滅びろ、迷惑隣人~入居時に適性検査を~
私は今座満。35歳。妻と小学2年生の娘がいる。
節約を頑張り、やっとまとまったお金ができたので、
夢のマイホームを買った。
とは言っても、首都圏の新築マンションは給与に反して爆上がり。
中古で探すしかなかった。
私が勤めている会社では、マンション購入時に指定の不動産屋を利用すると、
多少の割引がある。
福利厚生の一環だ。
ただこの不動産屋が厄介で、利用者は決して口外してはいけない契約になっている。
でもどうしても皆さんに知ってほしい。。。
だから、これは独り言だ。
あくまでも独り言だ。
皆さんは、あくまで私の日記をのぞき見しているていでお願いしたい。
ある休日、家族とその不動産屋に足を運んだ。仮にABC不動産としよう。
外見は至って普通の不動産屋で、どこにでもあるような感じ。
だが自動ドアを抜けると、そこには高級ホテルのロビーの様な広々とした空間に
ゆったりとした雰囲気が漂い、豪華なシャンデリアが輝いていた。
受付に向かい、スタッフに尋ねた。
「13時に予約した、今座です。」
「今座様ですね。お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
我々は個室に通された。そこは担当者のオフィスになっていた。
「今座様。本日はお越しいただき、誠にありがとうございます。
本件担当致します、早部と申します。」
非常に気分が良い。
自分で言うのも何だが、私は短気でマナーにうるさい。
何かとイライラしてしまう性格だが、
自動ドアを通ってから一回も苛立っていない。
奇跡だ。
「いつも弊社が大変お世話になっております。改めて、御礼申し上げます。」
「評判がとても良いので、気になってたんですよ。」
「それは嬉しいお言葉です。」
と、まぁたわいもない会話を交わし、本題に入った。
「さて、本日は…」
「そろそろマイホームを購入しようと思いまして、」
「承知しました。ご要望など、聞かせていただけますか?」
「マンションで、金銭面を考慮すると中古かなと…あと、舘谷駅から徒歩10分圏内で、4LDKで…」
「承知しました。では順を追って詳細を聞いてまいりますね。」
30分くらい話しただろうか。
「何件かお持ちしました。舘谷駅から徒歩10分圏内で4LDK、価格帯は3千万~4千万。
近隣には小学校、病院、スーパーもありますし、治安は良いエリアとなっております。
よろしければ内覧はいかがでしょうか?」
「お願いします。」
内覧は3件回った。
相変わらず案内もスムーズ且つ丁寧であった。
中古にもかかわらず、どの物件も良さそうだったが、
後悔したくないので他の不動産屋も行ってみることにした。
「物件は時間が経つと変わりますので、またいつでもいらしてください」
「はい、またよろしくお願いします。」
そしてその日はABC不動産を後にした。
「早部さん、すごく感じが良かったわね!」
「そうだな、珍しく終始良い気分だったよ。」
「おうちきめたのー?」
「まだだよ。ほかにもおうちみてみないとだな。」
他の不動産屋も回ってみたが、担当者がイマイチで物件もそこそこだったので、
3ヶ月ぶりにABC不動産に再訪することにした。
「お待ちしておりました、今座様。」
また相変わらず早部さんは爽やかだ。
「他の所も回ったんですけどね、イマイチで。」
「左様でしたか。前回と同じ条件ですと本日は2件しかご紹介できませんが、
内覧いかがでしょうか。」
「お願いします。」
2件回った後、妻と娘と相談し、1件目を第一候補にした。
「1件目が良かったので、別の日にまた見に来たいんですが。
今日は土曜日なので、平日の夕方とか。周辺環境を見極めたくて。」
「もちろんでございます。では、来週の火・水あたりはいかがでしょうか。
急で申し訳ございませんが、他の方も検討されるかもしれませんので。」
「そうですね、では火曜日の16時でお願いできますか。」
「承知しました。お待ちしております。こちらの物件、私も良いなと思っていたんです。
小学校も中学校も近く、スーパーも近く、駅は徒歩10分と少しありますが、夜も街灯が明るくて。
交番も駅までの道中にありますし。」
「そうですね、全部で10件近く見ましたが、一番良さそうです。妻と娘も気に入ったようですし。」
月曜日の夜、会社帰りに舘谷駅に寄り、物件まで歩いてみた。
時間は20時だった。早部さんの仰った通りで街灯が明るく、物騒な感じはなかった。
バイクは通るが、頻繁ではないので許容範囲だ。
とりあえず、平日の夜は合格。
そして火曜日。
この日は通勤ラッシュや登校時間にこの周辺を訪れてみた。
そして隣駅含め探検をして、16時に早部さんと落ち合った。
「今日は朝来てみたんですけど、駅が少し混むんですね。でも割と静かで良い地域ですね。
通学路も整備されていて、車のマナーも良い。これなら安心ですね。」
「気に入って頂けて良かったです。」
最終的に物件の中を見て、決めた。
「では、ここにします。」
「おうちきまったね!」
「うん、あたらしいおうち、たのしみだね!私もここ気に入ったわ。」
「そう仰っていただけて、何よりです。では、弊社に戻りまして手続きという流れになりますが、
お時間頂戴出来ますでしょうか。」
「はい、お願い致します。」
「では暫くの間、車内でおくつろぎくださいませ。」
そして、あのシャンデリアが煌々としているロビーを通り、早部さんのオフィスへ通された。
「ではお手続きさせて頂きます。弊社は入居時にあたって適性検査を受検して頂いておりますので
ご了承ください。」
「えっ???」
思わず妻と顔を見合わせてしまった。
「大変申し訳ございません。本当は内覧時にお伝えできればよかったのですが。
お伝えしてしまうと心落ち着けて物件を見ることができないと思いまして。
弊社の規定で、契約の手続き時にならないと言ってはいけないんです。」
「その適性検査は、何のためにやるんですか?」
「はい、迷惑非常識人間をあぶりだすためにやっております。
結局、隣人がそういう人間だとすぐ引っ越さざるを得なかったりするんです。
この国では被害者が我慢しなければならないんです。
そういう理不尽をなくすために、弊社ではこのようなシステムを設けております。」
「はぁ…」
「ちなみに、うちの物件では隣人トラブルが起きたら即対応しております。同じことで苦情が2回来る
と強制退去になります。」
「適性検査は厳しいんですか?」
「はい、嘘はすぐにバレますので、正直にお答え頂きますよう、お願い致します。」
「そうですか…」
「では、適性検査についてご説明いたしますね。」
入居時適性検査は3部構成で、以下のようになっていた。
1.性格診断
2.常識レベル
3.実技
ランクはC〜Sランク。
Cランクになるにつれ、非常識度が増すというわけだ。
以上は私と妻が受けるもの。娘には実技のみが課された。
判定する人は、早部さん含めたABC不動産の3人。
マナーに厳しそうな人ばかりだった。
1.性格診断は、入社試験の際に受けるようなものだった。
2.常識レベルは多岐にわたった。
運転時、公共交通機関利用時を含む、生活における様々なシーンで問われるモラルについて
出題された。
あと、一番出題数が多かったのがマンションにおけるマナーだった。
3.実技はマンションの一室が再現されている部屋に通された。
早部さん達に、『イスに座ってください、掃除機をかけてください、
ベランダに洗濯物を干してください、自由に遊んでください』などと様々な指示を受けた。
家具を動かす際に引きずるか、子供は走り回るか、走り回るならどのような対策をするか。
ベランダはどのように使用するか。などを見られたと思われる。
多少緊張はしたが、普段通りの行動を見せた。
試験が終わった後、別室に通され、暫く待った。
コンコンとノック音がした。
先程の試験官3人が入室し、席に着いた。
「今座様、結果がでましたのでお知らせいたします。
ランクはAでございます。よって、提示価格より割引が入ります。
割引率はこちらの表を参照ください。」
「こんなに割り引かれるんですか?」
「はい、また見ていただいたお部屋ですが、あちらはBランクのお部屋ですので、
グレードアップさせて頂きます。グレードアップしても、Aランクの割引適用で予算内には
収まるかと思いますので、検討頂けないでしょうか。」
「あ、部屋の構造は同じですか?」
「はい、同じでございます。」
「では、グレードアップお願い致します。ちなみに、Sランクはどうやったらなれるのでしょか。」
「Sランクは、Aランクに達するスコア且つ、子供がいない人のみ取ることができます。
お友達を連れてきたりすると、どうしてもうるさくなってしまうシーンが出てきてしまうと
思いますので。」
「なるほど…」
「あと強制退去についてご説明いたします。同じ内容の苦情が2回来ると強制退去です。
規約違反は1回で強制退去です。ですので、こちらの管理規約を隅々までお読みいただき、
わからないことがございましたら、速やかに私共にお申し付けくださいませ。」
非常に驚いた不動産屋だ。
これは口外したら色々と問題になりそうだ。
だが、スタッフは皆丁寧な接客だったので、多少の強引さは目をつぶってしまいそうだ。
管理規約は分厚い冊子。
なぜ禁止行為となっているのか、具体例を交えて説明されているので、読みごたえがある内容だ。
さて、今このマンションに住んで3か月経った。
住民はすれ違うと挨拶を交わし、良好な関係を保っている。
ゴミ出しのマナーや騒音、ベランダの使い方も言うことなし。
ランクによって階が分かれていて、低層階は非常識人間が住んでいるが、
あまりに酷いと強制退去させられるので、まぁ隣人でなければ害はないレベル。
苦情が来るのではないかと冷や冷やするが、今のところ大丈夫そうだ。
これが噂のABC不動産。
あくまで独り言だ。
ここからは独り言ではなく、私の持論だ。
実は、私は昔から隣人ガチャが外れることが多かった。
以前住んでいたマンションの隣はベランダの手すりに布団を干す際に、
堂々とこちらにはみ出して干したり、プランターの水を流してきたり。
早朝にはデッキブラシでベランダ掃除を始めたり。
無意味な布団叩きを爆音でして埃やウイルスをまき散らす。
とにかく非常識極まりなかった。
上の階は子供が四六時中走り回り、管理人や管理会社が注意しても聞く耳持たず。
挙句の果てに開き直られた。
『子供のすることなので』と。
これはもうこの国では通用しない。今は令和の時代。
幸か不幸か、在宅勤務が普及し家にいる時間が増えた。
以前は我慢できていた音でも騒音となり、苦情対象になっているのだ。
騒音で殺人事件が起きているのだから、国は軽視せず法整備に取り組むべきだと思う。
日本は子供嫌いが増えたというが、
『子育て大変だから、手伝ってもらって当たり前、譲ってもらって当たり前、
子供がやった事なのにそんなこと言うの?』
こんな態度の親を助けたいとは到底思えない。
親はスマホに夢中。子供がフラフラと線路に落ちても気づかない。
それなのにホームドアがないからと責任転嫁。
大した玉だ。
道路で平気でボール遊びをして、他人の車を傷つけても悪びれる素振り無し。
学校で道徳という教科を作るべきだと思う。
自分のことで精一杯でまだ子供の思考回路を持つ親から生まれてくる子供は、
また非常識になり、遺伝するのだ。
だから、親になるにも適性検査が必要だと思った。
段々話がずれそうなので、また違うシリーズでお話したいと思う。
ではまた。