ずるいずるいと私のものをとりあげる妹をいじめた姉とされ、王太子殿下に婚約破棄され辺境送りになりもう10年、なぜか魔法協会支部の受付嬢やってます! 元婚約者が妹のためにと魔法の依頼をしてきたのですが
「……どうしてこんな遠くまでやってきたのイリューシア?」
「あれから逃げるためですわ」
「ああ、あのすごい妹さんね」
「そうですわ」
私は魔法協会の支部にいます。実は私は公爵の令嬢であり、魔法使いというものは賎しいものがなる身分と貴族の間では言われていまして……。
こちらにいるということは私はなんらかの問題を抱えた人かとんでもない物好きということになり。
私は前者でした。
私は今28歳、完全にいきおくれといわれる年齢で、もう貴族には嫁げないかなあとは思っておりました。
「婚約者を奪い取って、挙句にあなたに無実の罪を着せたという……」
「ええそうですわ」
私はローズフィアとほどネームバリューもなく、魔力は中の上、上にのぼりつめることはできないということはわかっていました。
しかし、ここにきたのはわけがあり。
「しかしライゼン公国の王妃になる運命だった人が、魔法協会支部の受付とは……」
「今のほうがあの時よりは心地よいわ」
私は受付に同僚と二人座っています。ライゼン公国は私の故郷、しかしもう10年ほど帰っていません。
「……はい、いらっしゃいませ、受付はこちらでございます」
にっこりと笑い私は訪ねてきた人に声をかける。ええ、受付にいられるのはたぶん後2年が精々、30をすぎたら内勤ですわ。
でもここにいる限りは魔力が0のあの人からは逃れられます……。
魔法協会支部、アーゼンに私はいまいますが。私は実は18歳まではライゼンの公爵イフェックの家の長女で、ライゼンの王太子の婚約者でした。
『エミリア・イフェック、お前は妹のユーリアのことをいじめ、妹のものを盗んだ罪のため、ここに婚約破棄し、辺境送りにする!』
私はエミリアという名前でした。しかし魔法使いとなった人間は名前を変えます。
今はイリューシアという名前になりました。
真実の名前を悟られないようにするためです。真名を奪われることは魔法使いには致命的ですから。
ライゼンは武力をよしとする国であり、魔法使いは軟弱とされ、魔力持ちといえども別に優遇はされておりませんでした。武勇が貴ばれます。
「……あの時から10年ですか」
わが妹はいつもずるいずるいというのが口癖で、私はいつも大切なものをあれに奪われる人生でした。
妹だから優しくしてやれと両親に言われて、私もそれが当然だと思ってました。
「何か外に出ると違ったわねえ」
仕事を終えて、私は下宿に帰って、今日の一杯を楽しみます。
お酒なんて飲めなかったけど、どうもあのバカのことを思い出すと飲みたくなるのです。
「……お姉さんだから我慢しろが当然じゃないなんて」
私はいつもいつも妹の我儘につきあわされました。やっとあれから解放される! となったら王太子殿下に妹がいいより、「私をいつもいじめる怖いお姉さま」ということを彼に吹き込んで。
婚約破棄の上、私は辺境送りになったのです。
そこで修道院の院長に魔力の強さを見出され、アーゼンの魔法協会支部を紹介してもらって、魔女になりました。
魔女といっても独り立ちできるほどの魔力はなく、支部の事務員兼受付です。
「……いらっしゃいま……」
私はいつものように笑顔を来客に向けると、そこには私の元婚約者がいました……。
「レオン様?」
「エミリア、久しぶりもう10年か」
しかし、どうしてここに? 供もつけていません。彼は「私」に用事があるというのです。
しかしどうして? すると彼は言いづらいといったように頭を掻くのです。仕方なしに応接室に案内し、支部長に話をつけました。
「でもどうして今更……」
「ユーリが隣国の王妃の持っている『夢の首飾り』を欲しいと言い出した」
「……あのマジックアイテムを」
「よい夢を見られるという伝説のアイテムだ、しかしそんなものを譲ってもらえるわけがない」
ああ、こうしてみると少し髪が薄くなってますわ。あれに今度はあなたが苦労をかけられていますのねでも同情はしませんわ。
「なので、同じようなアイテムがあれば、魔法協会を通して譲ってもらえないかと」
「無理ですね、あれは伝説級のSですし」
あれは規格外のアイテムです。私はアーティファクトについては保管されてはいますがあれと同じものはこの世界にはないですと頭を振ります。
「……やはりか」
「あれに我慢させるしかないですわ」
「ほしいほしいずるいずるいと毎日言われて頭がおかしくなりそうで……」
「あなたが選んだ道ですわよ」
私はあれに解放されたのに、またどうしてあれのために動かないとだめなんだ? と思います。
しかしどうしてもどうしてもと彼が言うのですわよ。
「……ローズフィアという魔女があれを持っていると」
「彼女クラスの魔法使いなんて私では無理ですわ……いいえもしかしたら」
「え?」
「少し待っていてください、なんとかなるかもしれませんわ」
私は彼女とは顔見知り、実は彼女も私と似たような過去を持っていまして、その共通点もあり、たまに会合でお互いの愚痴などを言い合う仲ではあったのです。
「……ありがとう」
私、実は彼女が最近手に入れたアーティファクトのことを聞いて、あれに復讐できるかもと思ったのです。ええ。私、あの時のことを忘れてはいませんの! だって私、修道院で大層苦労しましたのよ。
見てなさい!
「シア、私の持っているアーティファクトは~、あなたの探してるものではありませんわ~」
「これでいいのですわ、ありがとう……フィア」
「別にいいですけど~、復讐って甘美な響きですわねえ。気持ちはわかりますし~」
にこにこと笑うフィア、私は彼女の人当たりの良い笑顔の中に闇があるのは知っています。
私も同じですわ、たぶん……彼女も性質の悪い女に騙された王太子に婚約破棄されましたもの。
私はアーティファクトを受け取り、ニヤッと笑ったのでした。見かけは夢の首飾りそっくりですわ。
うふふふふふ、これで私も夢で過去を見て飛び上がって起きることもなくなりそうですわ。
「ライゼン公国の王妃が、悪夢に苛まれ、眠れなくなって、とうとう心身衰弱で実家に戻られたそうね」
「ええそうらしいわね」
「妹さん、大変ね」
「ええ」
私は同僚と一緒に受付に座りながら、とりとめもない話をしていました。
ライゼンは武を貴ぶ、心身の健康を貴ぶのですわ、病弱な王妃なんぞいらないってことですわね。
しかしレオン様、あれにかなり悩まされていたようで、私が渡したアーティファクトについてつっこみなんぞいれず、返還してきましたわね。
……良い夢ではなく、悪夢を見る首飾り、ずっとずっと付きまとう悪夢、永久の悪夢。
眠るたびに見る悪夢ですわ。いちど付けたら一生涯、悪夢を見続ける、伝説級のアーティファクト、禁じられた首飾り。
「……できたら次は」
「どうしたの?」
「なんでもありませんわ」
私はこれだけで許してなんかあげません、まだ過去の悪夢を見て飛び起きる日があるのですわ。
殿下、今は陛下、そして実家のあの両親、あの人たちに思い知らせないと、たぶんこのままですわ。
この10年ずっとこんな感じですのよ、なんというか心の傷って年月が解決してくれませんのよね。
「そういえばデートに誘われたんじゃなかった?」
「クリスでしょ? 今は忙しいから断りましたわ」
「惜しいわね、彼有望株よ」
「過去を清算したら……考えますわ」
「そう……」
ずっと一緒の同僚はそれ以上突っ込みを入れず、がんばれと小さく声をかけてくれました。
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