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狐のあくび  作者: はしご
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第25話「お着替え」


 魔王軍は、十人の軍団長とそれぞれの軍団によって構成されている。しかし一つだけ、一際異彩を放つ軍団がある。


 それは第一軍だ。第一軍は魔王様が直々に選んだ魔族のみで構成された、魔王軍最強の軍団である。


 現在の人数は六人で、軍団と呼ぶには余りにも少数だ。しかし彼らは、一人一人が軍隊そのものに等しい実力を持つ。


 そんな彼らを、人々は《最高幹部》と呼んだ。



 ・・・それが、私が以前魔王様から教わった知識だ。その、はずなんだけど。


「えっと、今なんて言ったんですか?」

「最高幹部・・・つまりは、第一軍の団員にならないか、と言ったのさ」


 どうやら聞き間違いではないらしい。


 嘘でも冗談でもなく、本当に私に最高幹部にならないかと聞いてきた訳だ。・・・それはつまり、魔王様は私に最高幹部になってほしいってことだよね?


「分かりました」

「まあ混乱すると思うが・・・って、ええ!? 理由とか聞かなくていいのか!?」

「魔王様が入れって言うんなら、理由なんていらないです」


 私は魔王様のために生きる。魔王様に全てを捧げる。そう決めたのだ。


 だから、魔王様がやれというのなら、どんな事だろうと私は迷わずやる。


「ま、まあ、前向きな返事が聞けて良かったよ。さて、それじゃあ詳しい話をしようじゃないか」

「はい」

「・・・まず、カゲハを第一軍に配属する理由だが、第一にあげれるのは、純粋にカゲハの実力が高いこと。何せ私が直々に訓練したんだからな。そんなカゲハを一般兵にしておくなんて勿体ない真似はしないさ」


 私に実力、あるの?


 いやまあ、確かにどの人間もサクッと殺せるし、普通よりかは強い自信はあるけれど・・・どうも、いつも魔王様にボコボコにされているせいか、実感が湧かない。


 まあ、魔王様がそういうのならそうなのだろう。・・・あの山脈を凄まじい速さで駆け上がっていたレイヴンさんに勝てるとは、未だに思えないけど。


「あともう一つの理由としては、一番カゲハが所属しやすいところでもあるんだ。第一軍は」

「どういうこと?」

「あそこは普通の軍団とは違っていてな。入団試験も何も無く、私が直接選んだ者のみで構成されているんだ。面倒な審査も不必要だし、いいだろう?」

「なるほど・・・」


(・・・あと、普通の軍団で、カゲハが周りに合わせられるとも思えないしな。隊列とかすぐに乱して人間殺しに行きそうだ・・・。その点、私の直属なら安心だな)


ん? 最後に、何だか残念そうな目で魔王様に見られた気がする。気の所為かな?


「そんな訳で、早速行こうか!」

「・・・行く? 他の団員の人と顔合わせに、とかですか?」

「いいや。お洋服屋さんさ」


 ・・・え?



◇◇◇



 魔王様はどうやら既に私の服とやらを注文済みなようで、今から服屋にて受け取りに行くのだとか。


 ・・・それにしても、服か。私はこれまでメイド服だったが、魔王様に拾ってもらったことで、新たに服を何着か頂いた。どれも訓練に適した運動着、といった感じのものだ。


 はて、どの服も着心地は悪くないし、ボロボロになったというほどでもない。何故服屋に行くのだろうか。


「いや、カゲハはこれから最高幹部の一人になるんだから、きちんとした服装をしてもらわないとな。それに、今のままでは耐久性に欠ける」

「耐久性・・・確かに」


 戦闘において、ただの運動着というのはまずいかもしれない。防御力に欠けてしまうし。


 つまりは、戦闘用の服、という事だろうか。ってことは鎧とか? ・・・うーん。私の主な攻撃方法は速さ重視だから、あまり速さを損なうようなものは困るかもしれない。


「さて、着いたぞ」


 魔王城を出て、城下町のとある服屋に到着した。


 それにしても、流石は王都だ。リルノ村とは比べ物にならないほど発展している。私は街の風景に感心しつつ、魔王様に連れられて服屋に入る。


 見たところ、防具店というよりかは、普通の洋服屋さんに見えるけど・・・。


「魔王様! ご注文の品、出来上がっていますよ!」

「ああ。早速だが、この子に着せてくれるかい?」

「かしこまりました! ささ、こちらへ!」


 やけにテンションの高い店員さんは、魔王様に言われたとおりに、すぐさま私を試着室へ連れていった。


 ・・・なんか、すごい気迫だ。


 まあ、それもそうか。相手はこの国の王様な訳だし。緊張するし興奮もするか。


 やや強引に試着室まで連れてかれた私は、目にも止まらぬ速さで服を脱がされ、そしてすぐに服を着せられてしまった。


 何が起こったのか理解するのに、少し時間を要してしまった。


「はい! 出来ました!」


 気が付けば着替えは終わっており、試着室のカーテンが開けられる。


「うむ。思った通り似合っているな」

「えっと、これは・・・」

「それは東の方の里の伝統的な装束だ」


 私が着せられたのは、東の里の伝統的装束であるという、着物などの和服のようなものだった。


 これは、巫女服・・・なのかな? ・・・むう。よく分かんない。というか、少しファンタジーちっくなデザインな気もする。


 色は白と紫という、私の髪色に合わせた感じになっていた。全体的な印象としては、綺麗さや儚さを感じる。


 正直、戦場とはミスマッチな雰囲気だ。


「魔王様。これで戦うんですか?」

「本当に君はそればっかりだなぁ。ただ、安心したまえ。実はその装束には竜繊維という糸が使われていてな、防御力や伸縮性、魔力伝導もバッチリの代物だ。ただの剣なんかだったら傷一つつかない、そこらの鎧とは比べ物にならない防具だよ。な、君にピッタリの衣装だろう?」

「へぇ・・・」


 ただの布のように思えるけど、そんなに凄いのか。


 試しに、私は刀とは別に装備してあるナイフを取り出して、躊躇なく自分の腕を切りつけた。


「お、お客様!?」

「・・・ホントだ。痛くない」


 刀を受けた反動こそあるものの、腕自体への衝撃はほとんど感じなかった。


 日本とかでは信じられない技術だな。改めてここが異世界だと感じさせられる。


 こんなに強いのに軽いし動きやすい。確かに私にピッタリだ。


「ちなみに、魔力を流せば強度はより上がるし、何より汚れやにおいも取れるから洗濯要らずだ!」


 ・・・これより更に強くなるってすごいな。私は防御魔法とかが使えない分、攻撃を受けた場合弱いから、そこをカバーしてくれるのは有難い。


「気に入ってくれたかな?」

「はい」


 こんなにも高性能な装備を貰えるとは思っていなかった。刀も良いものらしいし、魔王様には頭が上がらない。


 そしてなにより、これは魔王様から頂いたものだ。嬉しくないはずがない。


 魔王様も満足そうな表情をしたあと、「さて」と言って店の出口へと向かった。


「装備購入も終わったことだし、そろそろ行こうか」

「ようやく顔合わせですか?」

「いいや、それはまた後日だ。今日は、もう一つ別に行きたいところがあるんだ」


 まだあるんだ・・・。なかなか他の幹部の人達には会わせてくれないらしい。


「ま、期待しとけよ。きっとビックリするからな?」


 くるりと振り返り、魔王様は悪戯っぽく笑い、店を出る。


 私も急いでその後を追った。


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