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狐のあくび  作者: はしご
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第11話「魔族領へ」


 屋敷を出て、私は直ぐに街を出ることにした。


 今日は雨で人はあまり外出していない。雨音で足音や気配も消せるので、意外とすぐに街から出られた。勿論、人間には見つかっていない。


 街を出てしばらく歩くと、森があった。すぐにその森に入り、適当な木の影に腰を下ろす。


「・・・ふぅ」


 無事人間の街から出られたことへの安堵からか、私は少し息をついた。そして、人間が来ないか警戒しつつも、私は考える。


 これからのことについてだ。


 取り敢えず、目指す場所は《魔族領》という所にしておこう。魔族領っていうのは人族ではなく魔族の領地だと、前にセレネアさんに教えてもらった。



 ・・・そこなら、私の居場所があるかもしれない。



 とはいえ、魔族だからって全員が私の味方とは限らないし、これから私が向かう場所はどんな所になるか分からない。


 でも、それでも、人族領なんて腐った場所にいるよりかは、何倍もマシだ。


「・・・でも、どうやって行けばいいんだろう」


 私はこの世界の地理なんて何も分からないし、地図もない。


 一応リボルトの屋敷からいくつか食糧を持ってきたけど、それもいつまで持つか分からない。出来ることなら早く魔族領に行きたい。


 まあ、いつまでも街の近くにいるのは良くないだろう。すぐに立ち上がり、森の中を進んだ。




 歩き出してしばらく経った頃、ふと人の声のようなものが聞こえた。


「あれは・・・商人?」


 声の方へと向かうと、木の影で雨をしのいでいる馬車と男の人たちを見つけた。四人組だ。うち三人は武装している。恐らく、一人が商人で他はその護衛だろう。


 商人、か。何となくだけど、色々と知っていそうなイメージ。


「・・・ねえ、魔族領ってどっち?」

「な、なんだお前は!?」


 なので、直接聞いてみることにした。


 私の力はリボルトには通用したけれど、実際どれ程のものかは分からない。リボルトが弱すぎた可能性もある。


 ・・・ただ、この商人の元にいた護衛は、私でも”殺せる”。だから危険はない。


 何となく、直感的にそう思った。


「じ、獣人だ! お、お前たち、私を守れ!」

「「ああ」」


 護衛の男三人が剣を持って私に立ち塞がる。まったく、私は魔族領について教えてもらいたいだなのに。なるべく争い事は避けたい。


 ・・・ああでも、別にいいか。私が殺したくないのはセレネアさんたちだ。それ以外の大嫌いな”人間”を殺したところで、もうどうでもいい。


「邪魔」


 私は指先から魔力弾を放つ。


 それは、目に見えない程の速さで飛ばされた、小さな弾丸だ。弾丸に気づきもしない人間たちは、無様にもその頭を撃ち抜かれて倒れた。


 なんとも呆気ない。やっぱり、私の力はこの人たちくらいになら通用するらしい。・・・だけど、なんだか胸がざわつく。


 一撃で脳を貫く感覚、それに対して浮かんできてしまう”これじゃ物足りない”という感情。それを、私は必死に押し殺す。


「ひ、ひぃいい! やめてくれ、ころさないでくれぇ!」

「・・・ねえ、魔族領には、どうやって行くの?」


怯える商人に、私は淡々と尋ねた。


「ま、魔族領!? それなら、ここから北に行って・・・」

「それじゃあ分かんない。地図ある? 無ければ書いて」

「は、はいぃ!」


商人は慌てて荷台から大きな地図を取り出し、持っていたペンで印を付けた。この場所から魔族領に行くまでの大まかな道筋を書いてくれたようだ。


「ありがと」

「お願いします、命だけは・・・」

「・・・」


 邪魔する人は容赦なく殺す。


 正直、人間が死のうともう何とも思わないし。それじゃあ、この人間はどうだろう。戦闘力もないし、魔族領への行き方も教えてくれた。


 ────けど、こいつは生きてたらきっと私のことを街についたら言うだろう。そしたら、そのせいでセレネアさんたちも見つかってしまうかもしれない。


 なら・・・目撃者は消した方がいい。


「ごめんね」


 そう言って、私は頭を下げる行商人に魔力弾を撃った。瞬きする間もなく、弾丸は脳を貫き、商人は護衛たちと同じように倒れた。


「・・・・・・はあ、はあ、はあ」


 緊張が解けたのか、息を吐き出す。どうやら呼吸を忘れていたらしい。


 ・・・私は今、無抵抗の人間を殺した。助けてくれと懇願する人間を殺した。殺して、しまった。


 やめろ。考えるな。


 魔族領への行き方を知るためには彼らが必要だったし、姿を見られてるんだからどの道殺す必要があった。今の私にとって人間はもう敵なんだ。


 だから、殺したって別に構わない。・・・その、はずなんだ。


「そ、そうだ。地図、確認しないと」


 商人に書かせた地図を手に取り、見てみる。


 ・・・遠い。まず初めにそう思った。


 地図を見る限り、人族と魔族の領地はとても遠い。それに加え、互いに戦争中なのだから、簡単に人族領から魔族領へ行ける訳でもない。


 他にも難所は沢山ある。それに、今の私に出来るのは誰でも出来るような魔力操作のみ。それでここから魔族領まで行くのは、至難の業だ。


 だけど、向かってみないことには何も始まらない。取り敢えず、行ける所まで行ってみよう。



◇◇◇



 それから私は、魔族領へ向けて歩き出した。


 魔力操作による身体強化のおかげで、身体能力や体力が向上し、普通に行くよりかはずっと速く、そして長く進めていると思う。


 それでも、気が遠なるような距離だ。


 道中は野宿して、食糧は森などにいる動物を狩る。動物を殺すことに抵抗があるかとも思ったけれど、空腹もあって意外とすんなり出来てしまった。


 時々旅人や行商人を襲って現在位置を確認しつつ、私はひたすら魔族領を目指した。



 そして、三ヶ月ほどが過ぎ────




「・・・もうすぐ、魔族領・・・」


 徒歩としては異例の速さで、私は魔族領目前の所まで来ていた。


 しかし、ここからが最大の難所だ。今私がいるのは、人族領と魔族領の間にある、巨大な山脈《ヴィルノ山脈》だ。


 さて、考え無しにここまで来たけれど、これからどうしようか。


 普通に考えればこれを登るだけなんだけど・・・話はそう簡単じゃない。この山脈は通称《死の山脈》と呼ばれており、凶悪な魔物がうじゃうじゃといるらしい。


 そんな場所に行って生きていられる自信は、はっきり言ってない。


 そもそも、これは正規ルートではないのだ。むしろ邪道。じゃあ正規ルートってのは何なのかっていうと、現在進行形で戦争中の人族領と魔族領の境界線を突っ切ることだ。


 けど、まずもってそんなのは無理。


 そもそもここは人族領の中でも最も魔族領に近い場所、その警備は厳重だ。魔族がいると分かったら、即様袋叩きにされるに違いない。


 一応、他にも密輸船にこっそり乗るとかルートはあるけれど、どれも人族に見つかる可能性が高い。


 一番確実に行けるルートは、ここしかない。


「・・・出来るだけ、人間は避けたいし」


 もし、人族に見つかったとしても、ある程度の抵抗は出来るかもしれない。


 これまで旅してきた分かったが、私の魔力操作技術は他の人間と比べても相当高い方らしい。あと、純粋に魔力量も多いようだ。


 そのおかげか、私は大抵の人間には勝てた。



 しかし、当然の事ながら、最強ではない。



 私より強い人なんて全然いるし、罠なんかが得意な人だっている。私は決して万能じゃない。何なら出来ないことの方が多いんだ。


 だから、人間は極力避けた方が懸命だと思う。


「でも、どうすればいいかな」


 とはいえ、ここの魔物たちに私が勝てる保証も当然ない。行くなら慎重にいかないと。


 でも、慎重に動くにしてもこの耳と尻尾が邪魔だ。


 今の私の服装は、メイド服の上に道中商人から奪った黒のフード付きマントだ。しかしマントといえど、この大きな耳と尻尾は隠せない。


 人族の街にでも入ったらすぐに見つかるだろうし、この山脈を越えられるとも思えない。先程も言った通り、私は特別優れているわけでもないのだ。


 一体、どうしたら─────



「─────っ!?」


 誰か来る。


 もともと獣人は感覚の鋭い種族だけれど、私は魔力操作の応用で、周囲の魔力反応に敏感に気付けるようになった。間違いない。誰かが近づいてきてる。


 私はすぐさま近くの茂みに身を隠す。体内の魔力を操作し、気配を消す。そして必死に息を殺した。


「・・・む? 確かに今ここで気配がしたんだがな・・・」


 男の人の声だ。どうやら気配を消すのには成功したみたいだけど・・・さてどうしようしようか。


 正直戦いは避けたい。たとえ勝てたとしても、こんな所で人間に見つかったら、増援が来ておしまいだ。なら、ここはバレずに逃げたいところだけど。


 一か八か、ここはこっそりと・・・



 バキッ。



 木の枝を、踏んでしまった。


「そこか!」


 私のバカ!


 まずい、バレた。どうしよう。逃げる? 戦う? この状況どうするのが正解で・・・



「待て! 俺は魔族だ!」

「・・・え?」


 その言葉に、私は軽率にも足を止め、そっと振り返ってしまった。だが、目の前にいたのは、青髪に黒い角が二本生えた──────



 ────────《鬼人》だった。


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