第21話「戦場の化け物」
魔王との模擬戦で、私は魔王には隠していたとある”成長”をついに見せた。
私は今まで、魔力干渉を行うには対象に直接手で触れなければならかった。しかし、魔王との訓練や魔力操作の自主練を続け、ついには魔力干渉を半径一メートル以内ならば触れずに行うことができるようなった。
それにより、最後の攻撃、魔王の展開した魔力障壁を破壊できたのだ。とはいえ、あれは魔王の展開した障壁がまだ未完成だったからこそ成せた技だったけど。
こうした成長の甲斐もあり、私は魔王に認めらてもらった。そしてあの模擬戦から数日。
ついに・・・
「・・・戦場だ」
目の前では、人族軍と魔族軍が争っていた。そう、私はついにこの戦場まで来たのだ。
「おいおい。そう逸るんじゃない」
「だって、あんなに人間がいっぱいいるんだよ?」
人間の顔を見る度に、これまでの憎悪が浮かび上がってくる。
・・・殺したい。一人でも多く、人間を殺したい。そんな私に、魔王は呆れたように溜息を吐いた。そして、懐から一本の刀を取り出す。
「さて、これが約束の武器だ」
「・・・ああ。そういえば貰えるんだっけ」
「忘れてたのかよ・・・」
魔王が取り出したのは、私専用に作ったという刀だ。刀なんかに詳しくない私でも、今まで訓練で使っていたものとは格が違うことくらい、容易に伝わった。
なんかよく分かんないけど、これを使っていいってことだよね?
「いいか? 何度も言うが武器は大切に扱えよ。特にソイツは、私が特別にカゲハのために用意した刀《閃狐》なんだからな。その刀身には魔力が伝わりやすく、かつ強度や鋭さも優れた鳳魔鉄を使用していてな・・・」
「要するに凄い刀ってことだよね。分かってる。絶対に壊さない」
強い武器があれば、より多くの人間を殺せる。そんな良い物を易々と壊したりはしない。
「・・・はあ。まさかこんな戦闘狂になるとは」
「ん、何か言った?」
「別に」
適当にはぐらかす魔王。でも別に、今はそんなことどうでもいい。
やっと人族を殺せる。思い返せば長かった。魔王の訓練は本当に苦しいものばかりだったし、合格を受けたあとも刀を作るからといって待たされたし。
「・・・殺人のことで頭いっぱいになってるみたいだから言っておくがな、今日の君は、一応は魔王軍第三軍の兵士の一人として戦うんだ。決して独りで戦う訳じゃない。隊列・・・とかは無理だろうが、あんまり他の兵士の連携の邪魔になるようなことはするなよ」
「分かってる」
とはいえ、我慢するつもりもない。
「・・・はあ。言っても無駄か。っと、そうだ」
「まだ何かあるの?」
「ああ。カゲハ、これを付けていけ」
「これは・・・お面?」
渡されたのは、黒色の模様なようなものがかかれた、シンプルなデザインの白いお面だった。
「いざって時に君を守る魔法が組み込まれてる魔導具だ。念の為付けておけ」
「へぇ。わかった」
防御魔法とかだろうか? まあ、あるに越したことはない。私は言われた通り顔につける。
「よし。準備万端だな。・・・それじゃ、行ってこい」
「うん」
言われた瞬間、私は返事をしてすぐに、全速力で戦場へと飛び出した。
「まったく、あの子は・・・」
後ろで魔王が何か呟いたが、そんな事は気にしない。私は貰ったばかりの刀を握りしめ、人族へと向かっていく。
私の魔力感知の効果はさらに向上し、相手の魔力の流れなんかから、筋力や身体能力などを把握することも可能となった。人間たちは・・・みんな雑魚だな。でもそんなのは関係ない
さて、みんな殺そう。
まずは一人。魔力を使うまでもなく、相手の懐へと滑り込み、胸下から肩にかけて身体を真っ二つに斬る。
「・・・おお」
この刀、凄い斬れ味だ。
魔力の流れも良くて、私みたいな非力な女でも軽々と人体を切断できた。斬られた男は悲鳴をあげる間もなく血をぶちまけて絶命した。
「はは。返り血が凄いなぁ」
・・・でも、この感覚。あの大嫌いな人間をこの手で殺すこの感覚。・・・最高だ。
「はっ、あははっ。あはははははっ!!」
「ひ、ひぃ!」
「なんだコイツは!?」
「目に見えないぞっ」
「誰か、助けてくれぇっ!」
死ね。
死ね死ね死ね死ね!
首を斬る。腕を斬る。足を斬る。腹を斬る。
何処を斬っても人間は痛みに悲鳴をあげる。
いい。いいぞ。もっと苦しめ人間! 私がお前らから受けた痛みは、こんなものじゃない。もっと痛かった!
次々と人間を斬り、人族部隊へと突っ込んだ私の周りは、とうとう全て人族となった。魔族軍から離れて孤立した?
いいや、これでいい。邪魔するなっていうならそもそも離れちゃえばいい。
「さあ、みんな壊れろ!」
刀身に一気に魔力を流し込む。ここからが本番だ!
私は円を書くように剣を振るった。瞬間、その刃から光の斬撃が放たれ、大量の人族たちを斬り裂いた。
「な、なんだアレは!?」
「何の魔法だ?」
「いや待て、アイツ獣人じゃないか!」
「何故こんな事が出来る!?」
ぎゃーぎゃーと喚く人間ども。ホント、煩い。
「壊れろ!!」
第二、第三の斬撃を放つ。
私の最高の魔力が込められた斬撃は、その地形を変える勢いで人族を蹂躙していく。・・・それにしても、どの人族も歯ごたえがない。
まあ別に、私がしたいのは戦闘じゃなくて殺人だから、構わないけど。
身体中返り血でべったりの赤く染まり、もはや視界も真っ赤になった。それでも、私は人間を殺すことをやめない。
「や、やめろ化け物!!」
その時、一人の男の人間の声が聞こえた。なんだか聞き覚えのある声な気がするけど・・・でも、そんなことはどうでもいい。
「・・・お前、今なんて言った?」
化け物、だって?
ああそうだ。今の私は化け物だ。人間ではない、獣人という種族で、かつ目につく人間全てを殺す化け物だ。そんなことは分かってる。
でも、でも・・・”お前ら”が言うなよ。
「お前らが、私をこんな風にしたんだろう!」
私は視界もハッキリしないまま、声の主に斬りかかる。たとえ前が見えずとも、魔力感知で位置情報は掴めている。
しかし、私の刃は何者かに防がれる。あの男じゃない。別の人間だ。
「お逃げください! この化け物は私が相手します!」
「そんなことは出来ない!」
人間どもが何か言ってるけど、もうよく聞こえない。頭の中で、殺せ殺せと声が煩くて、何も聞こえない。
ただ、どうしようもないほどの殺意が私を飲み込む。
割り込んできたこの男は、どうやら今までの兵士とは違うらしい。でも、私なら殺せる。コイツを殺して、さっき私のことを化け物と呼んだあの男も殺す────
「”勇者様”! 貴方様はこんな所で死んでいい方ではありません!」
・・・・・・・・・え? ゆう、しゃ?
私は耳を疑う。
混乱した頭のままゆっくりと顔を上げ、血まみれの面を拭った。そもそも髪の毛が目にかかっていて邪魔だが、それでも少し視界が晴れた。
もしかして・・・翔斗?
────間違いない。体格が少し変わっていて、表情も険しい。でも確かに、私の幼なじみの桐島翔斗だった。けれど、向こうは私に気づいていない。
それもそうだ。髪は変色して、お面もつけている。何より、今の私は獣人なのだから。
「いいや、逃げない! ・・・俺が、戦う」
「ですが!」
「ここで逃げたら、俺はきっとこれから一生何も救えない。大切なあの子を、助けることもできない!」
何かを言っている。
けど、それは私の耳には届かない。もう、どうでもいい。たとえ目の前にいるのがかつての級友でも、私にとってはもはやただの人間。私の大嫌いな人間だ。
私は殺意を剥き出しにする。対して翔斗は、その剣を私に向けた。
「・・・ここで殺してやる」
「誰も、殺させない!」




