レベル1 生存可能領域
「…んあぁ?俺ら、逃げきれた…のか?」
「あぁ、そうみたいだな…」
俺達は頭を擦りながら立ち上がる。どうやらあの怪物から逃げきれたようだ。しかし、あの高さから飛び降りて怪我ひとつないとはどういうことだ?
「なぁ健二、お前怪我ないか?」
「お?あぁそういえばあの高さから落ちたのに無事だな」
「だよな、本当にどこも怪我なんてしてない…てか今度はどんな場所だ?」
辺りを見渡すと先程の空間と似たような景色が広がっていた。倉庫のような壁に白色の蛍光灯、むき出しの鉄筋が目に入る。腰あたりまで霧が立ち込めてあり、床などに結露して水溜まりが出来上がっている。
さらに注意深く観察を続けていくと箱が点在している。
「やっぱりここも不気味だな、そういえばスマホは、使えるか?」
「あぁそうだったな、ちょっと調べてるからお前は辺りの散策をしてくれ」
そう言って健二はスマホで何かを検索し始めた。
やることも特にないので俺は健二の提案通りに辺りの探索をしてみることにした。
せっかくなのですぐ近くにあるこの箱を開けようする。
箱の作りとしては鍵穴などかかっておらず、少々開けづらく力がいる程度の簡単な作りだ。
「よっ...しょっと」
力を入れ開けてみると、そこには500mlの水が入ったペットボトルにどこの国の物かわからないが、5枚ぐらい硬貨が入っていた。
「水はありがたいがこの硬貨はなんなんだ?」
何に役立つかは知らないがひとまずバックの中に入れた。俺は手に入ったペットボトルに口をつけ走り回って乾いた喉を潤す。
「っかぁ!こんなに水がうまいとは思わなかった」
水で喉を潤したあと更に捜索を続けてみた、箱を見つけた地点から約10mほど歩いたところにすでに開けられていた補給箱があった。その周りには空になったペットボトルにタイヤが落ちていた。
「誰かがここで物資を漁っていた...?」
それはまさしく自分たち以外の知的生命体及び人間がいるかも知れないという可能性が出てきた。
「これは、大発見だな...」
いろいろな発見をし、ほくほく顔で健二がいる地点へ帰還してきた。
「おい健二、大収穫だ!ひとまずここには人間がいた形跡があったぞ。お前はどんな情報を掴んだ?」
そんなことを声高らかに健二へそう声をかけた、すると健二は苦渋を舐めたような顔を俺に向けながら言った
「なぁ聡、俺たちはもう地上に帰れないかもしれない」
...こいつは今、なって言った?
「おい..どういうことなんだよ?地上に戻れないって...」
「聞いてのとおりだ、俺たちはこの空間、もとい迷宮から脱出が出来ない」
「待て!待て待て!俺が言いたいのはそういうことじゃゃなくてよ!!!...いや、ちょっと取り乱した、どうして帰れないんだ」
「まず俺たちは現実世界の【バグ】にあったんだ、そして俗に言う床すり抜けバグにハマってしまった」
バグ?そんなゲームみたいなことが本当にリアルで起きたというのか、とても信じられない。
「そして俺たちは現実世界の裏側、【BUCK ROOM】に入り込んでしまったんだ」
...こいつは何を言ってるんだ。そんなこと本当に、、、本当に現実で起きているんだよなぁ
「なかなか信じられることじゃないが、実際に起きているんだ現実を受け止めてくれ。それからさらに調べたんだが裏世界にも階層があるらしいんだ」
「階層...なんだかダンジョンみたいだな」
「そんな認識で大丈夫だと思う、だが幸いなことにこんな場所にも俺たちのような迷人が集落を築いている階層があるらしいんだ!今いる階層より更に下に潜ると会えるらしいぞ」
俺たち以外にもここに迷い込んだ人がいる...そんなことを言われ絶望に染まりかけていた俺の心は少しだけ澄んだ。
「なら今の目標は人間に会うことだな、そういえばお前どこでそんな情報を手に入れたんだ?」
そういえば肝心なことを俺は聞き忘れていた。
「ここならスマホが使えるだろう?それを使って迷い人がネット上でコミュニティを築いて情報を交換しているサイトがあるんだ」
なるほどそんなものがあったのか、おん?待てよ
「ならなんで現実世界では話題に上がらないんだ?そんなものすぐに話題になって今頃大騒ぎだろう?」
「じゃお前ネットサーフィンでこんな記事見つけたとしよう、お前それが本当のことだとおもうか」
うむ、間違いないな、俺も間違いなく偽物だと思うだろう
「そういえばここの階層の情報はないのか?なにか攻略のヒントになる情報がコミュニティに載っているかもしれない」
「そうだな、まず各階層があると言っただろう?各階層の総称をレベルという。そしてここはレベル1の階層らしいんだ」
「レベル1だって?2じゃないのか?」
「俺たちが一番最初に迷い込んだのがロビーと言ってレベル0になるんだ」
ふむ、この感じだと下に行けば行くほどレベルの値は増えるという感じなのかな
「そしてこの階層の特徴としては『補給箱がランダムに出現し、その中には重要物資と無意味な物資が一つずつ入っている、証明が点滅するたびに数分から数時間ほどの間にモンスターが不意に出現したり物資が不可解に消失したりする。モンスターは人の集まりや光源を避ける習性があり光源を所持することにより戦闘を避けることができる』って書いている。あとこの階層にある水は純水で飲めるんだってよ」
「光か、とりあえず光源はスマホで代用するとして…ひとまず物資を揃えて次の階層に行こうか」
「そうだな、準備ができ次第、次の階層に入るか」
俺たちは当面の目標を決め、物資を収集し始めることにした
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この階層内の探検は前回の階層と比べ格段に探索がしやすかった。まずモンスター、もといエンティティが光源に弱いというとこで安全に戦闘が避けれた。さらに階層内を進むにつれ、物資がだんだん潤っていくのだ。そのおかげで武器や食料、日用品などが手に入った。補給箱に拳銃やスモークがあったのは流石に驚いたのだが…
「何はともあれ準備は完全に整った、食料や武器も調達したし次の探検にも不自由なく行けるぜ」
俺は自信満々に言った。
バックパックの中身は拳銃にペットボトル、スモークグレネードにモバイルバッテリー、包帯やガーゼ、鎮痛薬などの医薬品などを詰め込んでいる。健二も似たり寄ったりな中身だ。
方針が決まり俺たちはこの階層内を右往左往しながらも約一週間程彷徨った。来た道を辿ろうにも何故か変化しているし、そもそも前回の階層とは打って変わって奇妙な絵や多種多様な構造もあったので非常に苦労した。
「見つけだぞ!おーい聡!こっちに穴が開いてるぞ!」
と別々で探索していた健二から嬉しい報告を聞いた。
「ふぅー、やっと見つけたぜ、こいつ探し始めてもう何時間も経っているな。もう足がパンパンだ」
そう言いながら健二は地面に座り軽いストレッチをし始めた
「さぁここから先にはどんなものが待ち潜んでいるんだ?」
「んなもん、コミュニティ見れば一発じゃねぇか」
「確かに事前に見てはいるが実際の構造とは違うかもしれないじゃないか、ちゃんと用心しなくては」
「まぁそういうのは着いてから考えようぜ、とにかくここを飛び降りなきゃ進まねぇ!行くぞ聡!」
「おうよ!」
そうして俺たちは一抹の不安や、少しの希望を持ってまた、闇に飛び込んでいった。