第20話「魔閃一撃」
数日後。私は再び魔王と向き合った。
今日もまた模擬戦だ。そして私は今日・・・魔王に、一撃を与える。備えは十分にしてある。今日、こそは。
「ククッ。いいねぇ。今日はいつもと顔つきが違う。何か策があるのかな?」
「・・・」
真剣な私とは対照的に、魔王は楽しそうだ。
「さあ、いつでもかかってこい」
準備万端な魔王に、私も構える。
刀は鞘に収めた状態で腰元に置き、姿勢を低くする。身体中の魔力の流れを調整し、最適の状態を保つ。
・・・さあ、やれるだけやってみよう。
「はあ!」
私は駆けだす。勿論低姿勢のまま、だ。
身体強化によって向上した脚力によって、瞬間で魔王との距離を縮める。懐に入り込み、私は剣を────抜く素振りを見せ、さらに姿勢を落として足を蹴る。
しかし、その程度のハッタリは魔王には通用しない。悠々とジャンプで避けられた。だけどそんなことは一向に構わない。私の狙いは、魔王が足を地面から離すこの瞬間だ。
私はノーモーションで身体中から魔力弾を魔王へと放つ。いくら魔王とはいえ、空中で避けることは出来まい。
「ふむ」
・・・だが、全て不発。
どの魔力弾も魔王にあたる前に、淡く白光する何かに弾かれる。・・・これは、魔力障壁。つまりは、私がこの間やってみせた防御方法だ。
この人は多分、この模擬戦において自らにハンデを強いることで、手加減をしている。それはきっと”私の同じ技しかやらない”というものだろう。
魔王は、恐らく様々な魔法を使うことが出来るはずだ。しかしこの模擬戦でそれらを使う事はなく、行うのは単純な体術や魔力操作のみ。魔法の使えない私に合わせているのだ。
だからこそ、勝機はある。
「まさか、これが策とやらか?」
ニヤリと笑う魔王。
今度は、彼女が反撃を開始した。私から放たれる魔力弾を無視して、華麗に舞うように私の腹を蹴り上げる。
「ぐぅ!」
思わず嗚咽が漏れて、私は数メートルほど吹き飛ばされた。
身体強化をしてもなおこのダメージとは、本当に化け物だなぁ。けど、これで大体目の前の化け物の”魔力の流れ”は掴んだ。
私は怯まずに次の一手を打つ。
今度はさっきみたいに闇雲に魔力弾を撃つんじゃない。大量の魔力を一つに凝縮し、勢いよく魔王に放つ。
しかしそれは軽く躱され、天高くへと飛んで行った。
「てや!」
その隙にまたも距離を詰める。
手を地面につき、回転するように身を翻す。そして、今度は魔王の腹目掛けて蹴りをいれる。しかし、避けられるどころか片手で足を掴まれた。
ピンチ? いや、むしろチャンスだ。
足を掴まれたということは、即ち今私と魔王の体は触れ合っているということだ。触れているならば、魔力への干渉は容易。
魔王の体内魔力を撹乱させる!
「おお! 私の魔力を操るか。・・・だか甘い」
しかしすぐに気付かれて、抵抗された。
くっ、やっぱり魔王の魔力操作の技術も相当なものだ。魔王は本当に何でもできる。だけど、こと魔力操作に関しては、私は負ける訳にはいかない!
魔王は魔力操作へ意識が一瞬向かった。その隙に私はもう一方の足で蹴りを加える。しかしそれも、魔力障壁によって阻まれる。
やっぱり、隙なんて見せないか。だけど、流石にこれは避けるだろう─────魔力をあらゆる皮膚から放射する!
魔王はまだ、普段やらない魔力障壁の展開にそこまで慣れちゃいない。この咄嗟の広範囲へ攻撃に対しては、防ぐより避けるほうを選ぶはず。
予想通り、魔王は私を離して魔力弾を避けた。レーザービームの如く私の身体中から放たれた魔力弾のおかげで、なんとか拘束から逃れられた。
そして、私を離したということは、多少なりとも怯んだということだ。
なら、ここで一気に攻める!
「いっけぇぇ!」
私は遂に刀の柄に手をかける。魔王の意識もそちらに向いた。────抜刀術。魔王から教わった剣術のうちの一つだ。追撃に追撃を重ね、ここで決める。
─────そう、思わせる。私が抜刀するその瞬間、私は動きを中断して後退した。
「なっ・・・まさか」
そこでようやく、魔王の意識が私の刀から空へと向かう。ずっと低姿勢を保っていたのは、魔王の意識を少しでも下へ逸らすためだ。
そしてこの抜刀もフェイク。魔王が向けた視線の先にあるのは・・・私が先程打ち上げた、高密度の魔力弾だ。
この瞬間、この位置に来るように、何度も攻防を重ねて誘い込んだのだ。
この程度の一撃じゃ、魔王を倒すには遠く及ばないだろう。だけどそれでいい。私の勝利条件は、魔王に一撃当てることなのだから。
「惜しかったな」
・・・だが、魔王はそれを、魔力障壁で防いだ。この咄嗟の動きで、魔力障壁を展開した。
先程私が広範囲への魔力弾を放った時は避けることを選択していたはずだ。つまり、このものの数秒で魔力障壁を完全にものにしたという訳か。
─────でもそれも、想定済みだ。
私のこれまでの行動、抜刀のフェイクや魔力弾によるトドメ、これらすらも陽動だ。
『武器は戦闘の要だ』
いつかの魔王の言葉が蘇る。
そう、抜刀がフェイクということ自体がフェイク。上空からの魔力弾に対しての魔力障壁へと、魔王が意識を向けたこの瞬間を私は待っていた。
私にとって魔王は、実力では格上も格上の存在で、真っ向勝負じゃ手も足も出ない。だからこそ、欺く。姑息でも、卑怯でも、私は勝つためなら何だってやる。
弱い私に出来ることはいつだって、考えることだけだ。どんな相手でも欺けるような、誰も思いつかないような、そんな作戦を考えることだけが、私に残された勝利への道なんだ。
素早く懐へ入り込み、そして柄に手をかける。
遂にようやく見せたこの”隙”に、魔王すらも追いつけないほどの速さの抜刀をする。刀に魔力を込めて体の一部と化し、身体強化と同じ要領でそのスピードを最大限まで引き伸ばす。
──────一閃。私の刀が高速で振るわれる。
しかし魔王も止まっている訳じゃない。すぐに意識をこちらへと向けて、魔力障壁を展開した。
でも、私の方が速い!
魔力障壁がまだ未完全な状態で展開されたその瞬間、”魔力干渉によってその障壁を破壊する”。
「なっ!?」
魔王はハンデで私と同じ技しかやらないようにした。だからこそ、それに拘り過ぎた。避けるという選択をすればよかったものを、敢えて魔力障壁で防ごうとした。
だから、だ。避けるのにほんの一瞬、遅れたのだ。
ドゴオオオオオオオオオオオオオン!!!
魔力のこもった斬撃は、またも訓練所を両断する。魔王ははるか上空へと跳び、くるりと舞って着地した。
その姿は無傷───────では、なかった。
ほんの少し、細く薄い切り傷が、頬に出来ていた。つまりは、私の攻撃が当たったのだ。
「・・・・はあ、はあ、はあ。これで、どう?」
対して私は疲弊し、今にも倒れそうだ。
だけど、騙し討ちに騙し討ちを幾重にも重ねて・・・たとえたった一度だけでも、魔王に攻撃を与えたのだ。
これが、今の私の全力だ。
「・・・ク、クク! クハハ! いいねぇ。合格、だ」
魔王の傷は瞬く間に回復していた。
それでも、私が彼女に一撃当てたことに変わりはない。魔王は心の底から愉快そうに笑い、合格を告げた。
・・・私は、認められたのだ。
「やっ、たぁ・・・」
安心したら力が抜けて、私はその場に座り込んだ。




