表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐のあくび  作者: はしご
34/75

勇者編3「苦悩と会議」


[SIDE:翔斗]


 その少女に出会ったのは、まだ俺も少女も幼い頃だった。


 誰もが少女の愛らしい容姿に目を留めて、そして少女の儚げな魅力に惹き付けられた。いつも眠そうにしていて、ぼんやりしていて、簡単に壊れてしまうんじゃないかと思うほど、繊細な少女だった。


 俺はその少女と話がしたくて、何度か声をかけていた。それ以来、彼女とはよく喋るようになった。そんな中、俺はふと『どうしていつも眠そうにしているの?』と尋ねたことがある。


『私、眠るのが好きなの』


 少女はそう答えた。俺は、少し不思議だった。俺は友達と一緒に駆け回ったりするのが好きで、眠ることを楽しいとか嬉しいとか考えたことなんてなかった。


『どうして?』


 俺は純粋にその事が疑問で、また尋ねた。


『眠るとね、こことは違うところに行けるの』

『違うところ? 夢のこと?』

『うん。だけど、それだけじゃない。嫌なこととか、悲しいこととか、そんなものがないところに行けるの。そこはね、楽しい夢なんかでもなくて、何もない、真っ暗なところなの』


 当時の俺には、少女が何を言っているのか分からなかった。今だって、全部を理解したとはいえない。けれど、少しは分かるようになった。


 少女はきっと、現実から逃げたかったんだろう。辛い現実から、目を背けたかったんだろう。


「・・・現実、か」


 その少女のことを思い出しながら、俺は今の自分を見つめ直す。一番現実から目を背けていたのは、俺の方だ。彼女みたいに眠るのではなく、ちゃんと起きていたのに、目を閉じていた。


「何やってんだ、俺は」


 俺は戦場で、とある獣人の少女に負けた。だけど俺は生きている。どういう訳かは分からないけど、俺は彼女とその彼女を連れていったもう一人の少女に、見逃されたんだ。


 たぶん、彼女らの実力は俺よりずっと強い。


「・・・俺って、弱いな」


 自室で一人、俺は呟いた。


 俺、桐島翔斗の人生は、順風満帆だったはずだ。友達と毎日仲良くしていたし、・・・好きな幼馴染の女の子とも、よく話していた。楽しい毎日だった。


 だけど一転、異世界に来たことによりその日常は奪われた。大切な人の笑顔を、失ってしまった。


 それでも俺は諦めずに努力して、強くなったつもりだった。


 でも、ダメだった。まだまだ俺は弱い。皆の前で、いつか唯葉たちを救うなんて言っておきながら、このザマだ。


 それに、弱いのは力だけじゃない。


『その魔族だって、普通に生きてたんだよ?』


 俺が戦場に出たのは、別にあれが初めてじゃない。何回も、魔族を殺したことがある。だけど俺は、不思議と罪悪感に囚われることはなかった。


 異世界なんて場所で、相手は人外である魔族、無意識のうちにゲームで敵を倒すような感覚になっていたのかもしれない。


 今まで俺が殺してきた魔族にも、家族がいて、家庭があって、日々の生活があった。そう考えると、途端に自分が醜悪な人間なのだと思えてくる。


 勿論、これは戦争なのだ。たとえそれでも敵を殺すことはある。


 ・・・だけど、俺は彼らを一つの”命”と認識していなかった。その事が、酷く恐ろしい。そして、何よりも・・・


『お前ら、人間のせいじゃないか! お前らがいつもいつも私から奪うから!』


 切実な、今にも擦り切れてしまいそうな、少女の声が脳裏に響く。


『本当は、私だって───────』


 あの後、彼女はなんて言おうとしたのだろうか。それを思うと、俺はなんて無神経で、酷い事を言ったのだろう。


 ・・・確かに、彼女は敵だ。同情なんてするべきじゃない。だけど、だけど・・・



「翔斗。ちょっといい?」

「あ、ああ」


 聞き覚えのある声が聞こえ、俺は顔を上げた。扉を開いて部屋に入ってきたのは、俺のクラスメイトであり、幼馴染の折宮花乃だ。


 今日はなんだか、顔がやつれているな。


「花乃。どうしたんだ? 具合悪そうだけど」

「え? ああ・・・。ちょっとね・・・」


 花乃は、軽く事情を説明してくれた。


 少し前に、人族の兵士が魔族の村人を殺している姿を、その目で見たらしい。それが酷く恐ろしくて、怖くなってしまったのだとか。


 それ以来、ずっと体調が優れないようだ。


 とても辛そうだ。普段の俺なら、励ましの言葉なんかをかけるかもしれない。だけど、俺にそんな資格なんてない。


 だって、俺は魔族を殺している側の人間なのだから。


「まあ、気にしないでよ。それより、翔斗は大丈夫なの?」

「え? ああ。ちょっと疲れてるだけだよ」

「しっかりしてよねー。この後の会議、クラスのみんなも集まる事になってるから、遅れないでね」

「わかった」


 無理やり作った明るい声で、花乃は告げる。


 ・・・昔は、そんな風に笑う人じゃなかった。唯葉が、影宮唯葉がいたあの頃にまた戻れたなら・・・なんて、そんなこと考えても意味なんてないのに。


 連絡事項を告げると、花乃は早々に部屋を出た。部屋にはまた俺一人だけとなり、静けさが蘇った。


 ・・・これだけ静かだと、またネガティブなことを延々と考えてしまう。みんなを待たせてもいけないし、早く行こう。


 そう思って、俺は立ち上がった。



  ◇◇◇



 人族同盟。


 それは、対魔族のために人族の国々が、人族の勝利のために集まった同盟だ。


 武器や防具の生産と輸出入が世界一である商業国家《イルアキナ共和国》、圧倒的な武力を誇る《ヴィクシドア帝国》、世界最高峰の魔法大国《シルファス聖王国》、そして、俺たち勇者の召喚に成功した《リーノフェルト王国》。


 この四国が人族同盟の主要国家だ。


 しかし、別にこれらの国は特別仲が良いという訳じゃない。というより、むしろその逆。対魔族戦争のために仕方なく同盟を組んだだけで、それまでは人族同士で戦争をしていたくらいだ。


「王国の兵士が魔族一人によって大量に討たれたそうじゃないか」

「帝国の方も、魔族の、それも幹部の侵入を許したと聞きましたが?」


 ・・・だから、この人族同盟の会議も、マウントの取り合いや責任の押し付け合いが酷くって、正直参加したくない。


 それでも俺らは王国の誇る勇者、舐められないためにも後ろで控えてなきゃいけないらしい。まあ、他の国も騎士とか引き連れてるしな。


(なあ、これいつまで続くの?)

(静かにしてろ)


 隣に立っていた関口竜之介が耳元で話しかけてくる。しかし、私語なんてバレたら余計面倒なことになる。


 普段はこのうるさい竜之介は、雄也が諌めてくれてたんだけどな。アイツも唯葉同様、行方が分かっていない。



「────あのさー。そういうどうでもいい言い合いは時間の無駄だしやめない?」



 その時、険悪な空気を断ち切る脳天気な声が響いた。誰だ? うちのクラスメイトの声ではないぞ?


「・・・何だと?」

「ちょっと。図星だからって睨まないでよ。どうせこの場にいる誰も、俺には勝てないんだからさ」


 その声の主は、ニコリと軽薄な笑みを浮かべる。


 しかし、それに反論できる者は一人もいない。なぜなら、その言葉通り彼より強い者なんてこの場に・・・いや、人族には一人もいないのだから。


 さらさらとした純白の髪と、宝石のような青い瞳。容姿端麗で高身長とまるでモデルのようなその男は、共和国の抱える世界最強の男、レイス・ミクシードだ。


 尤も、かくいう共和国もその手網は握れていないようだけれど。


「今話すべきことは一つでしょ。どうすれば魔族を皆殺しに出来るのか」


 皆殺し。


 そのあまりにも直接的な表現に、俺は思わず肩を震わせた。視線をズラすと、花乃は目に見えて具合が悪そうにしていた。


「王国の軍に被害を与えたっていう獣人、魔法みたいな技使ったんでしょ? 獣人なのに。どういう原理かは分からないけど、それってヤバいでしょ。魔族の人口の多くは獣人だ。だから兵士も獣人が多い。だから魔力主体の戦争において俺らは有利だった。けど、もし魔族が獣人でも魔法を使える術を見つけていたとしたら─────負けるよ、俺ら」


 話し方こそ軽いけれど、彼の言うことは全て的を射ている。核心をついているからこそ、誰も反論できない。


 だけどそれ以上に、彼の言葉には何故だか引き付けられる。


「だからさ、これから皆で話し合おうよ。噂の獣人ちゃんを、捕まえる作戦。もしくは・・・殺す作戦を、ね?」


 再びニコリと笑うその青年が、俺にはなんだか・・・とても恐ろしく感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ひぇ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ