第18話「魔王専属強化訓練」
あの後、今日はもうゆっくり休めと言われて私は魔王城の客室に連れていかれた。とはいえ、こんな状況でロクに眠れるはずもなく、一睡もしないまま翌日を迎えた。
そしてついに、魔王による訓練が開始した・・・のだけれど。
「・・・なんで、刀?」
訓練所にて魔王が私に渡したのは、一本の刀だった。
はて、確か魔王は私の魔力操作をより上達させるとか言ってなかったっけ? それなのに、刀?
というか、こんなファンタジーな世界に刀があること自体驚きだけど。
「おや、これを知っているのか。これは鬼人の里で作られた武器なんだが・・・。いくら君が狐人とはいえ、どうして知ってるんだ?」
「狐人なのが何か関係あるの?」
「狐人の里は鬼人の里と同じ東の方の里だからな。東の里は、着物という服装などの、独特の文化で有名なんだ。しかし、君は異世界出身だろう? 異世界にも刀があるのか?」
「異世界というか、私の住んでいた国では有名なやつだよ。着物もあるし」
しかも東って、ますます日本っぽいな。
「って、そんな話はどうでもいいの。なんで刀使うの? 魔力操作の訓練するんじゃなかったの?」
「ああ、そのことか。まあ、これにも深い理由があるんだよ。勿論君には魔力操作の訓練をしてもらうが、それと並行して武術の訓練も行ってもらうつもりだ」
「なんで?」
「君は人間を殺したいんだろう? それなら、生半可な強さだけじゃダメだ。ただ大量の魔力をぶつけるような、力任せの技じゃ、強い人間には通用しない。それに、もし魔力を封じるような相手が現れたらどうする?」
「そ、それは・・・」
「君は何も出来なくなってしまう。だから、魔力操作はあくまで武器の一つにしておくべきだ。それだけに頼っちゃいけない。だから、武術の訓練もするのさ。どんな時でも戦えるように、な」
「・・・なるほど」
確かに、今の私の力は全て魔力に頼ったものだ。私自身の力は貧弱で、動きも拙い。彼女の言う通りだ。
「わかった」
「よろしい。それじゃあまず、君に出来ることを整理しようか」
私は、改めて自身の力を整理しつつ魔王に伝える。私に出来ることは主に四つだ。
一つ目は魔力感知。周囲の魔力反応や、魔力の量なんかを把握できる。
二つ目は身体強化。体内の魔力を操り、体力や筋力を向上させる。
三つ目は魔力弾。これは様々な形状に変質させられて、小さな弾丸や、斬撃のようにしたり出来る。
そして、四つ目は魔力干渉。直接触れることで体外の魔力を操る。これによって、体外ではないけれど、私を縛っていた隷属魔法と奴隷刻印を破壊した。
この四つの他はまあ、単純な魔力操作だけど、体内の魔力を操作して気配を消したりもできる。
「クク、やはり面白い。・・・まだまだ成長の余地が沢山あるな」
「それで、具体的に何をすればいいの?」
「まあ、それぞれの能力を極めてその効果を向上させるっていうのが妥当だが・・・少し面白いことが出来そうだな」
「面白いこと?」
「ああ。そこで使うのが、その刀だ!」
・・・刀? これは、武術用じゃないの?
「言っただろ? 二つの訓練を並行させるんだ。君には、魔力操作をしながら武術の訓練をしてもらう。その為に、剣ではなく刀を用意したんだからな」
「どういうこと?」
「・・・そうだな。カゲハ、その刀に魔力を流してみろ」
「え?」
刀に・・・物に魔力を流す?
そんな事が出来るのだろうか。要するに、これは体外に魔力を放出させる魔力弾の技術と、体外の魔力を操作する魔力干渉の技術の合わせ技のようなものだ。試しにやってみるか。
私は目を閉じて、意識を集中させる。
魔力は、液体のようなものだ。体の中にある器に溜まっている液体だ。それが零れないように、慎重に外へ流し込んでいく。そんなイメージで、魔力を操作する。
「出来た、けど」
「・・・おお。まさか、本当に出来てしまうとは。驚いたな」
「ええー・・・」
「まあいい。それで、何か感じることはないか?」
感じるって何を──────っ!?
「これは、身体強化?」
「それと似た現象だな。物体に魔力を流すことで、自身と物体をひとつの身体のように感じることが出来る。そしてそれが出来るなら、物体の強化も出来るだろう?」
「やってみる」
剣先がまるで指先と同じように感じる。刀が私の身体の一部みたいだ。だから、容量は同じ。自分の身体を強くするのと同じ感覚で、自然に・・・より多くの魔力を込める。
「・・・凄い。出来た」
「うむ。それじゃあ次のステップだ。今度はまた魔力弾の応用だな。魔力弾は君の体から放たれるだろう? つまり、もはや体の一部と化した刀から放つことも可能な訳だ。そこで、だ。刀を振って、その斬撃が魔力弾として放たれる・・・そんなイメージをして魔力弾を放ってみろ」
斬撃を、魔力弾で?
体から魔力弾の斬撃を放つことは元より出来るけど、それを刀でやると何が違うんだろう? とりあえず、言われた通りにやってみる。
今、この刀は私の肉体だ。これまでと変わらず、肉体から斬撃を放つ。そしてそれは、刀の鋭い斬撃として放たれる。
より深く集中をして、刀に魔力を込めて、私はその手を振るった。
────瞬間、凄まじい斬撃が訓練所を両断した。
「・・・え?」
「はっはー! これは想像以上だな! 念の為訓練所を立ち入り禁止にして正解だった」
「な、何これ!? どうなってるの?」
「どうも何も、君がやった斬撃だ」
で、でも、こんな威力、見たことない。
「君はいつも、斬撃そのものをイメージして放っているだろう? だから所詮は、”斬撃のように変形された魔力弾”でしかないのさ。だが今のは違う。本物の斬撃に魔力が上乗せされたんだ。その威力は、天と地ほどの差がある」
・・・凄い。少し魔力の使い方を変えただけで、こんなにも変わるものなの?
私はただ、彼女に言われた通りにやったにすぎない。それなのに、魔力弾がこんなに強くなるなんて。
「今のは、君の拙い剣術で放たれた一撃だ。もしこれで君の剣術が上達したら、どうなると思う? それに、変わるのは斬撃だけじゃない。やり方次第で技はガラリと姿を変える。鍛え方次第で、何倍も強くなれる。・・・な? 面白いだろ?」
面白い、かは分からないけど、ただただ凄すぎて言葉が出ない。
「とはいえ、毎回こんな大量の魔力を込めた攻撃をポンポン撃ちまくってたら地形が変わってしまうし、効率も悪いからな。暫くは剣術や体術、そして細かな魔力操作の訓練をしようか」
「・・・う、ん」
昨日魔王が言っていた。今の私に足りていないのは、知識と技術、そして経験だと。
この人についていけば、私はもっとたくさんの事が出来るようになるだろう。そんな予感がした。
私は、まだまだ強くなれる。昨日の魔王の言葉が胸の中で現実味を帯びてきた。そしてその実感は、活力へと変わる。
・・・絶対に、強くなってやる。




