レベル2 パイプの夢々
あぁまずい、非常に不味い。この暑さで頭もクラクラしてきた。さっきから酷く目眩がする。だが俺はこんなとこで挫けてられない。聡は気を失い俺の背にもたれかかっている。物凄い汗を流している。この汗の量なら脱水症状も引き起こしているはずだ。大丈夫、俺は体力もあるし、筋力もある。こんな状態でも聡を背負いながら歩くことはできている…しかし一体ここに入ってから何時間経過したんだ?もう覚えていない。だがそんなことを考えている暇はない。こうしている間にも通路は徐々に、だが確実にパイプで通路が狭くなっていく。何処かに出口を、出口を探さなくては…このままでは俺たち2人ともパイプの熱気で茹でられ死んでしまう…!!
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「しかし調べた通り蒸し暑いな」
俺は歩きながら健二にそう問いかけた。
「そりゃあそうだろうよ、なんせこのパイプの中は高温の蒸気が流れてるんだ。蒸し暑くもなるだろうよ」
そんな話を俺は健二としていた。何かの世間話を暑さを誤魔化さないとやってられない。それほど蒸し暑かった。現在俺たちはレベル2の階層内を歩き回っていた。事前にリサーチしていた通り階層内は大まかにコンクリートの道で出来ていてその天井や壁に高温の蒸気が流れているパイプが張り巡らされていた。このパイプから漏れ出てくる蒸気により階層内は想像を絶するような蒸し暑さに襲われる。先程から汗が止まらない。
「こんなもん、すぐに水飲み干しちまうよ」
「こら聡、大事な水分なんだ。ちゃんと大切に飲めよ」
「わかってるよ、そんなガバガバ飲まないさ」
そう言い口の中を湿らす程度に水を含みながら、俺は昨日の事を振り返っていた。
『いいか、次に俺たちが潜る層はとにかく蒸し暑いらしい、そのためその蒸し暑さに対処するため大量の水を持っていく。荷物が重くなるだろうからそれは俺に任せろ。次の階層に着いたらとにかく出口を探すんだ。』
昨日は作戦会議をし、俺たちなりの対処法も考えた。俺もそれに頷いたがまさかここまで暑いとは思いも寄らなかった。
さっさとこんな場所からはおさらばしたいものだ。
「本当に…さっさと次の層に行きたいもんだ」
俺は心からそう思った。
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ただ蒸し暑くてしんどい階層、そう思っていたのだが、進めば進む程だんだん道が狭くなっている気がする。そのせいで温度的には変わっていないはずなのだが直接蒸気が肌に当たってさらに体が暑くなる。
「なぁ…健二…なんだが道が狭くなっていないか?1回後ろに引き返さないか…?」
「あぁ、俺もそれには薄々気づいている。俺も1回そう思って来た道を見たんだが…どうやらこの層も道が変化しているようだ、来た道もパイプによって狭ばっている」
マジかよ、つまりこのまま進めば…
「聡が思う通り、俺たちはパイプから出る蒸気で湯で殺されてしまう」
……嫌な死に方だなぁ
そんな他人事みたいに考えていた。どうやら暑さによって思考能力が低下しているようだ。
「俺はまだこの暑さに耐えれるが、その様子じゃお前はそうともいかないようだな」
「あぁ…少しぼーっとする」
あまり考えがまとまらない。俺の頭はこの階層から出る事に頭のリソースは割かれていた。
「仕方ねぇな、ほらよっと」
そう健二が呟き、俺の頭に水をぶっかけた。水もこの温度に温かくなっていると思っていたが思いのほか冷たかった。
「うわ!これは…いいのか健二、こんな事に水を使ってしまって…」
「いいんだよ、お前がぶっ倒れちまったら俺がしんどいんだからよ」
俺に気を使わせないよう、健二はそう言った。相変わらずこういうとこは本当に性格の良さが出る
「そうだな、全く…感謝して損したぜ」
「貴様ぁ生意気だな」
そんな軽口を叩けるほど俺の頭は回復した。
「しかし暑い、早くドアを見つけたいな、意外とすぐ近くに…ってなんか広場っぽいのあるぞ」
健二がそう言い辺りを見渡した。すると広い空間に繋がっている道があった
「広場っぽいの?おっ、本当だ!何か手がかりがあるかもしれ知んねぇ!1回行ってみようぜ!」
この階層から脱出する手がかりがあるかもしれない。そんな希望を持ちながら広場に向かった。30秒程歩いて広場に辿り着いた。
「なんだ?ここは」
俺は誰も知らぬ疑問を空に聞いた。その広場は円形の形をしており、その部屋の中央には柱時計らしき機械が佇んでいて非常に不気味な雰囲気をかもしだしていた。その壁にはパイプが張っているものの先程通ってきた道よりは遥かに広かった
「どうやらこの広場内にはパイプはやって来ないみたいだな、それよりあの中央の時計はなんだ?」
健二は辺りを見渡し、やはりこの空間内では異様な柱時計を見ていた。
「見る限りパイプ内の蒸気によって動いてるみたいだな」
「この時計に意味があるのか?」
「今の時刻とも違うみたいだし全く分からないな」
広場にある中央の柱時計は見た感じ全く意味などが見当たらなかった。
「考えても仕方ない、この広場にドアはあるのか?もしあったら最高なんだが、どうだ?健二」
「うむ…察しのついてる通り、パイプしか見当たらないな」
「やっぱりかぁ…」
そんな都合の良い話は無かった。広場には目立った物は柱時計しかなく、特に何も収穫は無かった。俺たちはまたあの道を通らなくてはならない。気分はとても憂鬱だ。
「あぁ!ちくしょう!」
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「本当に…暑いなぁ…」
「暑いと言うから暑いのだ。こういう時は涼しいことを考えろ。」
まだ健二は余裕がありそうだった。かく言う俺は既にフラフラ仕掛けている。先程から思考がまとまらない。
「頑張って耐えてくれ、もう水は1本しかないんだ。無駄遣いは出来ん」
「あぁ…そんなこと…わかっている…」
広場から出て約2時間が経過した。道はまだ人4人ほど歩ける程度にはスペースは空いているがそれでも蒸気が当たる。
「大丈夫…だ、俺はまだ…耐えれる」
「本当にもう無理ってなったら言ってくれ、そんときは俺が頑張って運んでやる」
全く、頼もしいやつだよ、こいつは…
「しかし、やはり堪えるな…っておい聡見ろアレを!」
「なんだ…?ッ!これは...ドアか…!?」
俺が健二に頼もしさを感じている時だった。曲がり角を曲がった先にこの階層から出れる扉があった。俺は少しは歩くスピードを早めた。
「これでようやくこの階層から脱出出来る!やったぞ!聡!」
「あぁ、これでようやく…ッう!…頭が…!」
なんでこんな時に頭痛が!?早く出なくて…は…?そんな俺の頭にある言葉が浮かんできた。
ーーーーーーー先に進めば、死んでしまうーーーーーーー
なんだこれは…?死ぬ…?この先に進めば…?そんなものは戯言だ、この扉から出ればこの暑さから解放…!
ーーーーーーー先に進めば、死んでしまうーーーーーーー
そう思うのに、戯言だと思うのに…体が先に進むのを拒む、暑いはずなのに寒気が止まらない。心のどこかでこの先に進んではダメだと理性に問う、本能が、訴えかけている。先に進むのはダメだと…
「次の階層に乗り込むぞ!さと…る…?」
俺は健二の腕をとり叫んだ
「ダメだ!健二!この先に進んじゃ…ダメなんだよ!この先に進めばきっと死ぬ!俺たちは死んでしまうんだよ!」
「な、何を言ってるんだ聡、今そんな冗談を言っている場合じゃ…」
「さっき頭痛がしたんだ、お前がよく知っている頭痛だ!その頭痛がしたあと、進んだら死ぬって言う言葉が浮かんできたんだ!」
「頭痛…言葉が浮かぶ…それを鵜呑みにしてこの先へ進まないというのか!?」
健二もあまり余裕がないのか、必死さに顔を歪ませながら最もな事を叫ぶ。俺だってそう思う…ただ本当に先に進んだら死んでしまう気がして止まない。
「頼む…!信じて…くれ…!」
俺は暑さと突発的に起きた頭痛によって、捨て台詞を吐きながら気を失った。
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俺は目の前で気を失った聡を見て考えていた。
聡は何を言っている。きっと暑さで頭がこんがらがっているんだ。ここから出られるチャンスなんだぞ!早くこんな暑い場所から出たいはずだろ!?
そんな恨みつらみは死ぬほど出てくる。だが聡が言った言葉が脳裏から離れなかった。
『ダメだ!健二!この先に進んじゃ…ダメなんだよ!この先に進めばきっと死ぬ!俺たちは死んでしまうんだよ!』
『頼む…!信じて…くれ…!』
妄想幻想だと吐き捨てるのは簡単だ。だがもしこの言葉が本当なら…確証はない、だが信じてみる証拠はある。今まであいつの頭痛が起きたことで避けられたハプニングは数多くあった。その都度あいつはたまたまだの偶然だの言っていたが…この局面だ、すぐそこにはこの暑く腹ただしい階層から出られるかもしれない扉がある、ただ俺よりも暑さに参っている聡が行くなと言った。ならここは親友の頼みを聞く以外の選択肢はない!
「ふっ、恨むぜ聡!」
俺は聡を背負い、扉を背にして先に進んだ。
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聡を背負い歩き出して何時間か経過した。この階層に入ってから一体どれほどの時間がたっただろう。進んだことによりパイプが道を狭くし、大人1人半の道しか空いていないため背負っていたバッグを道に捨てスペースを確保していた。頼みの綱の水は聡にあらかた飲ませ、残りの数10mLを口に含む。流石に男一人を背負いながらこの高温の空間を数時間歩き続けるのはとてもしんどい。だが苦しいのは聡も一緒だ、むしろこんな暑苦しい空間で天井からの蒸気に当たっているのだ。
「安心…しろ、聡…!俺が必ずお前を…助ける!」
気を失う前の聡にあんな啖呵を切ったのだ、ここで折れると男が廃る、とは言え心体共々に異常を来たしていた。男1人背負ったまま歩き続けたことによる疲労、刻々と迫るパイプによる精神的ストレス、暑さによる集中力低下、物資不足による水分不足、相方が倒れたことによる精神的負荷、正直いっていつ倒れてもおかしくないぐらいだった。それでも俺を突き動かすのは俺の唯一の親友、聡だった。
「男は度胸だとは…よく言ったものだ…案外根性論ってのは馬鹿に出来ないのかもな…」
そんな軽口を俺は空に呟いた。もうあまり思考が纏まらない、出口は一体どこなんだ…早くこの空間から抜け出したい。そんな事を数えても数え切れない程考えながら曲がり角を曲がった直後だった。
「あれは…エレベーター…?」
そこにはこの階層に来て2度目の機械登場だった。
「エレベーター…?こんなとこに…?でももうここしかない…!一刻も…早く…入らなくては…」
そんな藁にもすがる思いでエレベーターに向かって走った。到底走っているとは思えないスピードだったがそれが今出せる全速力だった。
「ここから…早く…」
俺はそのままエレベーターの中の壁に激突した。今まで貯めてきた疲労がどっと押し寄せて来た。
「やっ…と…ここから出れる…聡……やった…ぞ…」
俺はエレベーター内でそのまま達成感に満たされながら意識を彼方へ飛ばした。