばすのが得意だ!」

「知ってる」

「・・・なんか冷たくないか?」


 少し悲しそうなレイヴンさん。でも、冷たいも何も、レイヴンさんのことはもう既に知ってるし、今更自己紹介されてもなぁ・・・


 そう思っていると、次はおじいちゃんが前に出てくる。


「儂はオルヴァ・レングウ。カゲハのおじいちゃんじゃ」

「「えええっ!?」」

「・・・道理で苗字が同じ訳だ」


 おじいちゃんのことも当然知ってるけど、これはどちらかというと他の最高幹部の人へ向けても自己紹介だろう。


 みんな声を上げて驚いている。メフィルさんは変わらず冷静だけれど。


 そんなこんなで、皆の顔と名前はある程度分かった。



「───さて、一通り自己紹介も終わったみたいだな。本当はもっと交流を深めて欲しいところだが・・・残念ながら、今は時間が惜しい」


 私たちの会話が一段落ついたのを見計らい、魔王様は頬杖をつくのをやめて、姿勢を前のめりにした。


 皆は、魔王様の言葉に意識を向ける。それぞれの表情や、場の空気が一気に引き締まったように思える。


 しかし、時間が惜しいというのはどういうことだろうか。


「カゲハも加わった新生最高幹部の君たちに、早速だが任務だ」


 任務。その言葉に、私も息を呑む。



「それは・・・各地に点在している一般市民を、都市へ避難させてもらいたい」



 真剣な声音で魔王様は告げる。


 ・・・避難? なんだか、予想とは異なる任務内容だ。これには他の幹部の人たちも首を傾げている。そんな中、レイヴンが軽く手を挙げた。


「魔王様。人族領にいる一般市民の避難は、元よりやってるぜ?」

「いや、今回はそれだけじゃない。魔族領にいる一般市民も含め、全ての魔族をこの城のある中央都市に集める」

「全て!? なんだってそんな・・・」

「少し前に、人族に【転移】の魔法を持つ者が現れた」

「─────っ!?」


 その言葉に、全員が戦慄した。・・・そしてそれは、私も。


 転移、その魔法には覚えがある。私の居場所を奪い去った人間ども、奴らは突如として村に現れた。そんな人間たちの中で、こんなことを言っていた。


『いやはや。ただの転移魔法の試験発動だったのが、まさかこんな収穫を得るとはなぁ』


 転移魔法の試験発動。つまり、アレが本格的に使用されるようになれば、またリルノ村みたいな惨劇が引き起こされるかもしれない。


「それぞれの村にも兵士や警備員はいるが、もし大量の人族が送り込まれた場合、即時対応出来るとは限らない。中央都市ならば、君たち最高幹部や、実力ある兵士たちが多くいる。手遅れになる前に、市民を我々の手の届く範囲に集める必要があるんだ。そしてその為には、速さと安全性が必須だ」

「なるほど。そこで俺たちの出番という訳ですか」

「まっ、そこら辺の奴らより俺らが動いた方がはえーだろうしな〜!!」


 魔王様の説明に、メフィルさんやシグラスさんも納得の色を示す。私たちの反応を少し見たあと、魔王様はさらに続けた。


「我々魔族軍は人族軍と比べて圧倒的に数が少ない。重要な戦力である君たちを戦闘から離脱させるのも惜しいが、兵士の数を減らしすぎる訳にはいかないからな」


 たとえ個で強い人がいても、数が少なければ対応しきれない部分が生まれる。要するに多勢に無勢だ。


 兵士たちを避難に回すとどうしても数が減ってしまう。だったら代わりに少数でも戦力になる最高幹部が避難の方に回り、終わり次第すぐに戦線に戻る、という訳か。


 危ない綱渡りのようにも思えるが、市民の安全が第一、ということだろう。


「今回はルナとセイラを除く五人に任務にあたってもらう。その代わり、君ら二人は戦線でのサポートに尽力してもらうぞ」

「「はい!」」


 二人が真っ直ぐな声音で返事をしたのを見た後、魔王様は私たちの方に視線を向ける。


「お前たち五人には、東西南北の四方向に分かれてもらう」


 四方向? それだと、一人余ってしまうような・・・


「カゲハ、お前はまだ一般市民に最高幹部として深く認知されていない。まずは、他の奴とペアになって行動してもらう」

「・・・わかりました」


 確かに、私は今さっき最高幹部に就任したばかりだ。一応市民には通達されるだろうけれど、実績も何もない私の避難誘導に素直に従うとは思えない。既に認知されている人と一緒の方がいいだろう。


「それで、だ。カゲハ、お前にはメフィルとペアになってもらう」


 メフィルさん。あの真面目そうな吸血鬼の人だよね。


 私はちらりとメフィルさんに視線を向けてみる。あちらも鋭い目付きでこちらを見る。何故か睨まれたので視線を外し、私は再び魔王様の方へと向き直した。



「それじゃあ・・・期待してるぞ、お前ら」



 魔王様の言葉に、私は手を握る力が無意識に強くなった。私の最高幹部としての初任務が、ついに始まるんだ。


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