第19話「自分だけの戦術」
魔王との訓練の毎日が始まった。
まずは、身体強化に頼らなくてもある程度の運動が出来るように基本的な体力や肉体作りから始まり、それから武術の訓練が開始した。
行うのは主に、体術と剣術だ。
戦闘での体の動かし方などの初歩的なことから、近接戦闘のやり方など、教えられることは多岐にわたる。
私は言われた通りにやっていくが・・・
「いやしかし、驚いたな。教えたことを、こんなにもすぐに吸収してまうとは」
「・・・いっぱい練習したから」
昔から、勉強も運動も苦手じゃなかった。やったことは大体出来るようになっていた。
勿論、何でもすぐに出来るわけでもなければ、まだ完璧に動けるわけでもないけど・・・それでも、訓練が始まってしばらく経つし、少しは様になってきたと思う。
まあ、頭では分かっていても体が追いつかないってことも多々あるけど・・・。それは基礎的な体作りが進めばなんとかなるだろう。
「・・・それで、カゲハは一日どれくらい休憩してるんだ?」
「え」
「答えはほとんどゼロ。君が、私の訓練以外の時間もひたすら自主練し続けていること、私は知っているからな?」
「・・・」
そう、私は別に天才という訳では無い。
訓練のスケジュールは主に日の出ている時間だ。魔王が特別に用意してくれた訓練所で日々行われている。
とはいえ、十分な休憩も必要だと言って、昼と夜は休憩時間が設けられている。しかし、その時も私はひたすら自主練を行っていた。
「・・・あのなぁ、何度も言うが、休憩も強くなるためには必要なんだぞ」
「で、でも・・・」
「でもじゃない! 強くなるには健康な体が必要不可欠だからな。そのことを忘れるんじゃない」
「・・・はい」
時々魔王は、私の母親かのように説教をしてくる。
まあ、母親がどんなものかなんて・・・私にはよく分からないけど。
そんな一悶着もありつつ、訓練は比較的滞りなく進んでいく。
体術、剣術、そして魔力操作。これらが主な訓練内容だが、中でも剣術の訓練は苦労した。刀の扱い方なんてまるで分からなかったし、慣れてきたあとも大変なのは魔力操作との併用だ。
「いいか? 刀は繊細な武器だ。その切れ味は凄まじいが、横の攻撃には弱いし、振り方を間違えれば折れてしまう。そしてそれは、魔力を流す場合も同じだ。常に一定の量を一定の流れで流し続けないと、折れるからな。そして、その刀を折ったらぶっ殺す」
「ひっ!?」
そんな脅迫を受けながら、私は精密な魔力操作を行いつつ剣術の訓練を行うという、超高度なことをしていた。
魔王、鬼コーチすぎる。
「武器は戦闘の要だ。自身の大切な武器を壊すような奴じゃ、戦場で勝てないぞ」
「む、むぅ・・・」
「まあ、その刀適当に買った安いやつだがな」
ガクッ。そ、そういう集中を乱すようなこと言わないでほしい。
「ま、そんな鈍じゃ駄目なくらい上達したら、ちゃんとしたのをあげもいいがね」
「上達って・・・」
「いつも言ってるだろう? 私に、少しでも当てられたら、だ」
私は習った剣術の動きを模倣して、魔王に向かって剣を突き出す。
私は今、魔王と剣を打ち合っている。魔王曰く、少しでも刀を当てることが出来たら一人前と認める、だそうだけど・・・正直できる気がしない。
魔王の実力は凄まじかった。
一振一振が重く、鋭い。私の渾身の一撃も、軽くいなされる。勝つのが難しい、ではなく、絶対に勝てないと思わされる。
それほどに実力に差があるのだ。
「・・・まあ、今日はここまでだな」
「はあ、はあ。ありがとう、ございました・・・」
夜も大分遅くなってきたので、今日の訓練は終了した。
「いいか? 今日はしっかり寝るんだぞ」
「・・・わかった」
◇◇◇
私は、客室のベッドで横になる。
でも、寝ろと言われても、眠れないものは眠れない。というかこれまで、まともに眠れた事があっただろうか?
屋敷にいた時は気絶した時くらいだし、魔族領を目指してた時もろくに寝ていなかった。リルノ村にいた時もほとんど寝れなかったし、眠れたとしても嫌な夢に苛まれて結局は起きてしまった。
・・・私は元々、眠ることが好きだった。あの心地好い感覚が大好きで、私は時と場所も選ばずよく寝て、周りの人に叩き起されていた。
けれど、今はもうロクに眠ることが出来ない。だから結局、自主練するくらいしかやることが無いのだ。
「それにしても、どうやったら魔王に一撃当てることなんて出来るんだろ」
魔王からの訓練を受けて数ヶ月が経ち、この世界に来てもう二年半近く経っていた。
それでも私は、魔王には一向に歯が立たない。まあ、私は魔王から剣術を教わっているのだから、純粋な技のみで勝てるとも思えなけど。
では魔力を織り交ぜた技は?
・・・それもダメだ。魔王の実力は本当に異常で、私の魔力弾なんか素手で弾かれてしまう。
どうすれば認めてもらえるだろうか。もし彼女に認めてもらえれば、私は武器を貰うだけでなく、戦場に連れていってくれると魔王に言われた。
そうしたら、ようやく人間をこの手で殺せるんだ。だから早く認めてもらわないといけない。
「どうしたら、どうしたら・・・」
今ある手札で、魔王に攻撃を当てる方法。純粋な火力じゃ通用しない。どんな技も、防がれてしまう。魔王の防御は鉄壁だ。
どうやったらアレを抜けられる?
魔王の隙をつく・・・といっても、そもそもあの人には隙がない。
それじゃあ、隙を作るか?
どうやって?
『やり方次第で、技はガラリと姿を変える』
「─────っ!」
そうだ。私はただ、魔王に言われた通りの技しかやっていない。
所詮は魔王の真似事で、彼女には遠く及ばない。なら、魔王とは違う、自分だけの戦術を編み出さなければならない。
技はやり方次第でその姿を変える。今の私の手札から、新たな手札を作り出すんだ。魔王に通用するような、新たな戦い方を見つけろ。
圧倒的不利な状況で、今ある武器で相手を翻弄する方法を考える。それは、別に初めての試みじゃない。あの時だって、こうやって必死になって解決の糸口を手探ったじゃないか。
死に物狂いでもがいたあの時の感覚を、決して忘れるな。
それに、今回の私の目的は勝つことでも殺すことでもない。たったの一撃、当てるだけだ。魔王に隙を作らせてそこを突く一撃を出せればそれでいいんだ。
だから、編出せ。
「魔王でも追いつけないような、一撃を」




